第六章 仲間と本音②
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第二節 「ゼクトの提案」
日が落ちてしばらく、四人──いや、三人と一匹は、宿の部屋でのんびりと過ごしていた。
窓の外はすっかり暮色に染まり、通りを行き交う人の声も少なくなっている。部屋の隅ではランプの淡い明かりが、壁や家具の輪郭をやわらかく縁取っていた。
アトラは買い出しに出かけたままで、まだ戻ってきていない。残された三人は、テーブルの上に置かれた湯気立つカップを手に、それぞれ思い思いの姿勢で腰を落ち着けていた。
リウネはトワの膝の上で丸くなり、尻尾だけが小さく揺れている。まるで、そのリズムで時間を計っているかのようだった。
「で、ゼクト。話ってなに?」
不意にリウネが口を開いた。琥珀色の瞳でじっとゼクトを見上げる。尻尾の動きはぴたりと止まり、その視線は妙に真剣だ。
「……お前らさ。アトラって、どういうやつだと思ってる?」
唐突な問いに、トワが眉をひそめた。
「どうって……無口で、落ち着いてて、冷静な……」
「“何考えてるかわかんねぇ”って感じだろ」
ゼクトは短く言い、ふっと苦笑する。そのまま椅子の背もたれに軽く体を預け、天井を一瞥した。
「俺もそう思ってた。でも……あいつは、そうじゃない」
低く落とされた声には、妙な含みがあった。指先がポケットの中で組まれ、微かに鳴った関節の音がやけに耳に残る。
「……おもいのグリフ。ちょっと前に試してみたんだ。アトラに」
エリシアの手がぴたりと止まる。カップから立ちのぼる香りが間に割って入り、沈黙が落ちた。トワもわずかに目を見開き、息を呑む気配を隠せない。
「まさか、みんなの心を読んでたの?」
「いや、お前らのは読んでねぇよ」
ゼクトは片手をひらひらと振り、否定の意を示す。
「最初は使い方を探ってただけだった。それで偶然、アトラの声が……心の中から聞こえてきた」
その言葉は、部屋の温度をわずかに変えたように感じられた。
「街で猫を見かけたの、覚えてるか?」
ゼクトが口の端を上げる。
「そいつをじーっと見ながら、“かっわいぃ”とか“撫でたい……”とかさ。もう、それはそれはデレデレだったんだよ」
「うそ……あのアトラが?」
トワの視線が疑わしさを帯びる。隣のエリシアも息を呑み、長いまつ毛が小さく震えた。
「あんな無表情で、冷静で……表情一つ変えないと思ってたのに」
「あいつ、ただちょっと不器用なだけなんだよ」
ゼクトは天井を見やりながら言葉を続ける。
「人との距離感とか、どう関わっていいか、分からないタイプなんだろ」
その声には、呆れとも、どこか微笑ましい感情ともつかない色が混じっていた。
トワが思い出したように尋ねる。
「それで……今日、やたらとニヤニヤしてたのは、そういうこと?」
「バレてたか」
ゼクトは小さく笑い、肩を揺らす。
「明日、お前らも“聞いて”みろよ。おもいのグリフで。絶対おもしろいから」
「それって、勝手に読んだことにはならないの?」
トワの声には、ほんの少しだけ不安が混じっていた。
ゼクトは肩をすくめ、悪びれた様子もなく答える。
「それは……申し訳なかったとは思ってるよ。でもさ、アイツ、めちゃくちゃ可愛かったんだぜ?」
「……っ」
トワが言葉に詰まり、視線を逸らす。
「あとで謝れば、きっと許してくれるさ。あいつ、そんな細かいこと気にするタイプじゃないだろ」
「……まあ、そうかもね」
エリシアが静かに目を伏せた。カップの中の液面が揺れ、その影が彼女の頬に揺らめく。
「私たち、アトラのこと、まだ全然知らないのかも」
「だからこそ、知りたくなったってわけだ」
ゼクトはひとつ、深く息を吐いた。その吐息が、ランプの灯りの中に白く溶けていくように見えた。
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