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アトラ=リコンフィグ  作者: ホウノ タイガ
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第六章 仲間と本音①

今日も覗いてくださってありがとうございます。

暇つぶしにでも、気軽に読んでいってくださいね。

第1節 「猫」



分かる……分かるぞ……。

ゼクトは、薄暗い木陰に背を預けながら、アトラの背中を見つめていた。


(おもいのグリフって……まさか、こうも“聞こえる”とはな)


木漏れ日がまだらに落ちる石畳のそば、三毛猫が一匹、丸くなって眠っていた。

風に揺れる葉の影が、猫の背中を静かに撫でていく。


ゼクトがコードを起動していたそのとき、思いがけずアトラの心の声が流れ込んできた。


(猫……かっわいぃ……。ぺたって触ったら絶対に気持ちいい……。でも声かけるのは……嫌だな。うまく返せないし、変に見られるのも……いやだ……でも……撫でたい……)


(……は?)


ゼクトは思わずコードを切った。


(アトラ、お前……なに考えてるか分かんねぇって思ってたけど、違うのかよ。ちょっと不器用で、少し内気なだけかよ)


(にしても、猫にデレすぎだろ)


口には出さず、ふっと笑う。


無口で冷静そうに見えるその仮面の下には、案外、感情豊かで繊細な“中身”が詰まっていた。

きっと、人と話すのが苦手というよりも、“どう関わればいいか”を迷ってるだけなのかもしれない。


(……面白ぇ)


 けれど、その瞬間――ふと不安になる。


(……俺のさっきの心の声、まさか聞かれてないよな? バレてるんじゃ……)


 周囲を見ると、トワは荷物の整理中、エリシアは落ち葉の上に魔法の軌跡をなぞっていた。

 リウネは、トワの肩の上であくびをしながら耳をぴくりと動かす。誰も反応していない。


(……ふぅ。バレてないか。ってか、こんなもん、普通は気づかねぇか)


 再び視線を戻すと、アトラが木陰から道へと進み出た。視線の先には、一軒の木造の飯屋が見えていた。



 その日、アトラたちはフィリナの森へ一度戻ることにしていた。

 体力の回復と、備品の補充のためだ。



(薬草が……あと三束。包帯も残り少ないな)


 宿の部屋に入ると、アトラはすぐに薬草と包帯の束を取り出して確認を始めていた。


(足りないわけじゃない。けど、こういうのは――“なくなりかけてる”ってだけで落ち着かなくなる)


 予備があるだけで安心できる。ストックが減ると不安が増す。

 それがアトラという人間だった。


(森に戻るのは正解だったな)


 そう、何度も自分に言い聞かせながら、束を整え、木箱に戻す。



 宿から一歩外へ出ると、通りには人通りが戻ってきていた。

 薬草屋に向かう途中、小さな「カラン」という音が耳に入った。


 視線を向けると、前を歩く男のポケットから、小さな硬貨が転がり落ちる。

 アトラは一瞬、目を細めた。


(ああいうの、どうすべきなんだろう……)


 話しかけるのは面倒だ。声をかけても変な空気になったら、と思うと、どうしてもためらってしまう。

 アトラは視線を逸らし、そのまま通り過ぎようとした――が。


 心の奥に、ふっと霞がかかったような違和感が残った。


 身体が止まり、足が勝手に引き返す。しゃがみ込み、硬貨を拾い上げると、手に少し重みが伝わった。


「……落としましたよ」


「えっ、あ、ありがとうございます!」


 振り向いた男が、笑顔で頭を下げる。

 アトラは軽く会釈し、そのまま歩き出した。


 ――そのとき、胸の奥にあった霞が、すっと晴れていくのを感じた。


(……これでよかった。見て見ぬふりするより、ずっと楽だ)


 気持ちが軽くなったわけではない。

 ただ、なにかが整ったような、そんな感覚だった。



 アトラは硬貨を届けたあと、何事もなかったように歩き出していった。

 その後ろ姿を見ながら、ゼクトはそっと笑う。


(……ほんと、不思議なやつだよな)


 話しかけるのは苦手なのに、見過ごすのもできない。

 誰かに褒められるわけでもない。けど、黙って手を伸ばして、あとは何事もなかったような顔で通り過ぎる。


 そんな姿を見ていたら、なんだか少し、胸の奥があたたかくなった。


(あんなに表情が読めないやつだと思ってたのに、実はけっこう……人間らしいじゃねえか)


 ついさっきもそうだった。猫の姿に心を奪われて、脳内では“かわいい”を連呼してたくせに、顔には微塵も出さなかった。

 いや、それどころか、無表情で通り過ぎようとしてたくらいだ。


 だけど、声のない“本音”は――誰よりも純粋だった。


(あいつ、自分じゃ気づいてねぇかもしれねぇけど……)


 ゼクトはポケットの中で、指を軽く握りしめた。


(……よし、明日。みんなにも見せてやるか。アトラの“中身”、こっそりな)


 それは少しのいたずら心と――

 仲間としての、ささやかな親しみの始まりだった。


最後まで読んでくださってありがとうございます。


次回の更新をお待ちください。

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