第五章 揺れる天秤13
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第13節【目覚めと力の共有】
翌朝、廃宿屋の裏手――草地にて。
トワが腕を組んでアトラを見据える。
「じゃあ、確認だけど……あれが“契約”ってやつだったの?」
アトラは頷く。
「うん。あれは“命を賭けて共に戦う”という、意志の確認。
それだけで何かが変わるわけじゃない。けど――」
そう言って、アトラは皆に視線を向ける。
「僕はその意志に応えたかった。だから、“コード”を付与した。
僕の力を、信頼を超えて“共有”する手段として」
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ゼクトが腕を振って肩を回す。
「つまり、俺たちにもアトラの使ってた力が使えるってわけか」
「そのはず。まだ調整段階だけど……実験していいよ。暴走しない程度にね」
「熊と鹿の時みたいにな?」
リウネがにこりと笑うと、アトラは照れくさそうに頷いた。
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トワは小さく息を吸い、目を閉じて集中する。
意識をアトラの隣へと向け――一歩、踏み出す。
その瞬間、風が逆巻くように流れ、彼女の姿がふっとかき消えた。
気づけば、彼女はアトラの隣に立っていた。
「“いち”のグリフ、成功ね。思ったより簡単」
「すごい……距離も正確だし、反動も少ないね」
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続けてゼクトが腰を落とし、丸太を片手で持ち上げた。
そして、軽く振るだけでそれが真っ二つに割れる。
「“ちから”のグリフ。すげぇなこれ。力入れてる感覚もねぇのに」
「身体の中に力を巡らせる感じかな。慣れればもっと繊細に使えるよ」
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エリシアは静かに右手を差し出す。
淡い光が指先に宿ると、そっとゼクトの背へ手をかざした。
「……これ、“きおく”のグリフ、だと思います」
一瞬、ゼクトの脳裏に倒れかけたエリシアを庇った記憶が流れ込んだ。
「わっ、ちょ、やめろやめろ! 恥ずかしいやつは見んな!」
「でも……かっこよかったです」
エリシアが微笑むと、ゼクトは赤くなって顔をそらした。
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リウネは小さく手を動かすと、彼そっくりの影が一体、ふわりと浮かび上がった。
本体のリウネがぴょんと跳ねてアトラの膝に着地する一方で、
幻影のリウネはトワの膝に、くすぐったそうに丸まる。
「僕も、ちゃんとできたっぽい。こっちは幻影ね」
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しばらくして、アトラはふと真顔になり、少し声を低くした。
「……ひとつ、ちゃんと話しておく。
この力は“僕が源”なんだ。僕が意識を失えば、みんなはコードを使えなくなる。
それから――全員が全部を同時に使うと、今の僕では負荷に耐えきれない。やりすぎると、倒れる」
ゼクトが目を細める。
「……どれくらい、ヤバいんだ?」
「熊と鹿、20頭に同時にコードを使わせて喧嘩させたら――気がついたら夕方で、全然動けなかった」
一同、絶句。
ただ一人、リウネだけがあきれたようにしっぽを揺らしていた。
その“実験”に付き合っていたのは、他でもないリウネ自身だった。
静寂の中、ゼクトがつぶやく。
「お前……そんな実験、いつしてたんだ……」
ゼクトの呆れた声に、アトラはにっこりと笑って返した。
「これでも、念入りに準備してきたつもりだよ」
冗談めいた空気に、少しだけ笑いがこぼれる。
けれど、その場にふっと静けさが戻る。
誰かが言葉を探すように口を開きかけ――
代わりに、トワがそっと声を落とした。
「……ねぇ、みんな。アトラが、どれだけ努力してたか……本当は、気づいてた」
その声に、皆が彼女を見る。
「私たちが不安で塞ぎ込んでた間、アトラはずっと動いてた。
森の奥で、一人で何かを確かめて……何度も、何度も。
あの夜、私は眠れなくて――たまたま見てしまったの」
アトラは驚いたようにトワを見るが、すぐに目を逸らし、焚き火を見つめる。
「……僕は、ただ……もう後悔したくなかっただけ」
その背に、誰もが視線を重ねる。
「――本当に、ありがとう。信じてくれて」
その言葉は、焚き火の揺らぎに溶けて、じんわりと夜を包んだ。
誰も声を発さなかったが、その沈黙こそが――確かな頷きだった。
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