第五章 揺れる天秤⑦
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第7節【命をつなぐ戦場】
ゼクトが血を噴きながら地面に崩れ落ちた。
その隣で、エリシアは目を見開き、声を失った。
すぐそばに落ちていた杖に手を伸ばし、震える指でなんとかそれを握る。
だが、彼女の手は小刻みに揺れた。
彼の名を呼ぼうとしても、喉が詰まり、声にならない。
『助けたい』
その想いだけが、胸の内で何度もこだました。
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「……いまから、少し時間をゆっくりにするよ」
リウネがそう囁くと、トワの肩にひらりと跳び乗る。
2人の周囲の空気が、じんわりと変化した。
まるで世界のすべてが遅れて見えるような、妙な静けさ。
トワの中で、感情が一気に爆ぜた。
「許さない……絶対にだ!!」
その叫びとともに、剣が唸りを上げた。
刃が風を裂き、甲冑を穿つ。
一人、また一人――黒鎧の兵士が、次々と倒れていく。
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「次、左……それと、三歩後ろにも気配!」
リウネの鋭い指示が飛ぶ。
トワは迷いなく身体を回転させ、背後の兵士を斬り伏せた。
目の前の敵すら見切れないはずの状況で、2人の動きはなめらかで、正確だった。
怒りと、仲間の支援が一つになった瞬間だった。
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「ゼクト……!」
エリシアは倒れた彼の胸に手を当てる。
肌は冷えはじめ、呼吸は浅く、途切れそうだった。
「お願い……もう、これ以上……だれも……!」
彼女の声は掠れていた。
それでもなお、祈るように、震える杖を手にしたまま彼の傍に身を伏せる。
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トワは怒りを糧に、前へと進んだ。
左から突撃してくる兵士の槍を蹴り上げ、振り返りざまに剣を振るう。
リウネは肩の上でバランスを取りながら、次の動きを見極めていく。
息が乱れ始める。
支援にも限界はある。
それでも――トワの怒りに応えるように、リウネはその場に留まり続けた。
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その後方で、エリシアとゼクトは戦線から離脱する。
トワの背中が、彼らを守るように立ちはだかっていた。
その眼差しは、炎を宿しながらも、仲間を絶対に死なせないという覚悟に満ちていた。
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