第五章 揺れる天秤⑥
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第6節【命と命】
「……やめろ」
アトラの声は静かだった。
だが、その一言に場の空気が一変する。
トワが息を呑む。ゼクトの眉がぴくりと動いた。
エリシアは少女の泣き声に耐えるように目を閉じ、リウネはアトラの横顔をじっと見上げる。
アトラの視線は、ただまっすぐにシグムントを射抜いていた。
「おやおや……怒っちゃった?」
シグムントは愉快そうに笑う。「でも、それは正しい反応だよ。君の“感情”は、まだ壊されてない証拠だ」
「君たちはまだ知らないようだね」
シグムントがにやりと笑う。「“構連”――正式には世界構造連合。この世界の根幹を維持する、ある種の『構造式の監視・修復・掃討部隊』さ」
「……初めて聞いた」
アトラが目を細める。
「そりゃそうだ。地上にいる限り、君たちのような一般人は知る由もない」
シグムントは仰々しく腕を広げる。「構連は力ある者にランクを与え、世界の歪み――悪獣や逸脱コード――を掃討するために動く。
その頂点に立つのが“Sランク”。」
「だが、そのSランクを、僕は十八人、殺した。」
シグムントは唇の端を吊り上げ、楽しげに続ける。
「ねぇ、あのときの構連のヤツ……首が取れてもまだ構造式を詠唱しようとしててさ。
すごい執念だったよ。だから、面白くて――そのまま脳が止まるまで眺めてた。」
「……」
仲間たちは誰も言葉を返さなかった。現実味のなさに思考が追いつかなかった。
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その沈黙を破ったのは、鉄の靴音だった。
扉の向こうから黒鎧の兵士たちが現れる。二人、五人、十人――やがてざっと50人の兵士たちが、静かに整列した。
「見覚えある顔もいるんじゃない?」
シグムントがあごをしゃくる。「ノルディア兵さ。森で逃げていったあの連中。回収してコードを流してみたら、案外うまく動いたんだよね」
「てめえ……人を……!」
ゼクトが咆哮する。
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アトラの目がシグムントに向けられる。静かだが、そこにある怒りは確かなものだった。
「……お前をここで止める」
「はは、言ってくれるね。さあ――やってみなよ、転生者くん」
二人が地面を蹴る。
空間が弾ける。コードが瞬く。
アトラ vs シグムント――最大の激突が始まった。
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一方、兵士たちも一斉に動き出す。
無表情で、無言で、ただ命令に従うように。
「来るぞ!」
ゼクトが刀を構え、前に出る。
「私も行く!」
トワが地を蹴る。
リウネは大きな爪を顕にし、低く構え、エリシアは、背に携えていた一本の杖を静かに取り出した。
祈りの場で使われていた、白銀の装飾が施された長い杖だ。
兵士たちは統制の取れた動きで、彼らを囲むように突撃してくる。
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4人は見事な連携で応戦した。
ゼクトの前衛、トワの側面カバー、リウネの素早い動き、そしてエリシアも勇気を振り絞って一人を倒した。
だが――
その瞬間、1人の兵士が死角からエリシアに襲いかかった。
「――エリシアッ!!」
声に振り向いた瞬間、何かが彼女の脇腹を打った。刃先がかすっただけだったが、血がにじむ。
苦痛の声が漏れ、エリシアの身体が崩れる。
「くそっ……間に合わなかった……!」
ゼクトが歯を食いしばり、エリシアに向かって駆け出す。
同時に、もう一人の兵士が、剣を振りかぶりエリシアへ致命の一撃を狙う――
「やめろぉぉぉ!!」
ゼクトが身体を投げ出し、エリシアの前に滑り込んだ。
ガキィィィン!!
金属がぶつかる音と、骨が砕けるような音。
ゼクトの肩口から胸にかけて、赤が一気に広がる。
「ゼクトぉぉぉ!!」
エリシアが叫びながら彼に手を伸ばす。
ゼクトはその手をしっかりと握り返した。
「…… 間に合った……」
その言葉とともに――意識を失った。
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