表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アトラ=リコンフィグ  作者: ホウノ タイガ
36/73

第五章 揺れる天秤③

今日も覗いてくださってありがとうございます。

暇つぶしにでも、気軽に読んでいってくださいね。

第3節【子どもが見た記憶】



「誰か、いる……」


 エリシアが小声でそう言い、アトラの肩を軽く叩いた。


 建物の影。

 石を運んでいた男たちの奥――そのさらに奥に、小さな影があった。

 ひとりの子ども。女の子だった。年の頃は、十歳にも満たないだろう。


 壁にもたれかかって、ぼんやりと空を見ている。

 表情は穏やかすぎて、逆に“何か”が欠けているように見えた。


「……この町の住人?」

 トワが警戒をにじませた声で言う。


「様子が変だ」

 アトラは静かに少女へ歩み寄った。


 少女は動かない。

 数歩の距離に近づいても、瞬き一つしなかった。呼吸も、規則正しく均一すぎる。


「眠ってるようにも見えるけど……」

 ゼクトが言うと、アトラは短く答えた。


「“きおく”を覗く。みんなにも見えるようにする」


「いくよ....。」


 トワとエリシアが小さく頷いた。



 アトラは静かに指先をすべらせ、空間にコードを描く。

 記憶を可視化し、共有するためのコード――「きおく」。

 淡い光の粒が空気に溶け、次第に視界が別の情景へと変わっていく。



 ──最初に見えたのは、明るい部屋。


 少女が母親と一緒にパンをこねている。

 父親は机に向かいながら、ふとこちらを見て笑う。

 ささやかだが確かな幸福。


 だが、それは唐突に破られた。


 扉が乱暴に開かれる音。

 黒衣の男たちが数名、家の中へとなだれ込む。


 少女が母にしがみつき、父親が立ち上がる。

 怒鳴り声、泣き声、家具の倒れる音。

 少女は「やだ、やだ」と叫びながら、母の腕の中で震えていた。


 だが、何もかもが引き裂かれたように、光が途切れる。



 ──次に現れたのは、薄暗い部屋。

 鉄の壁。窓はない。気配もない。


 少女が、ひとり。

 椅子に座らされ、目の前には誰かの影。


「大丈夫。すぐ終わるよ」

「怖くないからね。すぐ、楽になる」


 その声は優しさを模していた。だが、温度がなかった。


 少女は泣いた。

 喉がかれるほどに、母を呼び、父を呼び、助けを求め続けた。


 しかし――泣き声は、突然、止まる。


 目を見開き、口を閉じ、肩の震えが消え、呼吸が均一に戻る。


 そして。


「……命令をお聞かせください」


 無表情のまま、少女がそう言った。



 “きおく”の映像が静かに霧散し、現実の光景に戻る。

 全員が、言葉を失っていた。


「……何があったの、あの子に」

 エリシアの声は震えていた。


「感情が……消されてた」

 トワが唇を噛む。


 ゼクトが目を細める。

「……あれは、人間の顔じゃなかった」


 アトラは無言で少女を見つめる。

 少女はまだ、壁にもたれたまま空を見ていた。


「何かがここで起きてる。確実に」

最後まで読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ