第五章 揺れる天秤②
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第二節【異常な町・小町】
木々の間を抜けると、小さな町が視界に広がった。
その入口には、古びた木の看板が立てられていた。
《小町》
誰が描いたかもわからない、筆文字の看板。
その足元には野花が手向けられており、つい最近添えられたばかりに見える。
「……思ったより、ちゃんとしてるね」
エリシアが小声でつぶやいた。
「ここだけ見たら、普通の田舎町にしか見えないけど……」
トワも周囲を見渡す。
町は静かだった。風の音、鳥のさえずり。
だが、そこに“生活の匂い”だけが決定的に欠けていた。
町の通りには何人かの人影があった。
誰もが作業服姿で、無言で、同じ動作を繰り返している。
ひとりは石畳を磨いていた。すでに綺麗な道を、何度も何度も、同じ力で。
「……掃除してるのかな?」
リウネがぽつりと呟く。
「でも……会話してないね」
エリシアが目を細める。「それに……変だよ、動きが全部一緒」
ゼクトが眉をひそめる。「まるで……訓練された兵士って感じ...でもねぇな..。」
さらに進むと、花屋の前に少女がいた。
花束を並べては、数歩下がって確認し、また並べ直す。ずっとそれを繰り返していた。
「こんにちは」
エリシアが優しく声をかける。
少女は顔を上げた。
表情は柔らかい。だが、その目はどこか焦点が合っていない。
「こんにちは。今日は晴れですね」
少女は一言だけを返すと、また花を並べ始めた。
少しの間を置き、もう一度、こちらに顔を向ける。
「こんにちは。今日は晴れですね」
――同じ言葉。まったく同じ口調。
エリシアが一歩引いた。
「……やっぱり、おかしい。人間味が……ない」
アトラは黙ったまま少女を見つめていたが、やがて視線をそらして言った。
「ここにいる人たち……感情の揺らぎが、まるで感じられない」
「まるで……完璧な町を模倣した、精巧な模型みたいだ」
トワの声が低くなる。
「掃除されてて、花も並んでて、看板も綺麗で……でも、全部“出来すぎてる”」
ゼクトが続ける。「作り物の“正しさ”っていう感じだな。」
アトラが周囲を見渡し、静かに言った。
「奥へ進もう。あの荷車が運ばれた先を確かめたい」
誰も異論はなかった。
一同は目立たないように裏通りへと回り込み、建物の隙間から様子を窺う。
その先に――
さっき見た荷車が、黒い石を乗せたまま建物の中へと吸い込まれていくのが見えた。
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