第五章 揺れる天秤①
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第1節:【石の運び屋】
森を抜け、ようやく開けた道に出た。
陽が差し込む丘道には春の草花が咲き、鳥のさえずりが気まぐれに耳をくすぐる。
その中を、アトラたちはのんびりと歩いていた。
「空、きれいだね」
エリシアが、ふわりとした声でつぶやく。
「うん、あのへん……バニラ味っぽくない?」
とリウネが言った。
ゼクトが後ろからツッコむ。
「どこがだよ。あれはどう見ても塩味だろ」
「いや、それも違うでしょ」
トワが笑いながら返す。「せめて綿菓子とかにしてよ」
「むむ……じゃあ、あの雲はマシュマロってことで」
「それは認めよう」
一同が笑い合う中、リウネがアトラの腕にぴょこんと飛び乗る。
「ねぇねぇ、アトラは? あれ何味に見える?」
アトラは少し間を置いて、首をかしげる。
「雲は……雲、じゃないかな」
「それを言っちゃおしまいだよ!」
リウネが口を尖らせ、再び笑いが弾けた。
戦いの合間に訪れた、束の間の平和。
何でもない会話が、何よりも心をほぐしてくれる。
だが、その空気はふとした瞬間に変わる。
「……あれ、なに?」
トワが前方を指差した。
一同が足を止め、視線を向ける。
街道の先を、二人の男が無言で歩いていた。
ゴロゴロと音を立てる木製の荷車を押し、その上には黒くざらついた石の塊がいくつも積まれていた。
「……まさか」
トワが表情をこわばらせる。「あれ……フィリナの森の、あの痕跡とぴったりじゃない?」
「間違いない」
アトラが低く言う。「コードが加えられてる。あれは、ただの石じゃない」
「けど……なんで? こんな道にまで」
ゼクトが小声で言う。
「運ばれてるってことは、まだ“使われてる”ってことだ」
アトラの言葉に、一瞬空気が冷える。
「……尾行しよう...」
トワの声には迷いがなかった。「どこに運ばれてるのか、見た方がいい」
「賛成」
エリシアの声には、静かな決意がこもっていた。
アトラが頷き、一同は慎重に距離を取る。
草むらの陰に身を潜め、荷車の進行方向を見失わないように進んでいく。
「さて……また、何か始まりそうだな」
ゼクトが刀の柄に手をやり、ぼそりと呟いた。
「まだ何も起きてないよ」
トワが笑いながら言うが、その声には少しだけ緊張が混ざっていた。
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草の揺れる音だけが、静かに響く中。
アトラたちは街道の先――石の運び先を目指して、歩き出した。
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