第四章 時をなぞる者たち⑩
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第十節 「歩き出すひと」
午後、陽が傾き始める頃。
アトラたちは森の奥で、最後に残された小さなコードの歪みを見つけていた。
「ここ……昨日、リウがうまく直せなかった場所だ」
リウネがそう言って指した先には、一部だけぽつりと枯れた花が群れている。
アトラはしゃがみ込み、手を地に添えた。
「アクセス――」
コードを流す。
昨日のような抵抗感はなく、歪みは素直にほどけていく。やがて、花々は鮮やかな色を取り戻し、静かに揺れ始めた。
「……よし、これで全部かな」
アトラが立ち上がると、リウネが頷いた。
「うん。もう、変なとこは見えない。全部、まっすぐになってる。ありがと、アトラ!」
リウネはしっぽを揺らしながら微笑み、少しだけ空を仰いだ。
アトラもそれを見て、どこか安心したように息を吐く。
アトラは森の奥へ視線を向けた。
「……じゃあ、行こう。“ながれ”の場所へ」
リウネがこくんと頷く。
「うん。今なら……きっと、ちゃんと再構築できるはず」
* * *
アトラは、木立の隙間から見えた光景に、ふと足を止めた。そこには、小さな畑のような一帯と、簡素な木の家。
家の前では、柔らかな目をした母親と、小さな子供の姿があった。
子供は夢中で花を摘み、母親はそれを見守るように穏やかに微笑んでいる。
「…………」
リウネは、ゆっくりとその場に座り込んだ。
アトラも隣に腰を下ろし、リウネの視線の先――揺れる木々の向こうを静かに見つめる。
その背後では、トワ、ゼクト、エリシアの三人が言葉を交わすこともなく、ただ静かに見守っていた。
それぞれの距離から、干渉せず、けれど確かに寄り添うように。
アトラは目を細め、そっと言葉をこぼした。
「……あのとき、記憶で見た人だ」
母親は笑っていた。やわらかい目で、子どもの姿を見守りながら。
リウネの記憶にあった泣き顔とは、まるで別人のようだった。
「昨日は……泣いてた。でも今日は、笑ってる……ちゃんと、笑ってる」
リウネの声は、少し震えていた。けれどその目は、まっすぐだった。
アトラは静かに頷いた。
「リウは、何か言うの?」
「ううん。言わない。……でも、見ていたい」
リウネの声は小さく、けれどどこか誇らしげだった。
「前に進んでるんだね……あの人も」
「うん。……よかった」
アトラはリウネの頭をそっと撫でた。リウネは目を閉じて、静かにその手に身を預けた。
それは、赦しでも、救いでもない。けれど確かに、過去と未来を繋ぐ、優しいひとときだった。
その背後では、小さな子供が花を抱えて走り、母親の腕に飛び込んでいた。
リウネは、ほんの少しだけ、目元をぬぐった。
「今度は……ちゃんと、守る。今度は、ちゃんと」
アトラはそれに答えるように、そっと頷いた。
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