第四章 時をなぞる者たち⑤
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第五節「揺らぎの奥へ」
森の奥へと進むにつれて、風は少しずつ湿り気を帯びていった。
リウネが「心当たりがある」と言っていた場所は、ふだん誰も踏み入れないような静かな一角だった。木々がゆるやかに囲む中央に、小さな池のような窪みと、そこに咲く奇妙な白い花々。そして、その中心には、一本の木のようなものが立っていた。
いや、正確には「木に見える構造物」だった。
幹のように伸びた中心軸から、細かな枝が無数に分かれており、それぞれがまるでコードの線のように空間を走っている。けれど、ところどころで歪んだノイズのようなものが漂い、いくつかの枝は途中で“ほどけて”宙に浮いたままだった。
「ここ……だったと思う」
リウネが静かに言う。普段より少しだけ緊張した声だった。
アトラは一歩踏み出し、地面に膝をついた。
「アクセス……」
土に触れた指先から、式が走る。
木の根元から放たれるような“ながれ”のコード――その一部が、濃密なステルスコードとして複雑に絡まっていた。
(……リウネが直せなかったって、これか)
アトラは集中し、コードの繋がりを一つずつほどいていく。やがてそれは、解けた音もなく霧散し、周囲の“流れ”が静かに整いはじめる。
「……なおった……」
リウネがぽつりとつぶやいた。まるで信じられないとでも言うように、目を見開いたまま動かない。
「ここ、何回も来たのに……直らなかったのに……! どうして、アトラにはできるの……?」
リウネは小さく駆け寄り、木の根元を覗き込む。
彼女のしっぽが緊張でふるふると揺れていた。
しかし──
「……ピースは……出てこない?」
ゼクトが後ろで腕を組んだまま問いかける。
アトラは軽く首を振った。
「ううん。たぶん、まだ“終わってない”んだと思う」
「終わってない?」
「ここにあったエラーは、リウネが直せなかった“過去のもの”。でも、森のどこかには……今も進行中の異常がある。それを放置したままだと、グリフの本体は反応しない」
そう説明しながら、アトラは木を見上げた。
修復された部分の枝は静かに脈動し始めていたが、それでも全体の構造はまだ不安定に揺らいでいた。
「まだ、回ってない場所があるのね……」
トワがぽつりと呟く。
「戻るのか?」
ゼクトの問いに、アトラは頷いた。
「うん。今日はここまでにしよう。また必ず来る。……その時こそ、本当に“ながれ”を手に入れる」
リウネは少し悔しそうに、でも素直にうなずいた。
「うん。森が全部、ちゃんと動くようになるまで……リウも手伝う」
アトラの隣に並んだリウネの瞳には、確かな決意と、ほんの少しの焦りが浮かんでいた。
一行は森を後にする。木のようなグリフの“根”は静かに脈動していたが、それはまだ、物としてのピースには至らず、ただそこに“在る”だけだった。
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