第四章 時をなぞる者たち④
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第四節 「小さな修復者」
アトラが思わず笑うと、リウネはしっぽを軽く揺らしながら、花の中をぴょん、と駆けていく。
そして――
「えいっ」
ふんわりと前足を持ち上げ、首元に浮かぶ雲のようなものを前へ突き出す。
その瞬間だった。
色を失っていた花々が、ふわりと空気を吸い込むように広がり、ゆっくりと再生していく。
枯れていたはずの茎が立ち上がり、花弁が静かに開いた。
「……直った……?」
アトラが呟く。
ゼクトとトワも目を見張り、エリシアは驚きと感嘆を込めたまなざしをリウネへ向けていた。
「君も、コードを修復できるのか……?」
アトラは驚きのまま、リウネを見つめる。
「えっとね、リウは変なとこを直してるの。時律のグリフのエラーは、ぜんぶリウがやるんだよ。“ながれ”のエラーばっかりだけど……でも、それがリウのお仕事!」
リウネはふうっと小さく息をついてから、しっぽをひと振りして胸を張った。
どこか得意そうでいて、でも少しだけ疲れているようにも見える。
「そっか……じゃあ、一緒にやろう。僕にもできることがあるかもしれない」
アトラは別の枯れた場所へ歩み、しゃがみ込んだ。
「……アクセス」
静かに土へ指を添えると、内側からコードが流れ出し、周囲の式へと溶け込んでいく。
すると――枯れていた花々が、またしてもゆっくりと命を吹き返すように、色を取り戻していった。
リウネはその光景を見つめたまま、目を見開いて動けなくなる。
そして、ぽつりと呟く。
「……うそ……アトラ、リウと同じこと……したの……?」
リウネは目をまん丸にして、アトラを見つめる。
「でも、なんか違う……すごくきれい。リウより、もっとちゃんと……」
アトラは立ち上がり、小さく首を振る。
「これはただの“結果”だよ。根本的な解決にはなってない。僕はコードを辿って、表面をなぞっただけだ」
リウネは少しの間黙っていたが、ぽつりぽつりと語った。
「……やっぱり、“根っこ”に問題があるのかも」
アトラが再生した花を見つめながら、リウネはぽつりとつぶやく。
「……リウ、ちょっと気になる場所があるの。うまく言えないけど……そこ、“ながれ”のコードが少し変だった気がする」
アトラはその言葉に顔を向ける。
理由は、はっきりとはわからなかった。
けれど――なんとなく、放っておけなかった。
「……そうなんだ。見に行ってみようか、一緒に」
リウネはこくんと頷き、しっぽをふわりと揺らす。
「うん。案内するね」
アトラはそっと手を伸ばし、リウネの頭に触れた。
ふわりと柔らかな毛並みが指先に広がる。
その瞬間――
アトラの意識の奥に、走馬灯のような情景がよぎった。
古びた橋、笑う子ども、落ちたリンゴ、そして――
届かなかった、あの日の手。
ほんの一瞬のことだった。
でもアトラは、そっと目を伏せる。
「……ありがとう、リウネ」
それは、過去に触れたことへの返事か、それとも今この瞬間へのものか――
本人にさえ、わからなかった。
リウネは何も気づいていないように、くるんとしっぽを巻いて笑った。
そのやりとりを、少し離れた場所からトワたちが静かに見守っていた。
森の空気は、少しだけ、柔らかくなったようだった。
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