第四章 時をなぞる者たち②
第二節 「気配の輪郭」
「……なあ、今、いたよな?」
ゼクトが眉をひそめて振り返る。
森の小道の脇、陽が差し込んだ一角を見つめている。
「え?」
「なんか、動いた。……金色の……猫? いや、もっと……変な……」
トワが隣で小さく笑った。
「ゼクトが幻覚見るなんてね。祝宴の名残?」
「ちげーよ、マジでいたんだって。金色の……こう、もふってしてて……」
「それ、僕も見たかも」
アトラがぽつりと呟いた。
二人がアトラを見る。
「昨日の夜……ほら、星を見に外出た時。森の縁に、一瞬だけ見えた。すぐ消えたけど、確かに何か生き物を見た気がする。」
「おお、やっぱ俺だけじゃなかったか……」
「でも、何だったんだろうね。獣……かな?」
「獣にしては動きが静かすぎる。気配、なさすぎた」
ゼクトが腕を組みながら呟く。
アトラはふと立ち止まり、森の奥へと視線を向けた。
枝の隙間、その先――何かが、一瞬だけ揺れた。
金色の、小さな光のようなもの。まるで風に遊ばれた糸のように、すっと現れて、すぐに消えた。
(……気のせい、じゃない)
音も、気配もない。けれど、確かに“視られている”。そう感じた。
それは敵意でもなく、好奇心とも違う。もっと別の、得体の知れない視線だった。
だが、アトラはそのまま追うことはせず、ゆっくりと視線を戻した。
「ま、いっか。害はなさそうだし。見られるくらい、イケてるってことだろ」
ゼクトが軽口を叩くと、すかさずトワがふっと笑みを浮かべて言う。
「それはどうかしらね。……せめて、髪くらい整えてから言ってほしいわ」
「うるせぇな、野営明けなんだから仕方ねぇだろ」
そんなやりとりに、アトラも小さく笑った。
けれどその瞳はまだ、木々の陰――金色が揺れたあの場所を見つめたままだ。
その視線に気づいたエリシアが、少しだけ首をかしげながら近づく。
「アトラ……なにか、見えましたの?」
アトラはわずかに目を細め、ほんの一拍の間を置いて答えた。
「……うん。たぶん、“何か"がこっちを見てた。すごく、静かに」
エリシアは息を呑むように目を見開いたが、すぐに静かな声で言った。
「この森には、時間を守る存在がいると、古い記録にあります。……もしかすると、そういった“何か”なのかもしれませんわ」
アトラはその言葉を胸の奥で転がしながら、最後にもう一度だけ森の奥を見やった。
気のせいではない――その確信だけを、心の底にしまい込みながら。




