第四章 時をなぞる者たち①
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第一節「森の入口」
朝霧が薄く漂う森の入り口。
足を踏み入れた瞬間、アトラはふと足元で違和感を覚えた。
「……ん?」
草が、四角く押し潰されたように平たくなっている。
周囲は朝露でしっとりしているのに、そこだけ妙に乾いていた。
アトラはしゃがみ込み、土を軽く撫でる。
中央には、小さな擦れ跡。きらっと光る粒が一つ、土に紛れていた。
「……誰か、ここに……何か置いたのかな」
つぶやくように言っただけで、それ以上の詮索はしない。
ゼクトが後ろから近づき、ちらりと地面を見た。
「……これ、道具か? わざわざこんな場所に置くもんでもねぇが」
アトラは立ち上がり、首をかしげながら軽く肩をすくめる。
「僕にも、よくわからない。誰かが落としていったにしては……整いすぎてる気がする」
少し先を歩いていたトワが立ち止まり、振り返る。
「変な場所ね。森の中ってだけで、何があってもおかしくはないけど……なんか、引っかかるわ」
エリシアも立ち止まり、静かに周囲を見渡す。
「……違和感。少しだけ“整いすぎている”のかもしれませんわね。森の自然の中にしては、妙に整然としていて……少し、不自然」
ゼクトが鼻を鳴らす。
「気味悪ぃな。ま、森ってのは得体の知れないもんも多いし、用心しとくに越したことはねぇな」
アトラは一度だけ深く息を吸い、視線を地面へ戻した。
「うん……少し、気をつけよう」
ぽつりと呟くと、再び歩き出す。
ゼクトとエリシアも続き、一行は森の奥へと歩みを移した。
森は静かだった。陽の光が木々の間を縫うように射し込み、葉の影が風にそよいでいた。
けれど、その空気はどこか“まっさら”ではない。
誰かが通った、何かがいた――そんな微かな痕跡だけが、ほんのりと残されていた。
「空気は……気持ちいいんだけどな」
アトラが苦笑混じりに呟くと、ゼクトが肩をすくめる。
「まあ、静かなだけでもありがたいさ。騒ぎはもう懲り懲りだからな」
「ふふ、ほんとに。あの宴じゃ休めるものも休めなかったもの」
トワがそう返すと、エリシアもそっと笑みを浮かべる。
穏やかな時間のはじまりを思わせる空気が、森に流れていた。
けれど、誰も気づいていなかった。
そのすぐ先、木々の陰――一つの小さな墓の前で、金色の毛並みの獣が、静かに丸くなっていたことを。
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