第三章 情理の調律10.5
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セラミア教国編のエピローグです。
第十半節 届いた想い(エピローグ)
昼下がりの宿のロビーには、窓越しに柔らかな陽が射し込んでいた。
ゼクトは無骨な手で封筒を持ち、じっとその文字を見つめていた。
「……来た、か」
短く呟き、封を開ける。その動作は彼にしては驚くほど慎重だった。
背後から声がかかる。
「それ、手紙の返事?」
振り向かずとも誰だかわかる。トワが湯呑みを片手に、軽く微笑んで立っていた。
「ああ。セラミアで出したやつだ。……届いたのが、嘘みたいだな」
「……リーネ、でしょ?」
その名前に、ゼクトの手が一瞬止まる。
「……ああ。アイツのことだ」
「よかったじゃない。ね、エリシア?」
声をかけられたエリシアは、ゆったりと腰を下ろしながら、いたずらっぽく微笑んだ。
「まあ……まさか、ゼクト様が“文通”をなさるとは思いませんでした」
「ちげえよ、文通じゃねぇ」
「じゃあ、なに? 遠距離恋愛?」
トワが目を細めて言うと、ゼクトは盛大にむせた。
「ばっ、違う! リーネは俺の部下だ。昔からのな。そういうのじゃねぇ」
「でも、手紙に返事をくれるって、ちゃんと届いてた証拠よ。気持ちが」
「……“お疲れさまでした”だってよ。あなたは十分頑張ったって。……あと、“もう、ちゃんと寝てください”って……」
ゼクトは少しだけ目を伏せた。その声はどこか、照れと誇らしさが混ざっていた。
「やっぱり心配してるんじゃない、リーネさん。あなたのこと」
「だから、アイツはそういうのじゃ……」
「じゃあ、ゼクトは? どう思ってるの?」
トワの問いに、ゼクトは一瞬だけ目を逸らした。その反応を見て、トワとエリシアは同時に「ふーん……」と揃えて声を漏らす。
「……なにが“ふーん”だ」
「なんでもないわよ。ね、エリシア?」
「ええ。なんでもありませんわ。……ただ……自分の気持ちにも相手の気持ちにも、まるで気づかない方々って、物語ではよくお見かけしますわね」」
ゼクトはその言葉にぐっと詰まり、手紙を静かにたたんでポケットへしまった。
「……馬鹿らしい」
「ふふ、でも、ちょっとだけ顔が嬉しそう」
トワがからかうように言うと、ゼクトは反射的にそっぽを向く。
「うるせえな……」
けれどその背中には、わかりやすく力が抜けていた。
――セラミア教国で出した小さな手紙は、確かに想いを届けていた。
誰かを思い、誰かに思われることが、こんなにも温かいのだと、ゼクトは少しだけ知った。
最後まで読んでくださってありがとうございます。
ゼクトは毎日毎日、手紙が届いていないか確認していたようです。
相当楽しみだったのか心配だったのか。かなり待ち遠しかったようです(笑)




