表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アトラ=リコンフィグ  作者: ホウノ タイガ
15/72

第三章 情理の調律⑥

今日も覗いてくださってありがとうございます。

暇つぶしにでも、気軽に読んでいってくださいね。

第六節 幻影の囁きと救い


市場での買い物を終えたアトラとトワは、広場の噴水前でゼクトと合流した。

手紙を出しに行っていた彼は、少し眉をひそめながらも、どこか落ち着いた表情をしていた。


「手紙、出せた?」

アトラが尋ねると、ゼクトは頷いて肩をすくめる。


「おう。ちょっと手間取ったがな。あの郵便屋、世間話が好きすぎるんだよ」


「ふふ、そういう人、いるわよね」

トワがくすっと笑って言う。


「ちゃんとリーネに届くといいわね。……あの子、ああ見えて、待ってるときはそわそわするタイプだと思うから」


「……アイツが? そわそわ?」

ゼクトが目を細めて疑わしそうな顔をすると、トワはいたずらっぽく微笑んだ。


「うん、そう。ゼクトが思ってるより、ずっと可愛いところあると思うわよ?」


「おい……勝手に人の妹みたいに語るんじゃねぇ」


「えっ、妹? 娘に見えるけど?」

わざとらしく首をかしげるトワに、ゼクトは小さく咳払いして視線をそらした。


「……どうでもいいだろ、そういうのは」


アトラはそんなふたりのやりとりに、思わず小さく笑った。


三人はそのまま街の西側へと足を進める。

白い石橋の向こうには、緑の丘と、なだらかな小道が続いている。


「この先、少し道が入り組んでるが……まあ、問題はないな」

ゼクトが手にした地図をちらと見やりながら呟く。


トワは保存食や薬草を詰めた袋を両手に、アトラはその隣で道を確認するように歩いていた。

少しずつ、息の合った旅の形ができてきていた。



──その時、鋭い叫び声が橋の反対側から響いた。


「やめて、お願い! あなたは……もういないのにっ!」


三人が振り返ると、橋の縁に中年の女性が立っていた。空を見つめるその目は虚ろで、何かに引き寄せられるように、一歩、また一歩と前へ進んでいく。


「まさか……」

ゼクトが一瞬、言葉を失う。


「止めないと!」

アトラが叫び、駆け出す。トワとゼクトもすぐに続いた。


だが、間に合わないと判断したアトラは、足元に式を描くように手をかざした。


「転位、指定点──あの人の前へ!」


“いち”のコードが瞬時に起動し、アトラの姿が光と共にかき消える。


女性が身を投げようとする、その直前。


「っ──危ない!」


現れたアトラが彼女の腕を掴み、ギリギリで引き戻した。


橋の上に、ひとりの女性がうずくまっていた。

崩れ落ちるようにその場に座り込み、肩を震わせながら泣き続けている。


「見えたの……夫が……あの人が、そこにいたの……」

掠れた声で、何度も呟いていた。


「笑って、手を伸ばしてくれて……本当に、そこに……っ」


アトラが小走りに近づき、少し距離を取りながら様子を伺う。

その後ろから、ゼクトとトワがようやく追いついてきた。


「なにがあったの……?」

トワがそっとしゃがみ、ポケットから清潔な布を取り出して差し出す。

「これ……顔、拭ける?」


女性は涙を拭いながら、何度も首を振った。

「違うの……怖いとか、悲しいとかじゃなくて……ただ、会えたの。会えたのに……もう、いなくて……」


ゼクトはひとまず周囲を見回し、橋の上に他の通行人がいないことを確認する。


「こんな真っ昼間に……まさか、幽霊ってわけでもなさそうだな」

低く呟くその声に、わずかな警戒がにじんでいた。


「……グリフの影響かもしれない」

アトラが静かに言う。


「グリフ……? 誰かが無差別に使ってるってこと?」

トワが眉を寄せると、アトラは首を横に振った。


「たぶん、誰かが“使ってる”んじゃない……“起きてる”んだと思う。何かが、街そのものに作用してる」


橋を吹き抜ける風が、女の髪をかすかに揺らす。


(さっきの言葉……「そこにいた」って……)


アトラは、女性の発言を何度も反芻していた。


(まるで、記憶の中の人物が現れたみたいな……でも、幽霊じゃない。もっと……“コード的”な何か)


彼の脳裏に、ここ数日耳にしたいくつかの“噂”がよぎる。


「誰にも気づかれずに歩いていた老婆」「教会前で祈り続ける男」「子供だけが話しかける青年」


(……本当に存在してるなら、なぜ誰も触れない? 気づいていないのか?)


ゼクトがぽつりとつぶやく。


「異変か……それとも、街の中に“見えない何か”が動いてるってことか……」


アトラは視線を橋の下に落としながら、ゆっくりと頷いた。


「アトラ……これって、グリフの影響なの?」


トワの問いに、アトラはゆっくりと頷いた。


「たぶん。でも、まだ断定はできない。コードを見ないと、わからないことが多すぎる」


三人は女性を医務室に連れて行き、簡単な説明を済ませたあと、静かに街の中心部へと戻った。


「……もし、これが“まどい”のグリフによるものだとしたら……あれは幽霊じゃない」


ゼクトの低い声に、誰も反論しなかった。


アトラの胸の中には、確かな違和感だけが静かに残っていた。


最後まで読んでくださってありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ