第三章 情理の調律②
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第二節 刻まれた記憶
朝の光が野営地を照らし、鳥のさえずりが静かに響いていた。
アトラは一人、巨石の前に立っていた。
昨夜、あの石に触れた瞬間——いや、“触れられた”瞬間から、頭の中に広がる記憶の波。それは他者のものだった。だが明確な意志を伴い、彼に何かを伝えようとしていた。あれはだれだ.....。
「アクセスは……コードへの干渉か」
呟くように、アトラは言った。
コードとは、この世界に刻まれた現象の構造。
アクセスとは、そのコードを読み取り、書き換え、現実を操作する力。
それを昨夜、確かに自分は行った。無意識だったが、それでもコードが形を成し、動いた。
アトラは腰にあるグリフピースを取り出す。
手をかざすと、それはわずかに反応し、指先にわずかな振動を返した。
「……これが、きおくのグリフ....。使えそうだ....」
今はただそれだけが確信だった。
⸻
朝食を済ませたゼクトとトワが戻ってくると、アトラは静かに彼らを見た。
「少し、わかってきた」
「何がだ?」とゼクトが眉をひそめる。トワも不思議そうに首をかしげていた。
アトラはきおくのピースを取り出すと、軽くかざす。すると——
ふっと、三人の間に淡い光の記憶が立ち上がる。
それはフォグニールでの出来事――廃都で初めてアトラがグリフを使い、トワを守った瞬間だった。
ゼクトが目を見開いた。「……今のは……」
「僕の記憶。グリフを通じて、“見せた”んだ。きおくのグリフは、記憶を共有できる」
「じゃあ……俺たちも、見られてるわけか」
ゼクトが片眉を上げる。口元にはわずかに苦笑が浮かんでいた。
トワは少し赤面しながら、ぷいと顔をそらす。「……あんまりこっち見ないでよ。なんか、全部見透かされてる気がして恥ずかしい。」
「……なにかやましい事が?」
ゼクトがニヤリとすると、トワが眉を吊り上げた。
「違うってば! ほんっとにもう……!」
そのやりとりに、アトラは小さく笑った。
「別に、覗いてない。……必要なときに、伝えられるだけだよ」
「じゃあ今のは、必要だったってことか?」
「……うん。僕が“ちゃんと進めてる”って、伝えたかった」
トワは一瞬きょとんとした後、そっと視線を伏せた。
そして、小さく呟く。
「……ふふ。変な人。そういうとこ、ずるいんだから」
ゼクトが「聞こえてるぞ」と肩をすくめると、トワはわざとそっぽを向いた。
アトラは肩をすくめたが、その声にはどこか自信が宿っていた。
まだすべてを理解しているわけではない。だが確実に、彼は“使える”ようになっていた。
アクセス。コード——
それらが、少しずつ繋がり始めている。
⸻
この国の中枢へ近づくため、まずは資金の確保と情報収集。
そのために、次は都市部へと向かう。宿を取り、街の空気に溶け込み、次なる動きを探る。
「よし、行こう。今日も暑くなりそうだしな」
そう言って立ち上がったゼクトの隣で、トワがアトラを見つめた。
「さっきの……見せてくれて、ありがとう」
アトラはうなずいた。「……うん。これはまだ試行錯誤段階だよ。扱い方を、僕も学んでるところだから」
光の粒が揺れ、朝の風に舞っていった。




