表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
アトラ=リコンフィグ  作者: ホウノ タイガ
10/73

第三章 情理の調律①

今日も覗いてくださってありがとうございます。

暇つぶしにでも、気軽に読んでいってくださいね。

第一節 記憶の断片、空へ


風が、ゆるやかに草を撫でていく。

そこには、どこか懐かしい匂いがあった。


ノルディアを後にして三日目の朝――。

アトラたちは、次の目的地であるセラミア教国を目指していた。


陽が昇るにつれて草原は白金に染まり、野鳥の声が点描のように静寂へと散っていく。

地図にもほとんど載っていない丘陵地帯の道を、三人はゆっくりと進んでいた。


「……この辺りで、少し休もうか」

アトラが言いかけたそのとき。先頭に立っていた彼の足がふと止まる。


「……あれは」


ゼクトがわずかに目を細める。「岩……? いや、違うな。妙な気配だ。グリフか?」


森の縁に、それはあった。

半ば草に埋もれたようにして、巨大な岩塊が、静かに横たわっている。


ただの石とは明らかに異なる“存在感”があった。

近づいて見ると、表面には無数の幾何模様が刻まれており、それらは浮かび上がっては消え、絶えず形を変えていた。


アトラはそっと手を伸ばし、岩に触れる。


その瞬間――

模様の意味が、“読めてしまった”。


(これは……コードだ)


複雑に絡み合う幾何構造。だが、アトラの中にはすでに、コードという概念への“感覚”が芽生えていた。

見たこともないはずの線や構成が、まるで記号のように脳裏で“意味”として展開されていく。


「“きおく”のグリフ……だと思う」


確信ではなかった。けれど、それは理解として、アトラの中に自然と流れ込んできていた。


──そして。視界が、反転した。


色があふれ、音が砕け、世界が断片化していく。

立っていたはずの地面が遠のき、代わりに膨大な“情報”が脳へと流れ込んでくる。


それは“記憶”だった。


老いた男が、誰かを見送る記憶。

少女が、泣きながら花を抱きしめる記憶。

兵士が、仲間を庇って撃たれる記憶。


どれも生々しく、鮮やかで、まるで自分の体験のように“胸の奥”に響いてくる。

それでいて、どこか遠くの他人の想いのようでもあった。


(……記録じゃない。これが、“記憶”……)


アトラはふらりと体勢を崩し、ひざをついた。


そのときだった。

ひときわ強く、深く、異質な記憶が彼の中へと流れ込んでくる。

他の記憶とはまるで違う。

それは“誰か”の視点ではなく、世界そのものが語りかけてくるような意志だった。


──アクセスとは、コードへの干渉。

──コードとは、記録の構造。力そのものではなく、“世界の理”を構成する骨格。

──この世界は十八の“構成式”で成り立っている。それぞれが異なる形で、異なる地に眠っている。

──構成を知り、解きほぐし、命令を下す。

それが真の力の扱い。



(……コードへの……干渉……)




ぼんやりとした理解が、輪郭を持って整っていく。

アクセスは力ではない。構造への“視線”だ。

自分がそれを持ち始めていることを、アトラは静かに悟った。


やがて、視界の隅に光る数字が滲む。


──3/18──


遠くから、声が聞こえた。


「アトラ! 大丈夫か!」

ゼクトの声だ。続いて――


「無理しないでよ!」

トワの声も、どこか切実に響いた。


アトラはゆっくりと目を開け、深く息を吐いた。


「……うん。大丈夫だよ」


地面を踏みしめて、立ち上がる。


ほんの数秒。けれどその間に、確かな“変化”があった。

もう、ただ流れに身を任せるだけじゃない。

自分の手で、構造に触れる術を持ちはじめている――その実感があった。


(……ありがとう、“記憶”。おかげで、少しだけ前に進めた気がする)


アトラは静かに手を握る。

その一歩は、世界を読み解くための、小さくて確かな第一歩だった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ