プロローグ:理想の残響
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かつて、あらゆる理は“ひとつの意志”によって生み出された。
争いのない世界。
無意味な殺生も、抑圧も、奪い合いもない。
すべての者が平等に与えられ、互いを慈しむ社会。
それは、創造神が掲げたたった一つの理想だった。
神は願った。
善が善として栄えるように。
優しさが連鎖し、世界が温もりで満ちるように。
人々が互いに助け合い、誰一人として取り残されぬように。
神は一つ目の世界を創った。
二つ目を創った。三つ目も、四つ目も。
人の心に、光が宿ることを信じて。
だがその願いは、幾度繰り返しても、届かなかった。
世界は歪んだ。
与えすぎれば、奪う者が現れた。
平等を与えれば、怠惰が支配した。
愛を教えれば、それを隠れ蓑に他者を操る者も現れた。
神は千回目の世界で膝をつき、
二千回目の世界で涙を流し、
そして──
2075回目の世界の崩壊を前に、すべてを諦めかけた。
けれどその時、神はふと思い出した。
はるか昔に創った、ある“存在”のことを。
その存在は、他者とは少し違っていた。
不完全な世界に生まれながら、他を愛し、守ろうとした者。
理想に届く可能性を、わずかに宿していた“異端”。
神はもう一度だけ、願いをかけることにした。
この歪んだ世界を、誰かの手で再び照らせないかと。
──そして、2076番目の世界に、“彼”は送り出された。