えっ、追放じゃないんですか?
この世の中には、様々な役職や役割が存在する。
例えば戦士──戦闘の前線で命を懸けて剣を振るい、
敵の攻撃を一身に受けて味方を守りもするなくてはならない存在。
例えば魔法使い──魔法と呼ばれる特別な秘術を扱い、
炎や水、風や大地の大自然の力を行使して強敵を倒し、
時には味方のサポートすらもこなす万能役。
例えば勇者──本当に世界を救う力を有しているわけではなく、
いわゆるパーティリーダーがこう呼ばれることもある。
しかし戦況を俯瞰してパーティに的確な指示を出し、自らも強力な
戦闘力を持って斬り込み隊長を買って出ることもある、最強に名を連ねる存在。
そんな誰もが憧れる様な役割を持っている人がいる一方、
僕のような雑用の全てを担うような目立たない役職だっている。
戦闘では戦うことは出来ないし、やっていることと言えば
荷物持ちやマッピング作業、そして食事の用意。
はっきり言ってしまおう、パーティにとっては〝お荷物〟と
呼ばれてしまっても仕方がない立ち位置である。
そして、そんな僕がパーティに呼び出されて、
冒険者ギルドの一室で立たされているのが現在。
目の前では戦士、魔法使い、勇者のパーティのみんなが、
厳粛な雰囲気を纏ってソファに座っていた。
「さて、今日雑用のお前を呼び出したのは他でもない。
もしかしたら理由は薄々感づいているかもしれないが……」
勇者さんが話を切り出して、僕はこの時が来たのかと観念して頷いた。
「はい……覚悟はしてきました」
「よろしい」
わかってくれるか、という表情で3人は頷いている。
どうやら僕は──
「このパーティ、クビになるんですよね──」
「俺たちがお前におんぶにだっこになっている現状を
なんとかした方がいいと呼びつけた──」
……しばしの沈黙が流れた。
『ん?』
なにか、気のせいかな……想像だにしていなかった言葉が聞こえたような?
「えっと、あの……僕がこのパーティを
抜けさせられるっていう事じゃ……?」
『何言ってんだ馬鹿!!』
戦士さんと魔法使いさんが声を揃えて立ち上がった。
この2人は特に難しそうな顔をしてたから、僕を追放したかったんじゃ?
「俺がどんだけ世話になってると思ってんだ!!
俺ら3人誰も飯の準備が出来なくて、パッサパサの携帯食料で
食いつないでいた時にお前がやって来てくれてなぁ!!
毎日の飯の時間がすっげぇ楽しみになったんだよ!!
はぁ……はぁ……考えただけで体が震えてきた……!!
お前が抜けちまったら俺は何を食って生きて行けばいいんだよ!!」
「えっと……他にも料理上手い人は居るでしょうから、
その人を雇えばいいだけなんじゃ……?」
「いいえ、それは聞き入れられない注文ねッ!!」
今度は魔法使いさんがこちらに向かって歩み寄ってくる、
なんだか鬼気迫る顔で少し怖い……
「あなたが来てから私の生活は一変したのよ……
今までの私は戦闘でのストレスが積み重なって、
なのにどんなリラクゼーションを実践しても
イライラやギスギスが晴れることは無かったの。
そこにあなたがやって来た──丁度限界がきて
人の居ないところで大泣きしていた時にね。
あなたの慰め方に、ストレス解消法に私は心の底から救われたのよ……
ガラガラを持っておしゃぶりを咥えながらおぎゃるのが、
こんなにも心の安らぎになるだなんて知らなかったのよ……」
「あの、ちょっと……!それは皆さんには内緒にしてって言ってたのに
ここで言ってよかったんですか……?」
「いいのよ。最近この2人にも布教したら興味を持ってくれたんだから」
2人に目を向けると、こちらにねっとりとした目を向けてくる。
別に2人増えたところで問題はないんだけど、2人はそれでいいのかな……
「そして俺も当然、お前に世話になっている奴の1人なわけだ」
最後に勇者さんが手を上げる、
彼にはそんなに尽くしたことは無いんだけど、何かあったかな?
「食事から迷宮探索、普段の生活までお前にやってもらっていてな……
そんなお前を見ているうちに、俺の心の中に1つの答えが
浮かんできたんだ。だから今後はお前をこう呼ばせてもらっても、
良いかな……?」
勇者さんは、爽やかな笑みを浮かべた。
「ママって……♡」
「うーん、別に構いませんよ。それで勇者さんの気が済むなら」
「ありがとうママ!!そして確認することが出来た、
俺たちはママなしでは生きていけないってことがな!!
なんでこれからもよろしくねママ!!以上俺たちの話終わりっ!!」
勇者さんが手を打ち鳴らすと、3人は良かった良かったと
笑顔になりながら扉を開けて外へと出ていく。
何が何だかわからなかったけれど……
「今後もパーティに居ていいってことかな?
なら問題ないかな!」
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ギルドの一室から出てきた4人組から部屋の鍵を受け取り、
受付嬢は漏れ聞こえていた内容を思い出して、身震いした。
「あのパーティ、すさまじいイカレ具合よね。
だからこそ、ダンジョン最下層まで踏破できる
力があるのかもしれないけれど──」
受付嬢は、誰にもバレない様に妖艶な笑みを浮かべた。
「こんな風に色々な事情が聴けるから、
この仕事辞められないわぁ……♡
今度まとめた本でも出してみましょうか!」
その後、〝最強パーティの心得〟として一冊の本が出版され、
倒錯したパーティが増えたのは後の世の話。