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鳴り響く警報さま

「よし、それならいけそうだ。契約しようじゃないか」


 二ヶ月という時間はかかるものの、事情を知れば仕方がないとしか言いようがなく、アインとしてもこれは無理を通せるような話ではないなと判断する。

 多少時間がかかる分は、それ以降の取引のために資金を作る時間と割り切って、ある分でなんとか魔力を回す算段を考えるしかない。

 奴隷商人から回ってくる分だけでなく、ノワール領内で発生する分も、シオンに言えばこちらについてはほぼ無料で回ってくるのだから、なんとかなるだろうと楽観視して、アインは商人との契約を結ぶ。


「大商いでしたね。ありがたいことです」


「こちらも助かる。状況が変わった場合の再契約は要相談ということで。次からはこいつを介さなくとも構わないな?」


 アインは部屋の片隅で無言のまま、ただ立ち尽くしている仲介人を指さす。

 お払い箱にされる、という話を耳にしても仲介人は抗議もせず、表情を変えることなくただ立っているだけだ。

 その様子から、仲介人の状態が尋常ではないということが当然奴隷商人にも分かったのだが、奴隷商人は特に気にすることもなく小さく肩をすくめた。


「そうですね。彼には次があるようには見えませんし、連絡を取るたびに仲介人を一人ずつ潰されていっても困りますし」


「じゃあ連絡先をくれ」


「はい、承りました。そちらの連絡先に送っておきます」


 奴隷商人が端末を操作し、シオンが自分の端末を確認して間違いなく要求した情報が送られていることを見る。


「この連絡先も、そういうのが対応しているのか?」


 アインがレプリカントの胸元辺りを指さすと、無表情であったレプリカントの顔が苦笑のそれに変わった。

 その変化は妙に不自然に見えて、アインは気味が悪いなと思う。


「顔と名前がバレれば、色々と拙いことになる身でして」


「まぁ商いが商いだから仕方がないな」


「利用されている方々も似たようなものでしょうに」


 皮肉だとすれば、言う相手が悪すぎるとシオンは顔を強張らせたのだが、アインは怒ることもなく淡々と言う。


「それは違う。俺は売っているから買っただけのことだ。それで俺が恨まれるなどお門違いだろう?」


 売っていなければ購入することを検討するようなこともなかったのだからとアインが言うと、奴隷商人はこれ以上この話を続けることは良いことにはなりそうにないと悟ったのか、あっさりとそうですねと折れた。


「そう言うわけで放免だ。お前に相応しい場所に帰れ」


 アインにそう指示されると、仲介人は黙ったまま部屋から速足で出て行った。

 この後、彼はどこへ行ってしまうのだろうかとぼんやり考えるシオンへ、アインはこそっと囁く。


「この世のどこかではないと思うぞ」


「そうなりますか」


 人としては既に、ほぼ廃人と化しているわけで、魔王の支配下から排除されれば自然とそうなるのだろうなとシオンは思うものの、だからといってこの仲介人を哀れんだり、その末路に同情を覚えたりすることはない。

 この辺りはやはり、シオンもまた魔族の一人であるということであった。

 さて契約も終えたし、仕事はこれで終了だと席を立とうとしたアインは、ふとその耳に遠くから聞こえてくる聞きなれない音を捉えて立ち止まる。

 やたらと不快感をかき立てるようなその電子音は、すぐにシオンも気づくところとなった。


「どうかされましたか?」


 アインとシオンの態度から、まさか何かの不備でもあったのだろうかと考えて尋ねる商人に、逆にアインが問い返す。


「何か妙な音が聞こえないか?」


「音、ですか?」


 言われた奴隷商人は右手の人差し指で自分のこめかみの辺りを軽く叩く。

 見た目は人族でも商人が今使っている体は精巧に造られた人工物であるレプリカントだ。

 おそらくは叩いたこめかみの辺りに聴力を調整する何かがあるのだろうとアインが思っていると、商人の表情が何か信じられないものを見た時のようなものになった。


「警報……」


「警報? 何の?」


 警報と聞いてシオンがきっと表情を引き締める。

 この場には魔王アインのための警護はシオン一人しかいない。


「シオン、殺気立つな。警報といっても何の警報だか分からんのだ。災害関連ならいくら殺気立っても無意味だぞ?」


 一命を賭してでもアインの身の安全をなどと考え始めていたシオンは水を差された形となり、不服そうにアインに目をやったのだが、アインはそれには取り合わずに商人へ尋ねた。



「改めて何の警報なんだ?」


「それが……」


 言い淀む形となった商人の表情は、あまり驚きすぎたせいなのか補正が入っておらず、ダイレクトにレプリカントの向こう側にいる人物の心情を表していた。


「とりあえず言ってみろ。信じられないような話でも構わない。間違っているならそれはそれで情報になりえるだろ」


 全く情報を持っていないアインとシオンにとっては、商人だけが情報源である。

 つまりは何かしゃべってもらわなくてはならないわけで、気軽にしゃべってみせろというアインの提案に商人が見せたのは、申し訳なさそうな顔であった。


「あれは、帝国軍の爆撃警報です」


「なんだと?」


 帝国軍と言うからにはおそらく、人族が主に形成している超銀河聖皇帝国とやらの軍のことであろう。

 しかしアイン達がいるのはその帝国の領土の上である。

 帝国にとっての敵地にいるのであればまだしも、自国の領土を爆撃しようとするとは、一体誰が何を考えてやっているのか皆目見当がつかない。


「私はご存じの通りレプリカントを遠隔操作しておりますので平気ですが、貴方達は……」


「生身だがこちらのことは気にするな。何とかする。それより帝国軍はどこから爆撃してくるって言うんだ?」


「警報を鳴らしているのは大気圏内活動用の小型艇ですが、本命は衛星軌道上にいるはずの艦隊です」


「それはまた……やたらと遠い所にいる相手だな」


 段々と大きく聞こえてくる警報の中、他に言うべき言葉も見つからずにアインはそうとだけ言ったのだった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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