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商う魔王さま

「ところで、どの扉に入るかはもう決まりましたか?」


 シオンに言われてアインは頷く。

 何か事前情報があるわけではないので、完全に当てずっぽうで選ぶことになるのだが、アインが目についた扉の一つを指さすと、アインに操られている仲介人がその扉の前に立ち、妙なリズムを刻むかのようにその扉をノックした。


「符丁ですかね?」


「そのようだな」


 二人の会話が事実であることを示すかのように、ガチャリと鍵の開く音がした。

 扉が開いたと前に出ようとしたシオンを制して、アインは仲介人を先行させる。


「いらっしゃいませ。ご用件をどうぞ」


 仲介人が開けた扉の向こうは小部屋になっており、小さなテーブルが一つと椅子が一対、向かい合う形で設置されていた。

 その部屋の奥側の椅子には、赤いドレスに身を包んだ茶髪の若い女性が座っており、入室しようとしたアイン達に声をかけてきたのだが、その姿と声にアインは何か分からないが強めの違和感を覚える。


「取引を」


 仲介人が前に出て、女性の前のテーブルに一枚のカードを置く。

 女性はそのカードをつまみ上げると、すぐにそれを仲介人へ返した。


「アイン。あれはレプリカントです。多分指に読み取りセンサーがついてますね」


「レプリカント?」


「人を模した機械です。精巧に造られていますが、全身が人工物です」


 アインが覚えた違和感は、どうやらその辺りから漂ってきているようだった。


「人の形をしたスピーカーみたいなものだと思ってください」


「影武者みたいなものか?」


「さぁ? 何せこれに繋がっている回線の向こう側にいるのが女性だとは限らないものですから」


 見た目も声も女性のものではあるのだが、見た目は本人に似せて作る必要はないし、声もボイスチェンジャーをかませれば、どのようにでも加工することができる。


「お取引をされる方はそちらへどうぞ」


 アインとシオンの会話を気にした様子は全くなく、茶髪の女性は自分の向かい側の椅子を勧めてくる。


「俺が対応しよう」


 応じたのはアインだった。

 私がやりましょうかと言うシオンを制し、アインは女性の対面に座る。


「ご用件をどうぞ」


「購入だ。研究資料をできるだけ。いくらの単価でどれだけ用意できる?」


 これは予め仲介人から教わっていたことなのだが、取引の際に馬鹿正直に奴隷が欲しいなどとは言わない。

 あくまでも、この場で取引されているのは研究資料という品名の消耗品であり、消耗品であるが故に取引された後は当たり前のこととして、消耗されてなくなることになっている。

 呼び方を変えてみたところで、やっていること自体に何ら変わりはないだろうにとアインは思うのだが、建前は建前としてそれを使うことがこの場におけるやり方であると言うならば、特にそれに対して抗う理由さえなければ、従うことに問題は感じない。


「即納ですと五十セットを。一セット二百万クレジットになります」


 一セットと言うのは成人の男女一組のことを表している。

 つまり百人ならば即引き渡しができるといっているのだ。

 これが多いのか少ないのか、アインには分からなかったが必要としている総数から比べれば、まるで足りないことは明らかであった。


「即納の条件を外したらどうなる?」


 今回の遠出で必要としている全数をそろえることができるのであればそれに越したことはなかったが、多少時間がかかってしまったとしても今回入手できる分で魔力を生産し、回せる処から順番に回していけばいい。

 即納されなかった分をノワール子爵領までデリバリーしてくれるのかどうかは分からないが、できないとしても受け取りに赴けばいいだけのことだ。


「同価格で、一ヶ月程頂けるのでしたら、もう五十セットご用意できるかと」


「少ないな」


「出物は商人の間で取り合いになりますので。一セット四百万クレジットまで見て頂けるのでしたら、五百セットまでご用意できるかと」


 それでも足りない上に、今度は値段が高くなり過ぎていた。

 アインの持つ予算は、以前サーヤに命じて市場で処分させた貴金属の売却益や近隣の男爵達が攻め込んできた時に航宙艦などから略奪した分などで、総計およそ百億クレジット程になる。

 この予算でアインは一万人ほど買い付けたいと考えていたのだが、見通しが甘かったかなと少し反省をしていた。

 二千年前の奴隷と言えば、ピンキリではあったものの、質の悪い最低ランクのものならば、一日の宿代にも満たないような金額で購入できていたのだ。

 そんな古い金銭感覚を引きずってしまった結果が今なのだが、このままだと財布の中身を全て吐き出すようなことになったとしても、目標の半分程度を入手することがやっとという結果になりかねない。


「数を多く買えば、単価は下がると思ったんだがな」


 まとめ買いしたものは、大体安くなるのが相場なのではないかとアインが問いかけると、茶髪の女性はわずかに視線を下げた。


「申し訳ありません、お客様。こちらの商品は数が多ければ多いほど、単価の上がる商品となっております」


「そうなのか? その辺りを説明してもらってもいいか? それと即納の五十は購入する」


 ギリギリではあるが、即納分の五十セットは予算の枠内に納まっている。

 その分だけでも買うことを告げると茶髪の女性は売買契約の表示されたタブレットをアインへ差し出す。


「商品の使用方法は大体、未開拓惑星の開拓か、一次産業を主とした惑星への入植となります」


 そう言われればアインも、数を揃えた方が値段が上がる理由を察する。

 茶髪の女性が挙げた研究資料の使い道はいずれも、それなりの数を揃えて投入しなければ効果が上がらないものばかりだからだ。

 未開の惑星に十や二十の人間を投入したところで大した成果は望めないが、千も万も投入できるならばそれなりの結果は残せるだろうということである。


「こうなると、複数の商人をあたって木っ端を集めてみるしかないか」


 それを実行しようとすると数十人以上の商人と商談をしなければならなくなる。

 実に面倒な話になりそうだと、アインはがっくりと肩を落としたのだった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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― 新着の感想 ―
[気になる点] まず男女のセットという条件を外すべきだと思うのですが
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