こういう事情の人族さま
そして時間は流れて夜になる。
夜の歓楽街と言うと、何やらよからぬ期待をさせるような響きを帯びるように感じられるものだが、惑星ゲルドの歓楽街はおよそ人間が想像したり欲したりしている欲望の対象を大方取り揃えていると言う筋金入りの歓楽街であった。
その街の中で行われているのが今回アイン達が目的の場としている奴隷売買の会場である。
奴隷の売買と一口で言ってみても、その方法は二通りあった。
一つはオークション形式だ。
会場の舞台の上に商品となる奴隷が立たされ、それに対して参加者が値段を書いた札を入れる方法である。
どういった奴隷がどのくらいの値段で購入できるのかは、その時の品ぞろえと参加者、そして運に左右されるのだが、参加者同士の駆け引きや、たまに本当のレアものの出品があったりして、非常に熱くなったり盛り上がったりする。
もう一つは奴隷商人と一対一で交渉する方法だ。
オークションに出せる程のものではない奴隷を、何人かまとめて一組いくらと売買する方法で、アイン達が今回目的としているのは後者の方である。
こちらは取り扱っている商品の質が悪いせいか、扱っている商人の柄も悪く、その取り巻きに至っては質も柄も悪いという悪い所尽くしで、一般人はまず近寄らない所であり、ぱっと見た限りではほぼ違法な取引にしか見えない。
「しかし合法なんです。超銀河聖皇帝国法においては」
「長いしダサい」
昼間に確保した仲介人を先頭に立てて、アイン達が歩いているのはビルの一フロアを借りて設置された売買会場の一つだ。
入り口でチェックを受けて中へ通されると、そこは長い廊下になっていて、左右の壁に扉が等間隔で並んでいる。
これはその扉の向こうにある部屋の一つ一つで奴隷商人が客を待っており、客は適当に部屋を選んでそこにいる商人と商談をするという形式になっているのだ。
「しかし、使い捨ての奴隷が合法で取引されてるとか、大丈夫なのか何とか帝国」
極端なことを言えば、金で命が買えてしまうということだ。
「人口増加対策の中の、苦肉の策だと言うことになっています」
そう語るシオンは、何故かアインと同じく男性物の黒いスーツを着ている。
貴族っぽい恰好でもなく軍服でもなく、何故それを選んだのかと首を傾げるアインなのだが、昼間のアインの立ち回りから荒事になった場合、動きやすい服装をと考えた結果なのだとシオンは答えていた。
しかし、そんなナリをしていても体のラインからシオンが女性であるということは一目でわかるので、売買会場入り口でもボディチェックは女性の係員が行っている。
この程度の気配りができていれば、こいつもこんな目に合わずに済んだのになとアインは仲介人を見たのだが、これに関しては完全に後の祭りだ。
「苦肉の策?」
廊下は広めに作られており、アイン達の他の客の姿もちらほら見える。
アインが欲している奴隷の人数は半端な数ではなく、一人の商人に用意できるような数だとは思えず、何人かの商人と話をする必要があると考えられていたが、まず一人目を誰にするべきかと考えながら話をしているので、アインの声はやや気の抜けたものになってしまっていたのだが、シオンは気にすることなく説明を続けていく。
「人族はとにかくよく増えます。一年中発情期ですし、所構わず繁殖します」
「あぁ、そうだな」
「人族の国でこのようなことを言うのもなんですが。魔王の中には人族の絶滅を目論んだ方もいたと聞いています」
「事実だ。実際ここにも一人いる」
自分を指さしたアインに、シオンは驚いた表情を向ける。
「アインもなんですか?」
「人族が存在する限り、魔王に対抗して勇者やら聖女やらが生まれてくるわけだからな。どういう仕組みか知らないが、勇者を絶滅させようと思ったら、人族を根絶する以外に手がないんだ」
「失敗、したんですよね?」
おそるおそるといった感じで尋ねてくるシオンに、アインは忌々しそうな顔をしながら頷いた。
「成功してたらこのなんとか帝国なんて国は存在していないだろ」
「それはそうなんですが。アインが失敗するところというのが想像できませんでしたので」
逆に言うのであれば、アインが失敗するような話であるならば、それは当然他の魔王も成功しないだろうなと思うシオンである。
「一歩手前くらいまではいけたんだがなぁ」
「いっちゃったんでんすか!?」
「地上部分は念入りに、完全に滅ぼしつくしたんだが……地下に逃げられててな。気が付いたら百年くらいで元通りになってた」
思い出したくないと忌々し気に呟いてからアインは、シオンに元の話題の説明を続けるように促す。
「生存圏が広がったことで、人口の増加に拍車がかかった人族なのですが、人口が増えればそれに比例して犯罪者の類の数も増えます」
増えた犯罪者をどうすればいいかと問われて、人族の国家はこれをまとめて捕らえると、片っ端から刑務所へと放り込んだ。
「それであっさり。許容量がオーバーしてしまったんです」
刑務所に放り込まれた囚人は、タダで生活できるわけではない。
当然、生活するには費用がかかる。
囚人には一定の労務が課されるのだが、それで全てが賄えるわけでもない。
さらに、刑務所の広さは有限であり、収監できる囚人の数も決まっているのだが、囚人の発生数があっさりとその収容人数を越えてしまったのだ。
こうして人族の国家は、刻一刻と増え続ける囚人を何とかする必要に迫られて、その解決方法として選び出されたのが奴隷売買というシステムだったのである。
「売られることで囚人は減り、売買益によって国が潤う一石二鳥のシステムとして合法化したんです」
「なるほどな」
酷い話なのかもしれないが、合理的ではあるとアインは思う。
奴隷として売られるのが嫌なのであれば、犯罪者にならなければいいのだ。
これはもしかすると犯罪抑止にも一役買っているのかもしれない。
「まぁ。このシステムが導入された後も、刑務所は満員御礼状態だそうですが」
「駄目じゃないか」
「売買益の方も汚職と腐敗の温床になっているみたいです」
「全く話にならないな」
これだけ駄目な種族だというのに、何故勝手に滅んだりしないのだろうかとアインは本気で思い悩むのであった。
面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。
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