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素直に言っちゃう魔王さま

「次に現状をお話します」


 アインが眠りについた後のことは、シオンからしてみれば口伝や記録上で知るだけのもので、詳しい事情や裏側のことを知っていると言うわけではない。

 だから分かることだけを情報として伝えて、次の話に切り替える。


「まず、現在私達のいる場所ですが。サタニエル王国ノワール領、第一恒星系第三惑星ノワールです」


 何やら妙に長々とした言葉の並びが右から左へと流れていく光景をアインは幻視してしまっていた。

 全く理解した様子のないアインなのだが、シオンは落胆も失望もせずにただただ仕方がないなと言った感じで苦笑する。


「質問は随時受け付けますよ」


「助かる。まずそのサタニエル王国と言うのは何だ?」


 アインからしてみれば聞いたことのない国名であった。

 もっとも二千年もの月日を経ているということが事実なのであれば、国の名前などいくつも変わっていておかしくはない。


「サタニエル王国は主に魔族を国民として建国された国です。建国以来およそ五百年が経過しており、現在七つの銀河系を支配しています」


「ぎんが?」


「はい。いくつかの恒星系を内包した天体の集団のことで、大体直径十万光年くらいのものになります」


「なんだそれは?」


 問いかけるアインに、やっぱりそうなりますよねと思いつつシオンは説明する。

 魔王アインが眠りについてから千年程は、世界に変化はほとんど起きなかった。

 変化が起きたのは突然のことで、とある人族の国が提唱した科学なるものが、あっと言う間に世界を作り替えてしまったのである。

 馬や牛を使わなくとも車が動くようになり、木でできた船の代わりに鉄で作られた船が漕ぎ手もいないというのに黒い煙を吐いて川や海を渡るようになった。

 これらにより、世界はあっと言う間に狭いものになり、人の手は地上、海上から空にまで伸ばされる。

 すぐに鉄の鳥が空を飛び回るようになると人々はそれに満足することなく、その手を自分達が住んでいた世界。

 すなわち、星からさらに外へと伸ばし始めたのである。


「現在、人々の生息圏は星々の浮かぶ空間である宇宙という所にまで拡大しております。宇宙はとても広大ですので使われる距離の単位は光が進む距離が単位になっていることが多いです」


「では先程の十万光年というのは?」


「光の速さで十万年かかる、という距離になりますね」


 ですね、と言われてもそれはアインが想像もできないような話であり、頷くことすらできなかった。

 確かに二千年という月日は、世界が大きく変化していたとしても不思議ではないくらいに長い年月ではある。

 しかしそれにしても少々変わりすぎではないだろうかと思うアインに、シオンは追い打ちをかけるような情報を流す。


「現在ある国家は大小合わせますとちょっと詳細が分からないくらいの数になりますが、その中で大きな勢力は四つあります」


 そうシオンが言うと、テーブルの上に半透明の地図らしきものが浮かび上がった。

 幻影系の魔術かと思ったアインなのだが、魔力が動いたような気配はなく、説明を求めるようにシオンを見れば、シオンは先にこちらの説明をと地図を指さす。


「三次元のものを無理に平面に落としたものなのですが、まず私達のいるサタニエル王国が一つ」


 地図の一角が紫色に染まる。

 染まった地域がそのサタニエル王国の領域なのだろうなとアインが思っていると、その斜め隣の領域が緑色に染まった。


「今、色が変わったのがエルドワ・ドワエル連合国になります」


「語感からしてエルフとドワーフの国っぽいが……変な名前だな?」


 エルフは容姿の整った細身で、短剣の刃の様に尖って長い耳が特徴の種族で、魔術と弓の扱いに長けた森に住む亜人種だ。

 ドワーフは背丈が低く、がっしりとした体格で、岩山等に好んで住んでいる金属の扱いに長けている亜人種である。

 アインの知る限り、この二つの種族はあまり仲のいい関係ではなかったはずなのだが、そんな者達が連合国を作るというのも長い年月が成した事なのかもしれないなと思う。


「名前はもめた結果ですね。エルが先かドワが先かで数十年くらい言い争った結果だそうです」


「暇なのか?」


「二千年も寝ていた方が言うと、どう反応していいやら迷いますね」


 くだらないことに何十年かけているのやらと呆れたアインだったのだが、シオンの切り返しに言葉を詰まらせてしまう。


「……話の続きを」


「はい。サタニエル王国の右隣。連合国の対面にありますのが金獅子帝国。獣人が主体の国です」


 獣人は人族の体のあちこちに獣の特徴を持つ種族だったなとアインは思い出す。

 大体は獣の耳と尻尾がついているくらいのものなのだが、個体によっては体毛まで獣のものであったり、手足や顔が獣そのものであったりすることもある。

 獣に近ければ近い程、強い力を持っているとされる種族なのだが、何がどう影響して人に近づいたり獣に近づいたりしているのか、全く解き明かされていない。

 もっともそれは他の種族が研究したくなるようなテーマでもなく、当の本人達もまるで気にしていないことであるので、そもそもが解き明かそうとされてすらいないというのが正しい表現であった。


「その科学とやら。獣人にも理解できる代物だったのか」


 獣人は、アインの持つイメージでは学問の習得にあまり向いていない種族であった。


「一部の獣人は学ぶことが好きですし、獣人しかいないというわけでもありませんし」


 そうシオンが語ると地図の一部が茶色に染まる。

 そこが金獅子帝国の領域なのだろうなとアインが考えていると、これまで地図上で塗られた三色全てを足した広さより、さらに広い範囲がピンク色に染まった。


「広いな」


「人族の繁殖能力は他の追随を許さないくらいですからね」


 その言葉でアインは、ピンクに塗られた広大な範囲が人族の国家の領域を示しているものなのだと知る。


「そのピンク色の領域が人族主体の国。その名を超銀河聖皇帝国と言います」


「名前、クソダサイな!?」


 思わず口走ってしまったアインに対し、そうですよねぇと思いながらもそれは口に出さず、シオンは苦笑するだけに止めておいたのだった。

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