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耐える魔王さま

 そんな少々怪しい手続きを経て、通された地上への連絡艇は至って普通のものであり、アインは拍子抜けする。

 入星手続きが適当だったのならば、使われている機材なども手入れの行き届いていない出所も怪しいものだったりするのではないかと思っていたのだが、そんな予想を大きく外して連絡艇はきちんと整備されており、艇内も清潔なものであった。

 では搭乗者はどうかと言えば、こちらも取り立てて妙な感じのする者はおらず、人族のビジネスマン風の男や観光客らしき若者の姿があるだけで、見るからに一般人とは思えないような人物の姿はない。


「何か珍しいものでもありましたか?」


 三人がけの座席で、窓際に座ったシオンがあちこちに視線を走らせていたアインに問いかける。

 ちなみに席順は窓側から右へ、シオン、アイン、クロワールの順番で座っており、クロワールが通路側だ。


「珍しいものがまるでないのが逆に不自然だな」


 惑星ゲルドがあまりよろしい場所ではないという話の割に、一般人しかいないじゃないかと思うアインにシオンが困った顔をして、クロワールが小さく噴き出した。


「なんだ?」


 二人の反応は何かしら含むところのあるそれであり、言いたいことがあるならば言えとばかりにアインが少し圧をかけて聞くと、シオンが困ったような顔のまま言う。


「おそらくアインにはこの艇の搭乗者がみんな一般人に見えているのだと思いますが……」


「違うのか?」


 まさか自分達に気取られぬように、完全に実力を隠してしまっているのかと驚くアインにシオンは、言いづらそうにしながら言った。


「この艇に、たぶん堅気の人は私達以外乗っていません」


 つまり、ほぼ全員が何かしら後ろめたいことをしていたり、脛に傷持つような輩ばかりが集まっているのだとシオンは言うのだ。


「ウソだろ?」


「これが魔族の国だったら、陛下も気づかれたと思うのデス」


 サタニエル王国内で見かけるのは主に魔族なのだが、アイン達が今いるのは人族の国であり、周囲にいるのはほとんどが人族で、ちらほらと獣人族の姿が見受けられるくらいである。

 それ故に、よろしくない筋の者と言ってもそれは人族なのだが、人族と魔族との間にはその能力に大きな差があった。

 さらに言えば、鍛え上げられている人族ならばともかく、歓楽惑星のような場所に行く人族は大抵、チンピラレベルの人族だ。

 これに対してアインは、魔族の中でも特に力のある存在の魔王である。

 その力の差は歴然とし過ぎており、アインの目から人族をざっと見たのならば、実力的にはほとんど似たような、たとえるならば真っ平らな状態にしか見えないのだった。


「じっと目を凝らして見てみれば、アインにも分かるとは思うのですが」


「逆に言うと、じっと目を凝らして見てみないと分からない程度の差しかない連中と言うことなのデス」


 言われてから改めて周囲を見回すと、なんとなく違うのかなと思うくらいの違和感を見つけることはできたのだが、そこまでしないと分からない程度のものであるならば、特に警戒することもないかとアインは座席に深く腰掛けて、目を瞑る。

 ステーションから地表までの行程はさほど時間を必要としない。

 途中、大気の圧縮による高熱と振動とを潜り抜ける必要はあるが、事故が起きる確率はとても低く抑えられている。


「昔はまぁまぁ事故ったそうデス」


「縁起でもないことを言わないでください」


「別に事故を起こしたところで、俺と一緒ならば生身でも地上まで連れて行ってやるが?」


 遥か昔、この魔王は生身で宇宙空間まで飛んでいき、自力で戻ってきたという経歴を自己申告ながら持っている。

 いくら魔族と言えども、それが本当ならばそんなことができるのはアインくらいなものだ。


「私達だけなら無理です」


「だから心配しなくとも運んでやる」


「おー、大船ならぬ魔王様に乗った気持ちでいられマスね」


「クロワール……」


「ちなみにシオン様は魔王様にもう乗ったりしたのデスか?」


「どういう意味?」


「主にベッドの上なんかのお話デスが、人によって場所は色々デス」


「口を閉じなさい、クロワール」


「陛下。私なら何時でもおっけーデスよ?」


「クロワール!?」


 席順を間違っただろうかと思いながら、アインがシオンとクロワールの間で耐えることしばし。

 連絡艇は特にトラブルを起こすようなこともなく、地表側のステーションへと到着した。


「そう言えばシオン。ここにはどのくらい滞在するつもりなんだ?」


 ステーションの中を歩くアイン達なのだが、手荷物の類は持っていない。

 旅行者としてもあまりに軽装すぎるのだが、荷物などは予め滞在先のホテルに送っているので、運ぶ必要がなかったのだ。

 代わりに荷物の総量が分からないので、シオンがどのくらいの滞在を予定して荷物を用意したのかもさっぱり分からない。


「数日位ですが、長引けば買い足しますし、早く終われば持ち帰ります」


 その辺りは状況次第で流動的ですねとシオンは答える。

 目的のものが早々に手に入ればいいのだが、そうでなければ多少の延期も当然視野に入れなければならない。


「ホテルの方はとりあえず、一週間分を押さえてあります」


 ステーションを出てすぐにシオンは一台のタクシーを捉える。

 運転手のいない無人の車体に、取り付けてあるマイクへ行き先を告げると、後部座席のドアが自動的に開いた。


「どうにも気味が悪いな」


 連絡艇の時と同じ席順でアイン達が車へと乗りこむと、ドアが勝手に閉まって車が走り出す。

 外は昼時で強い日の光が降り注いでいたが、車内はその光を遮り、人工の明かりとエアコンによって調整された空気が快適な空間を作り出していた。


「無人タクシーは慣れませんか?」


「なんとなく気分的にな」


 どういう理屈で動いているかについては説明を受けているアインなのだが、それでも何故かなんとなく気味の悪さを感じてしまう。

 感覚的なものはどうしようもないなとそんな気持ちを押し殺して、アインは座席の前の操作盤をいじっているシオンに尋ねる。


「この後の予定は?」


「仲介屋との面会ですね」


 今回の目的地はただ行けばいいというところではないのだというシオンの説明に、アインは鷹揚に頷いてみせるのだった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。

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