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増えてた魔王〇

 人類の生息圏は宇宙の広さからすればとてもちっぽけなものではあるが、その中に住む者にとってはとてつもなく広い。

 航宙艦を使った通常の移動方法では、ノワール子爵領からサタニエル王家本星まで移動するだけで一生が終わりかねないだけの時間がかかってしまう。

 それではとても国として機能するはずがなく、人類はそのとてつもない距離をどうにかして移動する方法が必要であった。


「そして開発された航法が、通称スターゲート航法と言うのデス」


 プラチナブロンドをポニーテールにし、小柄な体にエプロンドレスを着た少女。

 大きめの瞳に宿す光に、少しばかり何か危ういものを感じさせるメイドが航宙艦魔王城三号艦のブリッジで、艦長席に座るアインにそんな説明をした。


「また一隻、増えてる!?」


 副長席に座っていたシオンが、少し遅いのではないかと思われる驚きの声を上げ、それに対してプラチナブロンドの少女こと、メイドのクロワールが小さく鼻を鳴らす。


「増えたワケではないデス。一号艦がダメージ部位から二つに分かれたダケデス」


 少し前に魔王城一号艦内で、正体不明の生物との戦闘があった。

 敵はどうにか撃退したものの、その戦闘によって戦闘メイドの三名がほぼ戦闘不能となり、魔王城は中破判定を受けるくらいのダメージを受けてしまう。

 魔王城はそこから船体の修復を行おうとしたのだが、受けたダメージが深すぎたのか二つに分かれてしまい、仕方なくアインは大きな方を一号艦とし、小さな方を三号艦と命名。


「隻数は増えてますよね?」


「大きさは減ってるデス」


 戦闘不能となった戦闘メイド三名の内、二名はいまだに病院で治療を受けているのだが、一人だけ多少軽く済んだこのクロワールはなんとか復帰し、アイン付きのメイドとして今回の行動に付き従っていた。

 ちなみに、クロワールの上司でもあるメイド長のサーヤなのだが、今回の行動には同行していない。

 サーヤには別口で、ノワール子爵領内での人材発掘を命じており、そちらに専念するためにノワール領に残ったためだ。


「魔王城に関しては気にするな。どうせ育ち切ればまた似たような大きさになる」


 魔王城一号艦は元々、全長が一キロメートルを越えるラージシップ級の航宙艦であった。

 それはつまり、一号艦から三号艦まで全てラージシップ級にまで育つということであり、自分の領内で受け入れきれるだろうかと心配になるクロワールだったが、それに気づかずにアインはクロワールに尋ねる。


「スターゲート航法というのは何だ?」


「それは遥かより此方。此方から遥かへと繋ぐ星の門のことデス」


「そういうもやっとした言い方でなく、具体的に」


「モニター前方にあるのがそれデス」


 アインはブリッジ前方のモニターへと目を向ける。

 そこには漆黒の宇宙が映し出されているのだが、魔王城の進行方向にぼんやりと白く、霧がかかったような空間が見えていた。


「アレがスターゲートデス。正式には共振歪曲点間航法と言いマス」


「ふむ?」


 名前だけ言われても、どんな航法なのかはアインに分かるわけもない。


「詳しいことは学者センセではナイので分かりませんが、共振させた歪曲点間を航行すると、距離がどこかに吹っ飛ばされるのデス」


 この航法により、人類は数千光年と言う距離をわずか数時間で移動することができるようになったのだが、歪曲点自体がどこにでも設置できるというようなものではなく、様々な条件が必要とされるために跳べる地点は限られている。


「当艦はまず、サタニエル王家の四ヶ国不可侵領域前まで跳びマス」


 外の様子を映し出しているモニターの端っこの方に、クロワールは宙域図を表示させてアインへ説明をする。


「そこで越境申請をして、不可侵領域を経由し、超銀河聖皇帝国へ入りマス」


 これは誰に知られても全く困ることのない、正規の手順を踏んだ行為であり、全てが法の範囲に収まっている。


「超銀河聖皇帝国に入りましたら、もう一度スターゲートを使って辺境区画の惑星ゲルドを目指しマス」


 クロワールが口にした惑星ゲルド。

 今回の行動の目的地である。


「なぁシオン。俺はいまだに信じられないんだが」


 歪曲点へ突入するための準備が着々と整っていくのを見ながらアインはシオンに言う。


「本当に、いまだに存在しているのか? 奴隷なんて代物が」


 それは人が人を売り買いする行為だ。

 奴隷として売られた者は買った者に服従を強いられ、大概は尊厳も人権も何もかもを踏みにじられるような目にあう。

 アインが魔王をやっていた二千年前にも普通にあった制度ではあるのだが、その頃から色々と問題を提起されてきたものでもあり、アインとしては二千年後のこの世界にまだ存在していることが信じられない代物であった。


「問題は多々ありますし、あっちこっちから廃止を求める声が上がり続けているものではあるのですが……不思議と存続しています」


 説明しつつもあまりいい気分はしないのか、シオンは顔をしかめた。


「商品の供給源は様々ですが、大部分は刑務所からの供給か、自ら望んで売りに来る者なんだそうです」


「自ら? 正気か?」


 一度買われてしまえば、契約の下にほぼ全ての自由を奪われる。

 それどころかものによっては生殺与奪の権利すら買い手の自由にできるのだ。

 そんな身分に自ら売り込みに行くとは、アインから言わせれば正気の沙汰ではない。


「奴隷にされた方がマシだったり、まとまった資金が必要だったりと、理由は色々だそうです」


「なるほどな」


 豊かではないから食いぶちを減らすために身売りをする。

 これも昔からよくあった話だ。

 二千年経ってもそういう所は変わらないのなと溜息を吐くアインに、シオンが少し慌てて言う。


「で、ですが。この制度が生き残っているのは公的には人族の国のみ。裏でやっていそうなのも獣人族だけですから」


「他は?」


「エルフやドワーフは元々、そんなことをしていませんし。魔族は禁止になってから徹底的に取り締まりましたので完全に撲滅されています」


 サタニエル王家が主体となって、国家の威信をかけてやったのですとシオンが言えば、まともな政事をしていたのだなとアインは王家をそれなりに評価するのであった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。

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