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暗躍してた魔王さま

「そういう訳でして、現状私達が手を出せる相手はエルフかドワーフか獣人族かの三択になります」


 本当は同族である魔族も選択肢に入らなくはないのだが、魔族に関しては既に犯罪者を魔王城へ連行する形で手を出してしまっているので、これ以上の消費は避けておきたいシオンが意図的に選択肢から外した。


「エルフとドワーフは絶対にダメだ。あいつら簡単に滅亡しかけるからな」


 即座に答えを返してきたアインに、シオンはおやっという顔をする。

 決断が早い、と言うよりはあらかじめ決めていたことをそのまま答えたかのように思えてシオンは質問した。


「何かお考えが?」


「実体験からだ。あいつら放っておいても割と簡単に滅亡するんだよ」


 シオンはアインの言い方に少しばかりひっかかりを覚えてさらに尋ねる。


「なんだか過去に、実際滅亡したことがあるみたいな言い方ですよね?」


「あるぞ」


 さらっとアインが言い放った言葉に衝撃を受けて、シオンは椅子に深く腰掛けなおしてからそっと自分の胸に手を当てて息を整えた。


「あ、あるんですか!?」


「ある。どちらも確実に一回、種族として絶滅してる」


 にわかには信じがたい話にシオンがぽかんと口を開ける。

 それに構わずアインは昔を思い出すようにそっと目を閉じた。


「エルフって美形だろ?」


「えぇはい」


「ドワーフって物作りが得意で、鉱山とかでもよく働くし丈夫だろ」


「それはまぁ」


「そこを人族に目をつけられたんだよな」


 目を開いてアインは一つ溜息を吐く。


「あいつら加減ってものを知らないから、気づけばエルフもドワーフも絶滅しててなぁ。あれはさすがに俺も焦った」


 要は人族に狩り集められ、奉仕やら労働やらに使われまくった結果、あまり子供を作らないこの二つの種族はあっさりと絶滅してしまったのだ。


「え? え!? でも……エルフもドワーフも今、ちゃんといますよ……ね?」


 きちんと国を作って四大勢力の一つに数えられている種族である。

 絶滅したというのはおかしいのではないかと問うシオンに、アインは当時のことを思い出してげんなりとした顔になった。


「他言無用だぞ。誰にも言うなよ」


「言えませんし、言っても信じてもらえるとは思えません」


 エルフとドワーフの国は二つの種族が作ったものであり、規模も他の三つと比べればいくらか見劣りはするものの、十分に強大なものだ。

 それを築き上げた種族が、過去に滅亡していたことがあると言われて、すんなりと信じる者がいるとは思えない。


「ぎりぎり新鮮な死体が手に入ったんだよ。そこから材料を採取して、どうにか男女のエルフ四組とドワーフ六組をこしらえたんだ」


「そ、それって……エルフの大いなる八名と、ドワーフの金床の十二人なのでは」


 それは二つの種族が大いなる困難に見舞われ、危機に瀕していた時。

 シオンが言ったように呼ばれるエルフとドワーフとが、人々に進むべき道を教えて危機から脱することができたと言う言い伝えである。


「どう呼ばれているかまでは知らんが、大仕事だったよ。自然に増えるのを待っていたらまた勝手に絶滅するだろうから、最初の奴らからまた材料を採ってなぁ……」


「うわぁ……」


「まぁその時は体組織からじゃなくてちゃんと子供を作るためのものが採取できたからまだよかったんだが……成長促進かまして洗脳で不自然さを消してと……魔王城がエルフとドワーフの託児所みたいになってたな」


 魔王城が託児所と言われてもシオンの持つ想像力ではそんな光景を想像することができなかった。

 もちろん、エルフやドワーフの子供らに囲まれた魔王様など、想像の範囲の遥か外の代物である。


「放っておいても大丈夫かなと思えるまで、百年くらいかかった」


「それは大変でしたね」


「そんなわけだから、エルフとドワーフには下手に手が出せない」


「理由は分かりましたが、何故アインがエルフやドワーフの保護を?」


 魔王らしからぬ仕事ではないかとシオンは思う。

 魔王ならば、魔族以外は滅んでしまえと考えていたとしても何ら不思議ではない。

 むしろそちらの考え方の方が魔王らしいとすら言える。


「魔王だからと言って、なんでも壊しまくっていればいいってものではない」


 何となくシオンが抱いている魔王のイメージを察してアインは渋い顔をする。


「エルフやドワーフがいなくなると、作れなくなる物もある」


「材料的な意味合いで?」


「技術的だ」


 アインはじろりとシオンを睨みつけ、シオンは目を伏せて体を縮こませる。

 とは言え魔王と言えば何でも破壊してしまうようなイメージが付きまとうことはアインも分かっているので、それ以上のことは言葉や態度にはしない。


「では獣人族に手を出しますか?」


 消去法ではそれしか選択肢が残っていないのだが、アインは首を縦には振らなかった。


「アイン?」


「獣人族からはロクな魔力が採れない」


「そう、なんですか?」


「あいつら生命力は高いんだが、魔力に転化しようとするとさっぱりなんだよ」


 手荒に扱ったとしてもエルフやドワーフのようなことになる心配は少ないとはいえ、そこから精製される魔力はとても少ない。

 少ない魔力しか生み出せないとなれば、必要な分の魔力を手にするためには他の種族の何倍、何十倍もの人数の獣人族が必要となってしまう。


「やはり人族がベストだ」


「嫌なベストもあったものですが……」


「適当に扱っても減らないし、放っておけば勝手に増えてる。取れる魔力もまずまずの量と質といいことずくめだ」


「そうですか……」


「なんとかならないものか?」


 いい考えはないかと問うアイン。

 魔王に頼られるという状況威に、くらりと甘い優越感を覚えるシオンではあったのだが、緩みそうになる顔を引き締め一つ咳払いをする。


「一応、合法的に人族を集めて使う方法があります」


「合法的……?」


「少々コストはかかりますが」


 アインの目的のために人を集める方法が合法になるとはアインには思えない。

 しかしシオンが特に気負うことなく言う以上は、一度任せてみようかなと思うのであった。

面白いなとか、もっと書けなどと思われましたら。


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