動き出す魔王さま
アインが次に意識を取り戻したのは、半壊した魔王城のドラゴンモドキとの戦闘現場である。
「不発ですか?」
それもおそらくはアインが何かの気配を感じ取り、亀裂に向かって断界を放った直後。
アインが魔術を放ったはずだというのに、何事も起きていないように見えることからサーヤは魔力不足からくる不発で終わったのではないかと考えたようだった。
だがそうでないことはアイン自身が一番よくわかっている。
アインがキープしていた魔術はきちんと発動しており、おそらくはあの褐色の肌をした女性の指先を少しだけ傷つけたのだ。
あの程度の、傷ともよべないようなものでは彼女を退かせることなどできるわけがなく、まだ近くにいるのではないかと気配を探ってみるアインだったが、少なくともアインが感知できる範囲には目立った気配は存在していなかった。
「サーヤ、魔王城のダメージ判定」
「はい、すぐに」
「シオンは乗員の点呼を取れ」
「分かりました」
魔王城のダメージは、なんとなく予想はついていたものの、確認は必要だろうとアインが指示を出すと、すぐにサーヤが結果を出す。
「中破判定、変わりありません」
「やはり魔術の不発ですか?」
シオンの問いかけにアインは黙って首をすくめる。
魔術の威力が全て、あの小さな傷を作るために集約されてしまったのだとすれば、他へダメージが入っていないことなど容易に想像できた。
「乗員の方は問題ありません」
「無事か? 幸運だったな」
正体については全くの不明だが、アインが対峙した褐色肌の女性。
あれとニアミスをおかしておいて、人的被害がゼロであるならば、相当な幸運だったのだろうとアインは思う。
「まぁ相手にする程じゃないと思われただけかもしれないがな」
そちらの可能性の方が大きそうだとアインは苦笑する。
「アイン、何か気になることが?」
相手にされたなかったかもしれないと考えて自嘲気味に笑ったせいか、シオンが気づかわし気に声をかけてくる。
「思っていたよりずっと、今回の件は手間と面倒が多そうだ。少なくとも俺のごり押しだけでは無理だな」
「無理、ですか」
アインが何かと会っていたことは、アイン以外の誰も知りえなかったようで、それもおそらくは幸運だったのだろうなとアインは思う。
何せ相手はおそらく、ドラゴンモドキの上位にある存在のはずだ。
その影響力は比べるべくもないものであり、アインを除いた魔王城内の全員が瞬時に気がふれていたとしても全くおかしくない。
そんなものに関係している何かが、惑星アウターには存在するのだ。
むしろユミル・カドモンなる人物は、一体どうやってそんな場所から生還したのか、とても気になってしまう。
「準備が必要だな」
「どの程度のでしょうか?」
この場合の準備というのは物資などのことではないのだろうということくらいはシオンにも察しがついた。
理由は分からなくともアインが、シオン達がドラゴンモドキ程度に苦戦しているようではとても惑星アウターに下りることなどできはしないと判断したのだろうと。
「管理局に調査期間の延期申請をする。その間にシオンとサーヤは見込みのありそうな奴を集めろ」
今の状態で惑星アウターへ行けば、いかにアインが同行したとしても全滅するか、もしくはアインだけがどうにかして逃げてくるのが精一杯だろう。
少なくとも、単独でドラゴンモドキと渡り合い、これを撃破できるくらいの実力者に鍛え上げなければ、とてもではないが生きて帰ってくる可能性がまるでないとアインは判断した。
「全員に遺書を書かせるべきでしょうか?」
「とりあえず契約時には生死不問の項目を書いておく必要はありますね」
気が重いとばかりに顔に手を当てて肩を落とすサーヤを、慰めるようにシオンがぽんぽんと背中を叩く。
ただ、どちらも無骨な遠隔操作のパワードスーツなので、その光景には微笑ましさも潤いも微塵も感じられず、ただ鉄人形が寄り添っているという奇妙な光景があるだけだった。
「シオンにはやってもらいたいことがある」
「はい、なんでしょう?」
「とりあえずは、追加の犯罪者共」
魔王城は中破状態であるが、これを修復するためには資材と魔力が必要になる。
修復のために魔力が消費されれば、当然のことながらアインが使う分は減ってしまう。
さらにサーヤに集めさせた人材を強化するためにも魔力は必要であり、その強化した人材に使わせる分の魔力も必要になる。
とにかくどれだけあっても困らない状態だというのに、産出量が全く足りていないというのが魔力なのだ。
「うちの領地から、犯罪者が絶滅しそうな勢いです……」
「いいことだろう? 何なら他所の領地からも融通してもらえ」
「それはちょっと……他領には他領の都合がありますし」
単純に強制的な労働力として重宝しているところもあれば、更生を声高に叫んで教育を施している場所もあり、一概に犯罪者といってもその扱いに関してはまちまちなのだとシオンは言う。
「それは面倒だな」
「交渉はしてみますが」
必要とされる分が用意できるかどうかは分からないというシオンにアインは思案顔になる。
「どこかに略奪でも仕掛けるか?」
「それは……」
「国内が面倒なら、国外という手もある」
「え?」
「ほら、なんとか帝国……超銀河聖皇帝国だったか? クソダサい人族共の国辺りなら人が余っていそうだろ? そういう所に正体不明の賊として行けば問題ないだろ」
「問題だらけと言いますか、発想がまさに魔王なんですが。バレたらサタニエル王家が黙っていないと思いますよ」
「それならそれで、うるさいようなら俺が正しく魔王に返り咲けばいいだけのことだな」
必要ならば王家であろうとも潰すというアインの宣言に、シオンもサーヤも返す言葉を失う。
「さぁやることは多いぞ? 俺に王家を潰させたくないのであれば、迅速に秘密裏に動け。邪魔さえしなければ放っておいてやるのだからな」
やると言ったら本当にやるのだろうなと思いつつ、できるだけ波風が立たないように静かに、そして秘密裏に動かなければと考えながら、シオンとサーヤはアインに対して深く頭を垂れたのであった。
これにてその2が終了です。
その3は……ストック0になったのと、終わりの方がちょっとあれだと言われて
しまったのでどうしようかなと……あれ、一気にSAN値直葬状態になりますわ。
ボクとしては、見せたいところは長くてもいいじゃん、と思うのですが如実に
数字に出ましたからねー。
書き手56すにゃ刃物はいらぬ、ブクマはがしの10もありゃよし。
なろうコンに出品してますので、一次審査通りましたとか言われたら書く
でしょうが(SAN値復活)
それと皆様からの燃料があれば、そりゃすぐにでも再燃します。
書き手とはそういう生き物です。
続けるにしてもストックが10はないと毎日更新が難しいですし、元々ファンタジー
畑の人故に、気分転換にファンタジーを書きたい気分もあるので、ちょっと検討して
みます。
決して、大量発生した恐竜を無限バトルゲームがなんとかと打ち倒しに行きたいわけでは……
ディア〇ロ? フレンドがなぁ……




