時間稼ぎの子爵さま
「では参ります」
サーヤが宣言と同時に勢いよく飛び出し、もはやただの金属製の棒と化した散弾銃を振り上げたクロワールの胴体へタックルをしかける。
その勢いはクロワールのパワードスーツがくの字に折れ曲がるくらいであり、中に人が入っていたのならばどのようなことになっていたのだろうかと心配になるくらいの勢いであった。
「サーヤ様!? ナニをするんデスか!?」
「選手交代です。それとその壊した散弾銃に関しては何らかのペナルティを課しますからね」
「銃の銃床は敵の頭をカチ割るためにあるんデス!」
「貴方、そういう娘でしたっけ?」
まだ殴り足りないとばかりにじたばたと暴れるクロワールを抱きかかえるように抑え込んで、サーヤがシオンの射線から外れると同時に、シオンのパワードスーツの肩の装甲が開く。
「本日二発目! ツイン・クレイモア!」
爆発音と共に吐き出された無数のベアリング弾が、クロワールの攻撃によって受けた傷を修復しようとしていたドラゴンモドキの巨体へと突き刺さる。
散弾とは比較にならない威力と衝撃にたまらずぐったりとなったドラゴンモドキへ、シオンは左の掌をかざす。
「フォースブレード形成!」
かざした掌の中に白く輝く刀身が生まれた。
それはパワードスーツの左腕に内蔵されている発振装置が形成した力場の刃であり、最大出力で形成されたそれはパワードスーツの身の丈程の刀身となっている。
「突撃っ!」
光る刃を腰だめに構えて、パワードスーツの脚力に加えて背面のスラスターまで全開に吹かして、弾丸のように突進したシオンはドラゴンモドキの巨体へ、腕ごと埋まれとばかりに刃を突き刺す。
途端に起こった絶叫は、これまでドラゴンモドキが放っていた雄叫びとは比較にならない程強烈に、聞いた者の精神を揺さぶり、マイク越しに聞いているというのにシオンはくらりと視界が回るのを感じた。
気を抜くと、そのまま意識を持っていかれそうになる所を奥歯をぐっと噛みしめることでぎりぎり耐えて、シオンはドラゴンモドキの巨体へ右手を突き出す。
「こちらも本日二発目の、リニアバンカー射出!」
右腕が激しい放電をし、内部で電磁加速された杭が右手の射出孔から撃ち出されてドラゴンモドキへと突き刺さる。
爆発的に噴き出した肉片と体液から、シオンは杭の射出に伴う反動を利用して床と足裏の摩擦による火花を上げながら距離を取った。
「どんなもんですっ!」
「後で魔王陛下に叱られるんじゃないかって思います」
「なんでっ!?」
ベアリング弾による広範囲攻撃から力場の刃による一点集中攻撃。
とどめに大威力の杭打ち攻撃と、普通の生物相手であればオーバーキルもいいところな攻撃を決めて、得意げに言い放ったシオンだったのだが、サーヤの淡々とした突っ込みを耳にして悲鳴に近いテンションで聞き返してしまう。
「確かに大した攻撃でした」
先程のドラゴンモドキの叫び声を聞いたせいか、抱きかかえている腕の中で声もなく、びくんびくんと痙攣しているクロワールを押さえ込みながら、サーヤは頭を巡らせた。
「そうですよね? この機体が持つ最大威力による三連撃だったんですよ!」
「何故、子爵様用のパワードスーツに装備されている最大威力の武装が、全て近接戦闘特化なのかが気になりますが」
「家訓です」
もっと安全な距離から、安全な方法で攻撃することなどいくらでもできるだろうと思っていたサーヤなのだが、胸を張って家訓だと言い切ったシオンの姿を見て、全てを諦めたかのように視線を逸らしつつ頭を振った。
「なんですかその反応は。由緒正しきノワール家の家訓に何か文句でも?」
「そう言えば初代様は、類稀なる脳筋様でしたね」
「武人だったと言ってください。子孫の私が言うならばともかく、他人にそう言われるとムッとしますし傷つきます」
「言い方を変えても、事実は揺るがないかと思うのですが」
「気分の問題です」
「そうですか。ではそんな武人だった初代様の教えに従って行動したのだと、魔王城への被害について問われたときにはお答え頂けますか?」
そう言えば、とシオンは冷や汗をかく。
フォースブレードはともかく、ツイン・クレイモアは攻撃範囲が広すぎるし、リニアバンカーは貫通能力が高すぎるせいで、目標もろとも周囲にまで結構大きな被害を出してしまうのだ。
そしてその結果は遺憾なくドラゴンモドキの周囲へ発揮されていた。
「壁も天井も床も、傷だらけの穴だらけのでこぼこです。これを修繕しようとしたらどのくらいかかるものやら……」
「そ、それは……」
魔王城はノワール子爵家に属する航宙艦の中の一隻でありながら、魔王自らが乗艦にと選び、改修した艦でもある。
そんな艦の中をかなり大きく、しかも手酷く壊したとなれば、叱責を受けるというのは当然の流れであろう。
そんなことよりもとサーヤは慌てふためくシオンを視界の外へと追い出してから、ドラゴンモドキの様子を見る。
魔王城を手酷く壊してしまう程の攻撃を受けたドラゴンモドキの巨体はもう、元の形がどんなだったか想像できなくなってしまうくらいに破壊し尽くされていた。
黒い体液と鱗に覆われた肉塊としかいえないような状態となったそれは、開いた傷口やら孔やらから体液を垂れ流し、首は半分千切れかかってしまっていたが、そんな状態で尚、命はきっちりと繋いでいるのだからサーヤも呆れてしまう。
「まだ生きているんですか?」
これだけの損害を出す程の攻撃を加え、それなりに手ごたえもあったのだろう。
だというのに、絶命させることもできず、黒い亀裂の向こう側へと押し戻すこともできなかったという事実に、シオンは声を震わせた。
「これはもう……私達の装備ではどうすることも……」
「同意します。現状の私達ではどうも殺しきることができないようです」
口惜しいと言った様子でサーヤはそう言うと、視線を自分達の背後へと向ける。
「残念ではありますが、求められた仕事は果たせたと思いますので、よしとしなければならないでしょう」
「そう言えば、私達って時間稼ぎが任務でしたね」
確かにちょっと残念ですと呟くシオンの視線の先では、それまで胡坐をかいてじっとしていたアインがゆっくりと胡坐を解いて立ち上がるところであった。
ブクマや評価の方、よろしくお願いします。
1万ポイント到達ありがとうございました、とお伝えした直後に
妖怪ブクマハズシがやってきて、ごっそりブクマが減りました。
なんと1万ポイントを切るところまで剥がれました。
たぶん、二桁くらいブクマが剥がれた模様です。
なろうはおそろしいところですぜ……結構ショックです。




