役割分担する魔王さま
「さて、こいつなんだが」
アインは三機のパワードスーツを従える形で、だいぶ亀裂の中へと押し込まれたドラゴンモドキを見る。
全身に、二機のパワードスーツによる大口径散弾銃による攻撃を受け、さらに無数のベアリング弾を撃ち込まれた上に、電磁加速された杭まで撃ち込まれているのだ。
その巨体には多くの穴が穿たれ、肉片と体液とをどばどばと床に垂れ流している様子はまさにぼろ雑巾と形容する以外に言葉がない。
しかしながら、アインはそんなドラゴンモドキの惨状を目にして、渋い顔をしながら小さく舌打ちをする。
「しぶといな」
普通の生物ならば、まず生きていないだろうと思われるだけの傷を負わされた状態で、しかしドラゴンモドキはまだ生きていた。
どうやって命を保っているのか全く分からないような状態だというのに、それはその巨体を再び、亀裂の中から這い出させようと動いていたのである。
「お湯をかけたら死んでくれたりしないでしょうか?」
「シオン様、あの大きさではかけるお湯の量が結構なことになってしまいます」
「お、お二方。その……ヒヒッ……ゴキブリじゃあないんですから……ヒヒッ」
隙間と言うか亀裂から出てこようとしているし、全身黒くてぬらりとてかっているし。
なるほど似ていると言われれば、似ているかもしれないなと思うアインなのだが、いくら似ているからといってもお湯で絶命してくれる程、生易しい存在には見えなかった。
「お湯より溶鉱炉辺りに突き落とすくらいの対処が必要だと思うがな?」
「フヒッ……溶鉱炉より先にプレス機ですね」
「何を言っているんだお前は?」
仮面のメイドが言う言葉に思わずそう返したアインなのだが、ドラゴンモドキに少しばかり精神をやられてしまっている状態なので、妙なことを口走ってしまうのも仕方のないことだろうとあまり深くは追及しない。
「後でやっぱり、精神洗浄が必要だな」
「で、あれば。戦闘後すぐがベストなタイミングではないかと愚考するわけで……ヒヒッ」
「大丈夫か本当に? つらいようなら先に洗浄をするが……って、ベストなタイミングって何のことだ?」
尋ねながらアインはドラゴンモドキに向けて腕を振る。
ただそれだけの動作で空気が裂けて、その延長戦上にあった黒い巨体まで大きく裂けて新たな体液をまき散らす。
その一撃は相当な威力を持っていたようなのだが、放った本人であるアインは結果に満足できなかったらしく、不満そうに鼻を鳴らした。
「私達が操縦している遠隔操作のパワードスーツですが……ヒヒッ。その操作方法をご存じでしょうか?」
魔力の量も練り方もまるで足りないと魔術による攻撃を諦めて、シオンとサーヤに攻撃の続行を命じてからアインは、仮面のメイドの問いかけに考える素振りすら見せずに首を横に振った。
「知るわけがないだろ」
「マスター・スレイブ方式と言います。操縦者の動きをセンサーで読み取っ……ヒヒッ……ケケケ」
何がおかしいのか分からないが声を殺して笑い始めてしまったせいで、説明が途中であったがアインは仮面のメイドが何を伝えたかったのかを何となく察する。
つまり、操縦者の動作を追従する形でパワードスーツが動いているということなのだろう。
「それとタイミングと、どう繋がってくるんだ?」
「こ、この方式の操縦者は、自分の体を使ってパワードスーツを操縦しますが……フヒヒヒヒヒ」
「おーい?」
「せ、センサーが動きを捉えるのに、ベベベストな恰好……それは全裸です」
何か自分の耳は聞き間違えただろうかと、アインが助けを求めるようにシオンやサーヤの方を見ると、それまでドラゴンモドキに容赦のない攻撃を加えていた二体のパワードスーツがぴたりと動きを止めていた。
まさか聞き間違えなどではなく、本当に操縦者が全裸で操縦しているのかと、思わずその光景を想像してしまったアインへ慌ててシオンが情報の修正を行う。
「違います! 違いますよ! 確かに体の線を捉えやすく、センサー検知の邪魔になるようなひらひらなんかが少ない方が精度は高くなるそうですが」
「さすがに全裸は操縦者の精神的問題が大きくなりすぎるということで、その案自体が却下されていたはずです」
全裸で操縦するという案は、一応実際にあったらしい。
「却下されたと言うことは、代案が出されたということだよな?」
実際そのマスター・スレイブ方式という操縦方法が採用されているのだから、全裸操縦に代わる案が存在していないとおかしい。
システムの方で精度を上げるという解決方法もありはするのだろうが、ただ脱げばいいという安価で手軽な方法を採ることもなく面倒な方法を採択するとはあまりに非効率的だとアインは思う。
「代案……えぇまぁその……」
「なるほど確かにタイミングですね」
言葉を濁すシオンに、何故か感心したようなサーヤ。
ただどちらも答えを返してくれそうにないので、アインはもう一体のパワードスーツの方を見る。
「えーと……名前を聞いていないな」
「メイド部隊、武装メイド班。フヒヒ……クロワール、デス。ケケケ」
「ではクロワール。答えをくれ」
「答えは即ち、全身タイツデス」
「何だと?」
クロワールと名乗ったメイドの様子はずっとおかしいが、話す内容についてはクロワールがおかしいのか、自分が聞き間違えているのか、アインも迷ってしまう。
「正確には全身ラバースーツデス。モーションセンサーの補助センサー付きでブラックの、裸よりエロいやつデス」
「大丈夫ですかこの娘?」
「俺はさっきからずっと心配しているんだが」
「前よりちょっと活動的になったかな?と言うくらいのレベルなので大丈夫ではないかと考えておりますが」
元々を知るサーヤがそのように評価したのだが、時折奇声めいた笑い声を発し、会話の内容も少々過激なように思えるクロワールの言動を、ちょっと活動的という控えめな表現で片付けてしまっていいのか、アインもシオンも答えが出せない。
「まぁいい。とりあえず今一番最初にしなけりゃならないのは、このドラゴンモドキの処理だ」
「ドラゴンモドキですか? 何となくそんな感じがしますね」
会話中もその巨体には散弾銃やらパワードスーツの固定武装などで攻撃が加えられていたのだが、一向に生命活動を止める気配が見えない。
「始末できるだけの魔力を練る時間が必要だな」
「では再生を邪魔しつつ、時間稼ぎをするのが私達の任務ですね」
シオンがそう言うと、アインは任せたとばかりに頷いたのであった。
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