さらに来る援軍さま
これはこのまま押しきれそうかとアインが楽観視を始めた辺りで、新たに艦内通路の中を重たい足音が響き渡る。
まさか何かしらの面倒ごとではないだろうなと怪しむアインの目の前に、先の二体のパワードスーツとは異なり、全身に白いカラーリングを施された新たなパワードスーツが飛び込んでくる。
「遅れました! 私も参戦しますっ!」
そこから聞こえている声はシオンのものであり、本星地表上の自分の館にいるはずのシオンが何故ここにと疑問に感じるアインだったが、その疑問の解消より先に警告しなければならないことがあり、アインは声を張り上げる。
「下がれシオン! こいつの咆哮を聞くと精神をやられるぞ!」
「その報告は受けています!」
アインの警告に対してそう答えながら、シオンの声がするパワードスーツが軽く腰を落とすと、その肩の装甲がぱかりと口を開く。
開いた装甲の下には複数の発射孔があり、嫌な予感を覚えたアインは魔力で盾ではなく壁を造り、何かを察してサーヤとメイドのパワードスーツが少し慌ててアインの背後へと移動する。
「挨拶代わりに受け取ってください! 駆けつけ一発目のツイン・クレイモアっ!」
爆発音と共にシオンのパワードスーツの両肩から吐き出されたのは無数のベアリング弾だ。
射出した本人のパワードスーツも軽く仰け反るような勢いで発射されたそれは、シオンから見て前方にある空間を完全無差別に蹂躙する。
壁と言わず天井と言わず、とにかくベアリング弾が命中した部分には穴が開いたり凹んだりしてしまい、ドラゴンモドキの巨体もさすがにこの威力は防ぎきれなかったようであちこちに穴を開けられてしまうと、そこから真っ黒な体液が噴き出した。
悲鳴にも聞こえる咆哮を上げ、よろめく巨体に対してシオンはさらに前へ出る。
「追撃を差し上げますっ! 零距離リニアパイルバンカー!」
前へと踏み出したパワードスーツの右の拳がドラゴンモドキの巨体へ突き刺さると同時に右腕全体が激しく放電。
その腕の中に内蔵されていた巨大な杭が右腕内部で電磁加速されて射出し、ドラゴンモドキの胴体にベアリング弾とは比較にならないくらいの大穴を開けた。
飛び散る肉片と床へどばどばと流れ落ちる体液とを避けて、飛びのいた白いパワードスーツはどうだとばかりにアイン達の方を振り返ると右手を上げてガッツポーズを決める。
「阿呆! 俺達まで殺す気か!?」
得意げに見えるシオンに対するアインの返答は、その辺に転がっていたベアリング弾を拾って投げつけると言うものであった。
本気で投げつけたわけではないので、ベアリング弾を白いパワードスーツの装甲板に当たって派手な音を立てて、大して凹ませるようなこともなく床に落ちる。
「ちょっ!? 何をするんですか!」
当たっても痛いわけではないのだろうが、反射的に当てられた所を手で押さえて抗議するシオンに対し、アインは周囲の惨状を指さして言う。
「状況を見た上で、同じ抗議ができるのならば聞いてやろう」
「状況って……」
パワードスーツの頭部がぐるりと、横方向に一回転した。
中にシオンがいるはずだと考えていたアインは、人の首の可動領域を超えたその動きに呆気にとられた顔をしたのだが、それに気づかないシオンは周囲の状況を確認し、自分がやらかしたことを理解する。
原因は、景気よくばらまいてしまったベアリング弾だ。
あまりに景気よく、しかも大量にまき散らしたので、標的となったドラゴンモドキはぼこぼこのぼろぼろにされてしまっているのだが、壁やら床やら天井やらに当たったベアリング弾も大量にあったのである。
魔王城の構造材を打ちぬいたものは、魔王城へのダメージを考えると見過ごすことはできないのだが、それでもまだマシな方だった。
酷いのは跳弾を起こしてしまったベアリング弾であり、これらはめちゃくちゃに跳ね回った挙句にかなりの数がアインやサーヤ達を巻き込んでいたのである。
「ちょっとその……やりすぎてしまいました。すみません」
「それは確かにそうなんだが……それより今。お前の首ってぐるりと一周しなかった?」
見間違いではなかったことを確認するアインに、シオンはあっさりと頷いた。
「このパワードスーツ。カメラが前にしかついていないので、周囲を確認しようとするとどうしてもぐるっと回すしかないんですよね」
「回すしかないって……首の骨は?」
「首の骨?」
何を言っているのだろうと考え込んだシオンは、しばらくしてアインが何を言いたいのか理解したらしく、ぽんと一つ手を打ってからまたぐるりと頭を回した。
「これですね?」
「それなんだが、気味が悪いな」
「問題ありません。だってこの中、誰もいませんから」
自分の体をぽんぽんと叩きつつ、シオンがそんなことを言うとアインがきょとんとした目でパワードスーツを見つめる。
「中身、空なのか?」
「空ではないです。機械やら弾やらが詰まっています」
「……傀儡か?」
魔術にも似たようなものがあることをアインは思い出す。
ゴーレムのように命を持たないものであったり、術者よりも意思の弱い者だったりを術者の意のままに操ることができる傀儡の術というものがあるのだ。
この術は術者が術の対象の近くにいる必要がなく、安全に離れたところから対象を操作することができるというものである。
「サーヤ達も同じか?」
「はい、申し訳ありませんが……私もこの者達も、あの咆哮に何度もは耐えられないと判断しましたので」
サーヤが申し訳なさそうにそう言ったのだが、アインからしてみれば全く構わない話であった。
最初に二人の仮面メイドを行動不能へと追いやったドラゴンモドキの咆哮を、シオンやサーヤ達が今聞いても平気なのは、この場にはアインを除いて誰もいないからなのだ。
ドラゴンモドキの咆哮は、無線越しには影響を及ぼしてこないらしい。
「音声にも画像にも、フィルターがかけられていますから。アレの及ぼす妙な影響は全てカットできると思われます」
「ヒヒッ……お任せください……ヒヒ」
「一人、大丈夫そうではないのがいるんだが?」
「どうしても汚名を返上したいからと言うものですから。これ以上悪くなることはないかと思うのですが」
「駄目そうなら早めに下がらせろよ? というか他の二人も含めて、一度俺が精神洗浄をしてやらないとまずいんじゃないか?」
「フヒッ! そそそれはみ、みみ身に余る光栄……」
「やっぱり駄目っぽいぞこいつ。治療に回した方がいいんじゃないか?」
身もだえし始めたパワードスーツを指さしてアインがそう言うと、サーヤとシオンのパワードスーツはお互いの顔を見合わせた後、そのスピーカーから力のない笑い声を漏らしたのであった。
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