やってきた援軍さま
魔術で満足な攻撃ができそうにないので、どうやら出てきた亀裂の中へ押し戻してやる方が楽そうだ、と分かってみてもそれを実行するのはかなり大変だ。
まずアインとドラゴンモドキとの間には相当な重量差がある。
圧倒的に軽い方であるアインが打撃でわずかながらでもドラゴンモドキの巨体を押し戻せてしまっているのが本来はおかしな話なのだ。
そのおかしな話を無理やり力でねじ伏せているアインなのだが、一撃が押し戻せる幅はそれほど多くはない。
まともに当たっても精々十センチメートルほど動かすのが精いっぱいで、これを連続して当てていかないとドラゴンモドキが自力で這い出して来る幅の方が大きくなってしまう。
結果として、アインは半強制的に攻撃をし続けなければならない状況となっていた。
「少しは楽になったがね」
亀裂の中へ押し戻されるということはドラゴンモドキにとってもかなりよくない状態であるらしく、自分から積極的に攻撃を行わなくなったドラゴンモドキは床に足を踏ん張り、ダメージより衝撃を重視したアインの攻撃を耐え忍ぶような形になっていた。
きちんと耐えることができれば、いかにアインの一撃であってもドラゴンモドキの巨体は数センチも動かない。
こうなると、押し込もうとするアインとなんとか出ようとするドラゴンモドキとの間で文字通り、一進一退の攻防が繰り広げられることになる。
「これは……困った」
ドラゴンモドキの攻撃は、噛みつきと長い首による殴打。
そして精神に影響を及ぼしてくる咆哮の三つくらいしかない。
本来は巨体を生かした突進などもありそうなのだが、体が亀裂から完全に抜け出てこないと移動はできないようで、胴体部分が全く動けなくなっていることがアインにとって有利に働く。
注意深く戦っていれば、最低限の出力で戦い続けることができ、アインの方にあまり危険な要素は存在していなかった。
しかしアインの方からしてみると、完全に決め手というものに欠けており、有効な攻撃方法がないままにずるずると時間だけが経過していくような状況だ。
無理を承知でなけなしの魔力を集めて一撃にかけるような方法も考えてはみたものの、決めきれなかった場合のリスクがあまりにも大きすぎる。
アインの見立てでは、このドラゴンモドキなのだが武装メイド達では全く歯が立たず、サーヤでも倒しきることはおそらく無理だろうと見ていた。
ドラゴンモドキの咆哮一発で行動不能になる武装メイドは論外なのだが、それにどうにか耐えられるらしいサーヤでも、一瞬ではあるが動きを止められてしまっていることをアインは見て取っている。
そしてサーヤとドラゴンモドキとの質量差は、アイン以上に圧倒的であり、サーヤの力ではとてもドラゴンモドキを亀裂の中へ押し返すことはできそうにない。
さらにアインでも突破できていないドラゴンモドキの防御力をサーヤの力で突破できるとは思えず、そうなるとドラゴンモドキが亀裂から出てきてしまうのを止めることができないままに、出てきてしまった後の始末をつけることもできないというわけだ。
そうなれば後は、魔王城の中を好き勝手に暴れ回られることになり、魔王城が受ける損害は大きい、と言うよりはおそらく撃沈されてしまうだろうとアインは思う。
そうして完全に自由となったドラゴンモドキをどうにかする方法があるのかないのか。
アインには知る由もなかったが、相当大変なことになりそうだということくらいは容易に想像がつく。
「そう考えれば、現状は最善か?」
つくづく魔王城に戻っておいてよかったと、ドラゴンモドキの攻撃を回避しながらアインは思う。
ここならば、唯一ここだけが今のところ、アインに魔力を供給してくれるのだ。
その魔力のおかげでドラゴンモドキを亀裂から完全に出すことなく、食い止めていられる。
体の強化に使ってしまう魔力も、魔王城にいれば常時供給され続け、枯渇することはまずない。
消費と供給がつり合ってしまっているのが難点ではあるものの、無理な賭けさえしなければ、アインは延々と戦い続けることができるはずであった。
後でシオンに、魔力炉への材料の追加を強く希望と心に決めながらもアインはどうにかして亀裂の向こう側にドラゴンモドキを押し返せないものかと考える。
そんなアインに援軍が来たのは、何十発目になるかわからない、まともに打ち込んだ掌打がドラゴンモドキの巨体をやや大きく押し戻したときのことだった。
ドラゴンモドキの方も窮地に追いやられるとそれが分かるらしく、いい攻撃をもらってしまった時はとにかく暴れまくってアインが近づいたり、追撃を入れたりできないようにする。
アインが手をこまねいたり、回避に専念したりしている間に押し戻されてしまった分を取り返そうとするのだ。
何度目になるか分からないその行動を、アインがうんざりしながら距離を取って回避していると突然、艦内通路の中を重い足音がいくつも響き渡った。
何事かと気を取られ、ドラゴンモドキの攻撃を回避し損ねたアインは魔力を余計に消費してしまうことに小さく舌打ちしながら、魔力の盾を形成。
横殴りに襲い掛かってきたドラゴンモドキの首による攻撃をその盾で受け止めて、小さくうめく。
「何事だ?」
「援軍に来ました!」
アインの問いかけにそう答えたのは、全身が金属で形作られた人形だ。
確かパワードスーツとか言うのではなかったかと思い出すアインの所へ、やってきたパワードスーツは二体。
いずれも重装甲なのが一目でわかる代物で、その片方からした声はサーヤのものであった。
「そんなオモチャでなんとかなるのか?」
援軍と名乗られはしたものの、あまり戦力になりそうにないそれにアインが怪しむように言うと、敵の数が増えたことに反応してドラゴンモドキが咆哮を上げる。
これでまた、少なくともサーヤではないもう一体の方は脱落かと思ったアインなのだが、二体のパワードスーツは全く影響など受けていないかのように、ドラゴンモドキ目掛けて装備していた大口径の散弾銃を雨あられとばかりに撃ち込み始めた。
「ヒヒッ、こ、ここいつをっ……押し返せばいいんですよねっ!?」
「お前、仮面のメイドの一人か?」
「他の二人のぶぶ分までっ……汚名返上で、デス! ヒヒヒッ!」
本当にこの娘は大丈夫なのだろうかとアインが思ってしまうような甲高い笑い混じりの声でしゃべるパワードスーツ。
二体のパワードスーツが遠慮なしに撃ち込む散弾銃の威力と衝撃に、ドラゴンモドキの巨体が少しずつではあったが後退を始めたのだった。
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