閲覧する魔王さま
とりあえず返済の義務のない金で、もう口座には振り込まれているはずだから確認してみるといいと伝えて、アインはシオンの館を後にして魔王城へと向かう。
シオンには子爵家の財布に関わることだから自分が同席していたのでは色々と不味いだろうといい、シオンは気にすることはないと言ったのだが、そこを敢えてアインは魔王城へと戻るという選択をした。
その理由は、管理局から預かってきた小さな記録媒体にある。
中に入っているのは惑星アウターの調査に向かった計六回の調査班に関するデータ、のはずであった。
はず、というのはその記録媒体を、洗脳のせいで表情が抜け落ちた状態の管理局局長から受け取ってから今に至るまで、どうしても何か嫌な感じが体の周囲から離れていかないのだ。
アインは魔王ではあるが、無謀で無策なバーサーカーではない。
魔王すら嫌な感じを抱かせる何かがその記録媒体にあると思われる以上は、きちんと準備や対策を講じた上で、慎重に物の確認をするつもりだった。
「それがどうしてこうなった?」
記録媒体の中身を確認するための端末が一台、置いてあるだけの部屋でアインはその端末の前に椅子を引いて座り、その周囲をサーヤと他三人のメイドが囲んでいるという状態。
サーヤはいつも通りの格好だが、他三人のメイドはエプロンドレス姿ではあるものの、顔には目の所だけが開いた白い仮面をつけ、左右の手には一振りずつ、刀身が黒い小剣を握っている。
「高周波カーボンブレード装備の武装メイド三名です」
「そんなことは聞いていない」
「腕は立ちます。三人で私とまぁまぁ立ち会えるくらいには」
「お前に勝てるのか?」
「いえ、勝つのは私です」
きっぱりと言い切るサーヤに、仮面メイド達が少しだけ肩を落としたように見えた。
しかし、反論がない所を見るにサーヤの自慢と言うわけではなく、事実を事実として述べただけであるらしい。
「同じ装備で?」
「いえ、同程度の装備であれば、あと二十名程は増やして頂きませんと」
「メイド長、それは……」
さすがに見くびられすぎだとでも思ったのか、メイドの一人が声を上げる。
そう言う自己主張はとても大事だなと思うアインだったが、続けたメイドの言葉はアインが思っていたのとは真逆の代物であった。
「二十名程度の増員で、メイド長と戦うとか無理です」
「そうです! せめて五十は下さい!」
「私は五十人いても嫌です!」
口々にそんなことを訴えてくるメイド達の様子に、どうやらサーヤへの見立ては甘かったらしいとアインは反省する。
「別段やらせる気はないからそんなに必死になるな。と言うかサーヤってそんなにすごいのか?」
五十人以上の武装メイドを相手に、一人で圧勝できてしまうと言うならば、サーヤだけが護衛につけば事足りるのではないかと思ってしまったアインなのだが、これに対してサーヤは首を横に振った。
「私の手は左右で二つしかありませんので」
「そう言うものか?」
「はい、そもそも色々と突っ込んでいけば最終的には私よりも強いであろう陛下に、護衛がつく意味があるのか等と問われそうですし」
「それもそう、か?」
サーヤがいかに強力で、他のメイド達に恐れられる存在だったとしても、まともに戦えばアインが負けるわけがない。
そのアインにサーヤ達が護衛につく意味があるのかと問われると、アインとしてはやや首を傾げざるを得なかった。
もっとも手数や手の届く範囲まで考えるならば、サーヤやメイド達の助力は必要だ。
アイン一人でやるよりは確実に多くのことができるはずだからである。
「まぁいい。始めるぞ」
サーヤはゆったりと、他のメイド達は緊張の面持ちで頷くのを見てから、アインは記録媒体を用意した端末の接続用スリットへ突っ込んだ。
端末が記録媒体の中の情報を読み込むことしばし。
すぐにモニターの上に飾り気の全くないテキストがずらりと並べられ、アインは端末の操作を始める。
「陛下、上手になられましたね」
「慣れだな」
二千年前の世界の住人であるアインが、それなりにスムーズに端末操作を行うのを見てサーヤが感心する。
だがアインから言わせれば、それ程複雑なことをしているわけではないし、かなりつきっきりで教えてくれた者が何人かいた。
それくらいしてもらえれば、慣れとなんとなくとでどうとでもできそうなものである。
「それで、中身の方はどうなんでしょうか?」
「それな」
モニター上に映し出されている情報をスクロールさせて、アインは記録媒体の中の情報を流し読みしていく。
「参加者の名簿と準備された装備リストに……やはりあるな、定時連絡の通信内容が入っている」
「惑星アウターへの侵入ルートについても座標だけですが記載されているようですね」
「妙だな」
サーヤが見つけた座標データを見て、アインはすぐに眉根を寄せた。
自分が指揮をするならば、まずやらないであろう方法がそこには記されていたからである。
「毎回違うルートで侵入している」
「それは、前回失敗しているからなのではないでしょうか?」
「未知の領域を探索するのに、毎回未知の道順をたどらせるのか? 俺ならば前回と同じ道をたどらせて既知のエリアを広げさせるが」
「それは……」
「前回と同じルートをたどればどこかで前の班が失敗した原因と出会う。その情報を入手できれば次の手が打てる」
毎回未知のルートを使っていたのでは、対策を立てたくとも立てられるわけがない。
「しかもこの六回分のルートだが、全て同じ地点を目指しているように見えるんだが」
「なんとなくですが、そう見えますね」
サーヤと共に他のメイド達も頷く。
この場にいる全員が同じ解釈をしたと言うことは、この考えは間違っていないのだろうとアインは考える。
「それで、その目的地らしき場所に一番近づいたのが……」
「六回目のユミル・カドモンが参加した時だった、と言うわけですね」
六回目の調査班は一体そこで何を見たと言うのか。
アインはモニター内に流れるテキストを見ながら小さくそう呟いたのであった。
ブクマや評価の方、よろしくお願いします。
すごいな、1万pに届きそう。
でももっと伸びて欲しい。




