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分捕った魔王さま

「封印管理局に到着してからは大したことはしていないぞ」


「一応、何をやったのかを教えてください」


 大したことはしていない、と言われても言っているのが魔王では、とても額面通りに言葉を受け取ることなどできるわけがない。

 絶対にろくでもないことしているはずだと言う確信めいたものを意識しつつも表面上は穏やかにシオンが聞くと、アインは自分がやってきたことをつらつらと述べ始める。


「まず、受付に行ってそこにいた奴を洗脳」


「うわぁ……」


 初手からエグいのが来てしまったと呆れるシオンへアインが追撃する。


「その受付に上司を呼ばせて、のこのことやってきた上司も洗脳」


 続けてその上司を尋問し、管理局内の組織図を入手。

 あとはその組織図を頼りに立場が上の者へとアポイントを取らせ、面会と同時に洗脳をしまくった。


「むちゃくちゃやってるじゃないですか!?」


 どこが大した事ではないのかと、シオンはアインの話を聞いて頭を抱える。

 アインはとても簡単なことのように話しているが、封印管理局はいわゆる国の公的機関の一つだ。

 そんな組織がたった一人の手によって完全にその機能を奪われるようなことがあっては、本来はいけない。

 いかに犯人が魔王であろうともだ。


「大したことはしていないだろう? 少なくとも人死には出ていないのだし」


「死人が出てたら今頃ニュースの一面を飾ってますよ!」


 そうは言ってみたものの、アインは現在進行形で死者を生産している魔王だ。

 その魔王が、一応とは言え死者なしという状態で物事を進めたのだから、これは大したことなく穏便に済んだと言えるのかもしれない。


「これでよかったの、かも?」


「我々としてはそうかもしれないが、術者一人が忍び込んだくらいで機能停止する国の機関ってどうなんだ?」


 アインの疑問はもっともなものかもしれないが、シオンとしては役所の人間を責める気にはなれず、ただ相手が悪すぎたとしか思えない。


「まぁ俺がとやかく言うようなことでもないのだろうがな。今の魔王が考えればいいことだ」


 俺の部下ではないのだからと言うアインは指折り数えだす。


「とりあえず……十人ちょっとくらい洗脳して、ようやく局長にたどり着いた」


「その十人、大丈夫なんですか?」


 洗脳という言葉自体が非常に危険な代物であるが、その言葉の上に魔王のとついただけで、危険度が三つか四つは跳ね上がるだろうとシオンは思う。

 せめて心身ともに無事であってくれればと願うシオンにアインは言う。


「軽い奴だったからな。数日もすれば抜けて元通りになる」


 数日で解ける洗脳は軽いのだろうかと内心で首を傾げたシオンだったが、ある程度の日数は持続してくれないと、アインの指示が実行されない可能性が出てくる。

 ちゃんと元に戻るのならば、多少は目をつむらなくてはと思うシオンであった。


「それでその局長に封印指定地の調査許可を出させたというわけですね」


 あまりにも直球勝負過ぎる話ではあるが、手っ取り早く話を進める方法としては、それほど悪くないのではないかとシオンは思う。

 仮にバレたとしても、アインが魔術を使って洗脳を行ったなどという話を誰が信じるというのか。

 魔術の存在など実際目の当たりにしなければ、信じてなどもらえるわけがない。

 鼻で笑われるのが関の山だ。


「局長に認めさせたのは、調査許可だけじゃないんだが」


「他に何を……?」


 封印地の調査許可だけでも相当な物だ。

 シオンとしては何の罪もない局長が路頭に迷うようなことにならなければいいなと思うくらいの話である。

 そこへさらに上乗せして何かを認めさせたのであれば、局長は自分の進退ばかりかそれ以上の何らかのペナルティを受けてしまうのではないかと思われた。


「まず、惑星アウターの先に出ていた調査班に関する調査レポートの閲覧許可」


「調査班は全員、未帰還だったのでは?」


 誰も帰ってきていないのに、レポートが存在するのはおかしくないかと思うシオンの疑問にアインが答える。


「星に入ったと同時に全員が行方不明になったのならともかく、六回も調査しておいて何の対策も講じていなかったとは考えにくいだろう」


 定時連絡なり何なりと、多少でも情報は残されているはずだし、それに対する対策もあったはずなのだ。

 仮に全く何もなかったとしても、少なくとも六回分の調査班の班員名簿やら彼らの装備目録やらは残されているはずである。


「もう一つは、今回の認可について局内機密とすること」


 今回の封印地への妙な調査許可は、いずれは発覚するのだろうが、その発覚までの時間をなるべく長くとることで妙なところからのいらぬ勘ぐりや、横槍を入れられる可能性をアインは排除しておきたかった。

 ちなみに発覚した後、何かしらの形で取り調べを受けるようなことになった場合、アインは駄目元で申請してみたら、何故か通ってしまったと言い張るつもりでいる。

 しかも申請者は自分ではなく、王都の代理人に依頼したという形にしてしまう。

 これをウソだと言われても、アインが王都から遠く離れたノワール領からどうやってやってきたのかという問題と、管理局の役人が何故そんなスムーズに許可を出してしまったのかということに関しての説明がつかない。

 もしこれを説明しようとするならばまず魔術という要素について考えることができなければ通常の方法では不可能だ。


「最後にもう一つ」


「まだあるんですか」


 そろそろ勘弁してあげてもいいのではないかとシオンは思うが、この事自体はすでに終わっている話であるので、今更どうすることもできない。


「最後のこれが一番大事なんだぞ。これを忘れてしまっては何もできない」


「それは?」


「予算だ。これが全てであり最大の問題だろう」


「あ、はい」


 アインの口から出た言葉に、シオンは思わず頷く。

 それがなくては物事一つ進めることができず、ノワール領においては常に領主が頭を痛めている単語だ。


「全額は無理だったが。今回の調査費用の何割かは管理局から出してもらえることになっている」


「さすがですアイン。とても助かります。ところで前払いはありですか?」


「支度金だな。一億程度子爵家の口座に振り込むよう手配済みだ」


 その言葉一つでシオンは、アインの今回の行動については全肯定しようと思うのであった。

ブクマや評価の方、よろしくお願いします。


毎日更新続けております。

だれか褒めて……そしてボクに燃料ポイントを。


ちなみに進捗率は60/80くらいかなと……

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