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跳んだ魔王さま

 サーヤの協力を取り付ける、ということは特に難しい話ではない。

 元々、魔王に強い忠誠心を抱いている人物であるので、アインがちょっと力を貸してくれと声をかけるだけで事足りる。

 そうやってサーヤの協力を得たアインはまず、サタニエル王国が出版している王国宙域図でノワール領から王都までの距離を測り、サーヤの記憶を覗いて王都のイメージを固め、長距離転移の術式を構築し、そこで消費されるであろう魔力の量を調べた。


「とんでもない量だったな」


 支払いきれないコストと言うわけでもなかったのだが、今まで魔王城で産出し貯蓄してきた魔力のほぼ全てを往復分で吐き出すことになるような数値に、さすがのアインも及び腰になる。

 しかし魔力はまた作れる物で、魔王城とアインさえいれば比較的入手するのが容易い代物だ。

 使うために作っているものなのだから、使うべき時に使うべきだろうとアインは実行を決意する。


「王都まで飛んだんですか!?」


「そうだって言ったよな?」


「はい、聞きましたけど……」


 何故何回も同じことを聞くのかと不思議そうな顔をするアインなのだが、シオンからしてみれば何回聞いたとしても、それ以上の回数確認したくなる話だ。

 ノワール領からサタニエル王家本領へ跳ぶと言うことはまだ許容できる。

 色々と条件はあるものの、その行為自体は航宙艦にもできなくはないからだ。

 もっとも、個人が航宙艦と同じことができてしまうという現実には目を背けた上でという前提がついてしまうのだが。

 ただ航宙艦で跳ぶ場合は結構な費用と様々な制約が付くのだが、その最たるものが惑星から一定の距離を置かないと跳ぶことができないというものだ。

 これには惑星の持つ磁場や重力圏が影響を及ぼしており、セキュリティ云々の前に技術的問題でできないのである。

 だというのに、アインは惑星の近くどころではなく王都に直接跳んだと言うのだ。

 それはアイン個人が、と言う話ではあるものの、現在の人類が持っている技術の遥か先を行っているということだ。


「ちなみにお尋ねしますが、航宙艦でも同じことができてしまったりしますか?」


 もしできてしまうのならば、これは大事だと思いつつも聞かずにいるわけにはいかず、シオンはおそるおそるアインに聞いてみる。

 もしこれができてしまうのであれば、アインは全ての人類にとって無視できない脅威となる。

 何故なら全ての監視やら防空、警備をかいくぐって好きな場所へ、完全武装の艦隊を瞬時に送り込むことができてしまうからだ。

 現在、宇宙のあちこちに敷かれている各国の防空網や防御システム。

 そういったものの全てがガラクタになってしまうのである。

 頼むからそこまでのことはできない魔王でいて欲しいと願うシオンに、アインが返した答えはややぼんやりとしたものであった。


「できそうな気はしないこともない」


「どういうことです?」


「俺一人送るのも、航宙艦一隻送るのも同じような術式を使うことになるんだろうが、送るものが大きく重くなるにつれて消費される魔力も比例して増えていく」


 それは当たり前のことだろうとシオンは思う。

 一定量の魔力で人なり物なりを大小問わずに転移させることができてしまうのならば、コストパフォーマンスがあまりにも良すぎる。

 送るものに応じて消費魔力が増えてくれないと、シオンとしては納得の行かない話になってしまう。


「つまり、消費される魔力の量さえ気にしなければ、理論上はなんでも送れる」


「なるほど」


「だから航宙艦の長距離転移もやれるとは思うんだが……問題は魔力だな」


 理論上できるのと、実際できるのとでは大きな差がある。

 今回の場合、アイン一人を送るだけでも大変なコストになっているというのに。大きさも重さもアインの何万倍もあるような航宙艦を送るために必要になる魔力を集めることができるとは思えない。


「航宙艦の長距離転移は現実的ではない、ということだな」


「なるほど。安心しました」


「なにが? まぁいい。 話を戻すぞ。 王都へ赴いた俺はサーヤに予め教えてもらっていた封印管理局とかいう役所へ行った」


「ちなみに王都の印象はどうでしたか?」


 元々、惑星テラにあったであろう物とは別物になるが、アインにとっては二千年ぶりの王都のはずだ。

 二千年前とは比べるべくもないのだろうが、今の王都を見てアインが何を思ったのか、シオンはとても気になった。


「地図を見て、道をたどるのが精一杯でな。都市そのものについてはほとんど見ていない」


「あら、それは残念ですね」


「そうでもない。歩きながらチラ見した程度だが、大きなだけでたいして面白みのない都だったな」


 王都の民や王家が聞いたら目を剥いて怒りだしそうな台詞を、アインは本当につまらなそうにいう。


「上辺だけですらない安い都だ。重さも厚みも深みもない。ぺらぺらとした落書きのような都市だった」


「そこまで酷いですか?」


「酷いな。そもそも王都にいるのに王の気配がまるでしなかったが……どこかに遊びにでも行っているのか?」


 現魔王が王都の外へ出ることは滅多にないはずだとシオンは考える。

 もしそんなことがあれば、大なり小なり情報として貴族の間に流れるはずで、シオンがその手の情報を全く耳にしていない以上、王は王都にいるはずだった。

 それをそのままシオンがアインへと伝えると、アインは少しだけおかしな話を聞いたとばかりに眉根を寄せる。


「魔王が王都にいて、その威を示していないというのか? 魔王かそれ?」


「えぇまぁ。ただアインと違ってその力ではなく、多数の魔族に支持された結果として魔王となった血筋ですので」


「よく誰も奪いに来なかったものだな。余程王という仕事が退屈になったと見える」


 本来魔王とは力のある魔族が奪い合うことで、最も力のある者が得ることができた称号である。

 故に魔王の座というものは奪い合うもので、少しでも魔王の力に陰りが見えれば、すぐまた奪い合いになるようなものだった。

 それくらいに誰もが欲しがるものであった魔王の座なのだが、それを誰も奪いに来なくなったということは、今の魔王の座というものは手に入れても大して面白くないものなのかもしれない。

 王や王家の誰かに知られたら、即座に不敬罪などで捕まりそうなことを、表情にはおくびにも出さずに考えながら、シオンは再び脱線しかけている話を元の話題に戻すべく、アインに話を振るのであった。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 割と面白くはなく目新しくも無い作品が書籍化されていたりするので、確かに人の目に止まるかどうかの問題ですよね〜、難しいところです。 個人的にこの世界観は結構好きなのですが
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