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やっちゃう魔王さま

 とりあえず、魔王が自分に任せておけと言うものを、臣下の身としては任せられませんとは口が裂けても言えるわけがない。

 どうしても不安は残るものの、大丈夫だからとアインが言えばそれを信じるのが臣下としての行動だろうとシオンはアインに全て任せることにした。

 多少、と言うよりは相当な不安を抱えつつ待つこと数日。

 シオンは自領本星にある自分の館で、王都の封印管理局より惑星アウターへの調査、入星許可の連絡を受けて、目を点にしていた。


「何故……?」


「何故って、そうなるように処理をするという話をしたよな?」


 シオンの館の私的スペースである居間で、ソファの上に平服でごろりと横になっていたアインが言う。

 わずか数日前の話であるので、当然シオンもそのことは覚えていたが、本来下りることのない許可が下りたことも驚きであるし、そんなものがわずか数日で下りてくることがまるで信じられない。

 いかに魔王の所業とは言え、これは絶対におかしいのではないかとおもいつつ、シオンは手元の端末に表示されている情報を目を皿のようにして見直してみたのだが、そこに表示されている代物はセキュリティレベルが最大の、電子認証がついたこれ以上ないくらいの本物であった。

 しかし、まだ信じられないとシオンはモニターの上に指を走らせると、いくつかのソフトを走らせる。

 貴族として、一つの判断に多額のお金や少なくない人の命というものが乗りやすい場合が多く、許可や書類の真偽の見極めが必要となってくる場面が多いので、大体の貴族はその手の判定をしてくれるソフトを複数所持しているのが普通だ。

 シオンもその例にもれず、結構な使用料金を支払いながら、いくつかのソフトと契約しており、そのいわゆる鑑定ソフトを走らせ、今回下りた認可の真偽判定を始めたのである。

 随分と疑り深いことだとアインは呆れるが、すきなだけやらせておけばいずれは満足するだろうと放置することにした。


「まじですか……」


 結果が出るまで待つこと小一時間。

 待ちくたびれたアインがソファの上で居眠りを始めたころにシオンの端末が鑑定結果を吐き出し、それを見たシオンが目を見開く。


「やっぱり本物……」


 鑑定ソフトが吐き出した結果の中に、今回下りた認可が偽物かもしれないと判定されたものは一つとしてない。

 つまりは間違いなく、正規のルートと手順を経てノワール家に送られた許可だということである。


「何故!?」


「何故って……さっきも言ったが、そうなるように仕向けたからだと言っているだろう」


 シオンが何もない宙に向けて放った問いかけに、アインが眠そうな目をこすりながら答える。


「いえ、だって。仕向けたからといってもらえるような代物じゃないんですよ!?」


「実際、もらえているだろうが?」


「それがおかしいんですってば」


「そう言われてもな」


 出るのがおかしいと言われても、現物がそこにある以上は現実の方が正しい。

 しかし現実は現実として認識しつつもシオンは納得することができずにいた。


「何をどうやったんです?」


 シオンがすぐに思いつく策としては、管理局の人間に法外なくらいの金額の賄賂を積む、ということくらいだった。

 とは言っても管理局に務めている人間は、簡単に買収されたりしないように監視され、かつ高額な報酬を得ている。

 生半可な金額では、逆に不正を暴かれて身の破滅を招くだけなのだ、本当に法外な金額を提示しなければならないのだが、アインにそれが可能なくらいの資産があるとは、シオンには思えなかった。


「何って……」


「説明してください。説明して頂けないと到底納得できませんし、そもそも安心して次の行動に移ることができません」


「まぁ隠す程のことではないし、それで安心できると言うならば」


「最初からお願いしますね」


「最初からねぇ……世界は元々とんでもない重さを持った小さな卵みたいなものだったんだが、これをとある神が指で突いたことにより爆発、膨張を開始し現在に至る。故に世界は今も膨張し続けており、慣性の法則が実は神が実在していることの証明になって……」


「誰が世界創造から話せと……って、今の話ってそうなんですか!?」


「それを神と呼ぶかどうかは意見の分かれるところだが、膨張を続ける宇宙の最初の一押しをした何かが存在していると言うのは確かなことだぞ?」


「それは……って違いますよ!? 私がして欲しい説明からは時間も距離も離れすぎています!」


 そうだろうなと思いはするものの、当然アインの言動はわざとだ。


「場が和むかなと思ったんだが」


「冗談だったんですか?」


「話題のチョイスはな。中身は真面目な話だぞ」


「え?」


 ぽかんとした顔になったシオンを見て、アインは頃合いかなとばかりに少しばかり早口で話し始めた。


「あの話の後な。俺はサタニエル王国の王都へ向かった」


「え? え!? ど……どうやって?」


 混乱している間に有無を言わさず説明してしまえ、と考えたアインの試みはあっさりと潰えた。

 ぎりぎりのところで立て直し、勢いで先に進んでしまおうとするアインをシオンが止めたのだ。


「立ち直りが早いな」


「子爵家当主ですので」


「それ関係あるのか? まぁいいが、協力者はサーヤだ。王都に昔、行ったことがあると聞いたのでな」


「サーヤに協力させると王都まで行けてしまうんですか?」


 辺境と言っていいノワール領から王国中心部である王都までは、ノワール家が所有している中でも最も速度の出る快速艇を使ったとしても、通常宙域を使うととんでもない年月がかかるくらい離れている。

 何せ、光の速さで移動したとしても、一光年の距離を進むためには一年を必要とするのだ。

 故に、光年単位で離れている場所へは特別な方法での移動を行うのだが、これについては今回は全く関係がない。


「サーヤに教えた短距離転移の魔術の発展形に長距離転移の魔術があってな。行き先の詳細なイメージと距離の把握さえできれば、あとは魔力との相談になる」


「何ですかそれ!? 入領手続きも入星手続きもなしに、どこへでも行きたい放題ということですか!?」


 実際は他人のイメージで転移することの難しさやら、距離が長くなるにつれて消費される魔力がとんでもないことになったりと問題は色々とあるのだが、今は落ち着いて話を聞いてくれないかなと詰め寄ってくるシオンを見ながらアインは思うのであった。

ブクマや評価の方、よろしくお願いします。

50万PV、ユニーク80K ありがとうございます!

このまま続いてくれると嬉しいです。

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