結局出てくる魔王さま
「サーヤ、貴方のハッキング能力ってどの程度のものなんです?」
「藪から棒ですね、シオン様。それなりのものは持っていると自負しておりますが、逆に言うとその程度のものです」
「具体的に」
「一般企業くらいでしたらどうとでもできますが、国営や公営組織ですとおそらく簡単に足がつきます。それと私は体を電脳化しておりませんので、どうしても本職の方と比べますと見劣りします」
「なるほど。それでは難しいですね。というか生身でそれってどこかおかしくありませんか?」
惑星アウターの調査をするための策を考えてみると言ったシオンは翌日、魔王城にある執務室にサーヤが入ってくるなりそんな会話をし、結果に頭を抱えた。
シオンの期待に応えられなかったらしいことにサーヤはやや申し訳なさそうな顔をし、執務机に座っていたアインは興味をひかれたようにシオンへ尋ねる。
「どうかしたのか?」
「昨日の惑星アウターの件です」
「何か思いついたのか?」
アインに尋ねられたシオンはふるふると首を横に振る。
「正攻法ですぐに惑星アウターへ下りるのはまず無理です」
サタニエル王国に所属している貴族として、シオンは実行できそうな案について思いつく限りに考えてみた。
その結果、いくつか惑星アウターを調査する許可がもらえそうな案を考え付きはしたものの、そのいずれもに即効性がない上に、デメリットの方もかなり大きくなりそうだとシオンは結論付けたのだ。
「ちなみにその正攻法だと、どんな方法になるんだ?」
「一例ですが、今回得た物証を全てサタニエル王家に提出し、事の経緯を説明した上で惑星アウターの調査許可を願い出る方法ですね」
確かに正攻法だとアインは頷く。
この方法であれば、サタニエル王家に何かしら含むところがない限り、調査許可は下りるだろうとも思える。
問題があるとすれば、アインの存在がサタニエル王家に露見しかねないことに加えて、提出された証言や物証を調べるためにかなりの時間を要するのではないか、と思われるところだ。
王家からしてみれば、そう簡単に許可を下ろすこともできず、綿密な真偽の調査を要することは分かるのだが、シオンからしてみればアインがそんな悠長に待っていてくれるとは思えず、もっと即効性のある案はないかと考えてみたのだが、思いつくことができなかったのである。
「それで考え付いたのが、もう管理局のシステムをこっそり乗っ取ってしまえばいいんじゃないかなと」
「封印指定を無効化させるのか?」
「それはちょっと大がかりなことになりますので、惑星アウターの調査希望に許可を出すだけに絞れば……」
確かにそれならば、封印指定を解除させることよりはかなり難易度は下がるだろうとサーヤは思う。
しかし、相手が悪すぎる。
どこの国家でも、国が運営している組織のセキュリティというものは、その時点における最高水準のものを使っているのが普通だ。
その辺にいるような腕前のハッカーでは、即座に事が露見して手が後ろに回ることだろうとサーヤは考える。
「腕利きに何人か心当たりはありますが……皆、私の世代ですので」
「それは難しいですね」
サーヤは今でこそ、若々しい女性の姿をしてはいるのだが、これはアインの魔術によって肉体の年齢を若返らせた結果であり、本来は中年のちょっとふっくらとした女性だったのだ。
つまりそのサーヤが持っている伝手の相手は、若返りなどしていない中年以降の人物ばかりで、日々進歩していると評されるような分野に関してはおそらく弱い。
アインの配下についているメイド部隊は全員、サーヤと同じ経緯でもって今の部署にいるので、持っている伝手も似たり寄ったりのものである。
思わぬところにメイド部隊の弱点を見つけてしまったと思うシオンなのだが、全く喜べる話ではない。
「多少の費用はかかりますが、裏から手を回して誰か紹介してもらいましょうか?」
伝手はなくともメイド部隊にはサーヤを筆頭として、かなり後ろ暗い分野に顔が広い者がいる。
そこからたどっていけば、いずれ目当ての能力を有した人物に出会うことができるだろうとサーヤは言う。
ただこの方法は、当然無料で紹介してもらえるわけもなく、結構な費用がかかるだろうことに加えて、どのくらいの時間を消費することになるのかが読めない。
「高くつくでしょうが、最悪でもエルフの電脳技師に渡りをつけて……」
「足元見られますよ。子爵領の年間予算の六割とか平気で言いだしますから」
「そ、それはちょっと……」
いかにアインへの忠誠を持つシオンと言えども、領主としての仕事を投げ出すわけにはいかない。
その領地の予算の半分以上などという額を報酬として要求されてしまえば、領地の経営に大きな影響が出てしまう。
アインが魔王城に注ぎ込んでいる資材や資金を融通してもらうことができれば、その辺りの補填は可能なのかもしれないが、臣下の者として魔王に金の無心をするというのはあまりにも格好のつかない話である。
どうしたものかと悩むシオンへ、アインがとんでもない助け舟を出した。
「管理局とやらへの工作。俺がやってやろうか?」
「「え!?」」
何か信じられないことを聞いたと、シオンとサーヤの声が完全にハモった。
同時に二人共、自分の口を両の掌で慌ててふさぐことになったのだが、これは驚くなと言われても無理がある。
何せサーヤの伝手ですら、少々時代遅れな感じが否めないのだ。
それに比べるとアインは、世紀単位で遅れていても何もおかしくない存在である。
多少は現代について学習はしているので、全く分かっていないということもないのだろうが、安心して任せられるかと言われると、シオンもサーヤも返答に困ってしまう。
「エルフ共にできて、魔王にできないという道理などないぞ」
「その理屈ですと、アイン一人で航宙艦が一から作れてしまうことになりかねないと思うのですが」
「作ってやろうか? 全て魔王の手による航宙艦一隻」
なんでもないことのように言われて、シオンは好奇心と恐怖心とが同時に同じくらい刺激されて言葉に詰まる。
魔王手製の航宙艦など、欲しいに決まっているのだが、何が出来上がってくるのかを考えると軽々に欲しいとも言い出せない。
「い、今は目の前の問題を」
航宙艦についてはとっさに判断ができず、これについては先送りするしかないためにシオンは、搾りだすようにどうにかこうにかそう答えたのであった。
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次は10,000pに届きたい!(ちらっちらっ




