ズレる魔王さま
「とにかく、多少強引でもそのユミル・カドモンと言う人物の手掛かりを得るために、惑星アウターを調査する方法を考えなければならないのです」
宙賊のような組織に味方し、あの白い肉塊のようなものを、おそらくは口にするのもはばかられるような方法で作り出したと思われる人物である。
野放しにしておけばどのような被害をまき散らすか分からない以上、放置しておくということはシオンにとってはできないことであった。
「そうだな。どうやってあれを作ったのか。また何を考えているのか。非常に興味深い奴だ。どうにかして捕獲したい」
「あれ?」
自分が思っていることと、アインが思っていることとの間にはズレが生じているようで、そのことをシオンがアインに指摘するとアインは少し困ったような顔をする。
「確かに野放しにしておくと、何かしらの面倒ごとを起こしそうではあるし、作っているものもとても褒められたものではないんだが」
「ですよね?」
「しかし……俺の場合、今更だしなぁ」
「えぇっと……」
アインの言葉にシオンが言葉に詰まった。
確かにアインは魔王として魔力を行使するために大量の命を奪い、これを魔力へと転化させている。
意図はともかく、やっていることはこのユミル・カドモンなる人物とあまり変わらないのではないかと言われてしまうとシオンとしては確かに、と思ってしまうのだ。
「で、ではアインはこのユミルと言う学者を放置しておくべきだと?」
「まさか。兎にも角にも一度は捕まえて、何を考えているのかくらいは確認しておくべきだと考えているぞ」
その後、どのように処断するかについてはユミルの考えを聞いてみないことには判断できないとアインは言う。
「たとえば、誰かを救うためにだとか世界平和のためにやったとか言われた場合、俺にはそれを否定することができない」
魔族は自己中心的な考え方をする種族であり、魔王とはその最たる存在だと言える。
自分が自己中心的だというのに、他者がそうであることを頭から否定するというのは、それってどうなのと問われると返答に窮する話だ。
自分がそうであるならば、他人がそうであることも認めなくてはならない。
少なくともアインはそのように考え、行動している。
ただこれは、自分と他者との間で利害関係が影響しあわない場合の話だ。
仮にユミルの考えがアインにとって何らかの邪魔となりえるのであれば、アインにとって優先されるべきは自分のみであるので、その場合はなんのためらいもなくユミルを潰しにかかることができる。
いずれにしてもユミルという人物が何を目的としているのかを知らねばならず、そのためにはユミルの身柄を確保するということが必要であった。
「捕まえて無害そうならリリースですか」
「捕まえて無害かつ無益そうならリリースするが、有益そうならそのまま働かせるぞ」
場合によっては味方に引き入れるというアインの発言に、シオンとサーヤは驚いたのだがアインからしてみれば驚くような話ではなく、当たり前の話であった。
「俺が目覚めてから今に至るまで、俺にとって一番脅威に感じたのは……いやちょっとまて、訂正する」
何か言いかけて、シオンとサーヤを見て口ごもったアインは、小さく一度咳ばらいをしてから改めて言い直す。
「目覚めてから出会った敵の中で、それなりに俺の相手が務まったのはあの白い肉塊が最初だ」
「何と言いかけて言い直されたんでしょう?」
「私はなんとなく察しましたが……私が含まれていることをどう判断していいのやら迷いますね」
全く心当たりがないといった顔をするサーヤに対し、何かしら察するところがあったらしいシオンなのだが、アインはもう一度強めに咳ばらいをすることによって二人をまとめて黙らせる。
「そんな代物を作り出せるような奴だ。無能である可能性は低い。有能であるならば後は俺にとって無益か有益かが問題だ」
アインにとって無害で無益ならば、そいつがどこで何をしていようがアインが関知するようことではない。
すきなように動けばいいので、手元に置いておく必要もなかった。
だが実害があるならば有無を言わさずに叩き潰すべきであるし、無害でも有益であるならば手元に置いて使うべきだ。
「いずれにしても一度捕まえるのは必須条件ということですね」
「その通りだ。と言うわけで、ユミルの手掛かりがあるかもしれない惑星アウターを調べたいという話に戻ってしまうわけだが」
「どこかの貴族の所有地であれば、その貴族を懐柔するなり攻め滅ぼすなりして管理権を奪い取るという方法が使えるのでしょうが」
「あの、それは本当にやめてください」
しれっとサーヤが言った言葉をシオンが本気の表情で止めに入るが、そもそも惑星アウターはサタニエル王家の所有地であるので、その手は使えない。
「サタニエル王国を潰して、国ごと乗っ取ってしまえば誰も文句は言わないと思うんだが、実行するか?」
「アイン、お願いです。それは止めてください。何でもしますから」
顔から表情を消して、シオンが詰め寄ってくるのをアインは手で制する。
実際、やる気にさえなればやれてしまうのではないかと思っているアインなのだが、即座にだとか一朝一夕の間にというのはさすがに無理で、どのくらいの時間がかかるか分からない行為を物の試しにやってみようかという気にはならない。
「実力行使が駄目だとしますと、潜入してみるというのはどうでしょう?」
「無理です。大気圏突入能力のある船なんてそうそうありませんし、動かせばすぐに察知されてしまいます」
「後は……王家に直談判とかでしょうか? 失礼ながらシオン様。王家に伝手などは?」
「あるわけがないですよ。ちなみにサーヤは持っていたりします?」
「生憎と王族の方とはご縁が」
「あったらそれはそれで怖いですよ」
自分から聞いてきたくせにとアインとサーヤは思うが、一介の子爵家メイドが王家への伝手を持っていたら、確かにそれは怖い。
その怖いことを平然とやりそうな雰囲気があるのがサーヤではあるのだが。
「貴族、王族関連についてはやはり本業である子爵様にお任せするしかないかと」
「では任せたシオン」
王族と言うならば、貴方は魔王なのではと言う言葉が喉元まで出かかったシオンなのだが、おそらくそれを言ってみたところで状況が変わるわけではないし、魔王と王族とは似ているようで実はまるで違う。
何はともあれ魔王から任せたと言われた以上は臣下として、何かしらの策は考えなくてはならないのだろうなと考えてシオンは重い溜息を吐くのであった。
ブクマや評価の方、よろしくお願いします。
毎日更新が続いております。
どうか頑張っている書き手にエールと燃料を。
それとサブタイトルのネタとあとがきのネタも!




