否定される魔王さま
「では早速、その惑星アウターとか言う星を調べてみようじゃないか」
「きっとそう言うだろうなって思っていましたが、無理です」
何か楽しいことが起きるのではないかと期待して、にんまりと笑いながら言うアインだったが、それにシオンが即座に水を差した。
むっとした顔をしてシオンを見るアインなのだが、魔王の言うことであれば大体のことは肯定するのではないかと思われるサーヤも、この件に関してはシオンの言い分に賛成らしく、うんうんと頷いている。
ただこれには、魔王の言葉を否定したシオンも意外だったらしく、ちょっとだけ目を丸くしてサーヤのことを見てしまう。
「子爵様? その視線はどのように受け止めれば?」
「驚きと疑いの念だと思ってもらえれば。何か企んでいます?」
「企むなどと人聞きの悪い。私はただ現状をありのままに陛下にご理解頂きたいだけです」
「その言葉で私が納得するとでも?」
「むしろ何故ご納得頂けないか、理解に苦しむところなのですが」
絶対に何か裏があると疑うシオンと、その視線を受けても表情を微動だにさせないサーヤとの睨みあいは長引くかのように思われたのだが、アインがぽんと一つ手を叩くと、サーヤが先に目を伏せた。
「信じて頂けないのは我が身の不徳の致すところですが、本当に含むところは何一つとしてございません」
怪しまれても仕方がないという自覚はあるんだなと思いながら、アインはシオンへ目を向ける。
「俺から促されても嘘を吐くような奴ではないと思うぞ?」
「それは確かに……」
「納得できたのなら、何故惑星アウターを調査できないのか、その理由を俺に教えてもらえるか?」
「最大の理由は惑星アウターは第一種封印指定惑星だから、ということです」
サタニエル王国には法があり、その法が触れることを禁じている以上はその惑星に関して調査することができない、という話の流れは極めて当然の代物だ。
同じ指定を受けていた惑星テラの件はあるが、あれはノワール子爵家が惑星テラの管理を行っていたので、サタニエル王家から特別に許可が出ていただけのことであり、惑星アウターに関してはノワール子爵家は全くの無関係である。
「どこかの貴族が管理している所なら、条件次第では見て見ぬふりをしてもらうこともできなくはないんですが」
封印指定される理由は色々あれど、全てに共通して言えることは管理者すら接触を最低限にすることを求められる場所なので、その惑星自体は管理者にとって一文にもならないということである。
星から資源を採取することもできなければ、観光地として人を呼ぶことにも使えず、それでいて管理費用だけはそれなりの金額がかかるのだ。
領地内にそんな代物を抱えてしまえば、普通の貴族であればそれをただのお荷物としてしか考えない。
「渡す袖の下次第ということか」
「バレた時には大変なことになりますが、管理側が不正を働いているのでまずバレることはありません」
そういうことがあることを辺境地の子爵でも知っているということは、既に公然の秘密と化してしまっているのではないかとアインは思うが、そこは掘り下げてみたところで誰も得をしなさそうなので気づかなかったものとしてスルーする。
「ノワール家はどうだったんだ?」
現在宇宙に散らばっている者達の始まりの星である惑星テラならば、調査でも観光でも、ちょっと見てみたいと思う者は少なくなかっただろうにと尋ねるアインに、シオンは首を横に振る。
「ノワール子爵家が、余人に惑星テラへの接触を許可した例は一例としてありません。一例たりともです」
「お、おう」
かなり強い口調と眼差しとでシオンに言われて、アインは自分の失敗を悟る。
何しろノワール子爵家は数代に渡って魔王城とそこに眠る魔王を保護してきた家なのだ。
それが袖の下と引き換えに守るべきものを見世物にしていなかったかと問われれば、それは怒るのが当たり前である。
初代シオンであれば、即座に決闘騒ぎになっていたかもしれないが、この場合の決闘相手は不用意な発言をしてしまったアインと言うことになるので、守るべきものそのものと決闘してどうするつもりなのかと呆れられること受けあいの展開になってしまう。
「詫びよう。すまなかった。今のは俺の発言が浅はかだった」
「いえ。ただ先代までの名誉のためにも私が今の発言を聞き流すわけにはいきませんでしたので……強く申し上げました」
「それでいい。今のは初代からの忠誠を疑うような真似をした俺が馬鹿だった」
魔王相手に強く出過ぎたかと申し訳なさそうになるシオンをアインが止めた。
「俺もボケたか……」
「そうでもないかと思いますが」
言うべきではなかった言葉をよく考えもせずに口にしてしまったことを悔やむアインにそう言ったのはサーヤだ。
「むしろ我々魔族の中で、ノワール子爵家程の忠誠を持つ方が珍しいわけですし」
そう言い切られてしまうとアインもシオンも何と言っていいやら分からずに、ただお互いの顔を見合わせてしまう。
実際魔族とは、自分本位で他など比較的どうなっても構わないと考える者が大半を占める種族だ。
魔王本人が目の前にいれば、それなりに忠誠を尽くす真似事もするが、いなくなってしまえば何のためらいもなく手のひら返しをする者も少なくない。
そんな中で、一銭にもならないばかりか赤字を抱えそうになりながらも、魔王のいた星を保護、管理してきたノワール子爵家は異常と言えば確かに異常なのだ。
ただこれには、見方を変えると実に魔族的な発想だと言える理由が存在していることを、当の本人であるシオン・ノワールは知っている。
「とりあえず話を元に戻しませんか? 今は我が家の特異性やら忠誠の強さよりも話さなくてはならないことがあるわけですし」
「それもそうだが……」
「アイン自身が詫びてくださったのですから、ノワール家の者としてこれ以上を望むようなことはありません」
まだ自分の発言を悔いているようなアインをシオンはとりなす。
その行動の裏に、実はノワール家代々の当主が、アインと言う魔王を自分の領地で独占管理し、誰に目にも触れさせることなくただ自分のみが魔王の傍にいるという事実に喜びを感じていた、ということがこのまま話し続けているとどこかでバレるのではないかと言う恐れがあるということを、アインはもちろんサーヤまでもが知る由はなかったのであった。
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ところで明日、E〇F6のDLC2がですね(おい
 




