報告するメイドさま
「こいつが該当人物だという根拠は説明できるか?」
「もちろんです陛下。考古学者ユミル・カドモンに該当する人物について、メイド部隊総力で全数調査した結果です」
メイドって一体なんでしたっけ、という胸の内に生じた疑問を、シオンは考えても無駄だとばかりに頭を振って追い出す。
女の子とは砂糖とスパイシーな何かでできている、とのたまう人もいると聞いたことのあるシオンなので、きっとメイドもその類の何か妙な存在なのだろうと考えれば納得は無理だとしてもせめてスルーするくらいのことはなんとかできる。
それはそれとして。
何をどのように頑張れば、わずか数日の間に百名近くの身辺調査が終わると言うのか、知りたいような知りたくないようなシオンである。
データ上だけで洗うのであれば、もっと短くてもやれる気はするが、サーヤに限ってそのようないい加減な調査をしているとは思えなかった。
データというものは更新されなければいつまでも古いままなのだ。
また更新されていたとしても、入力ミスや情報の改ざんなど、情報の正確さを劣化させる要素はいくらでもある。
つまりある程度は現地に赴いて、情報の真偽を確認しなければウソの情報を掴まされることなど珍しくはない。
そしてそんなことなどサーヤは承知しているはずなのだ。
そちら関連では素人に毛が生えた程度のシオンですら分かることを、サーヤが事前に手を回していないわけがない。
ただ、調査対象はサタニエル王国内にだけいるとは限らないはずだった。
魔族は人類の生息圏で広く生活しており、調査対象が生活しているであろう範囲も膨大なものになるはずだ。
とてもメイド部隊の隊員数でカバーできるようにシオンには思えなかったのだが、サーヤが調査を終了したと言う以上は、何かしらの方法で何とかしたのであろう。
自分には全く想像もできないけれど、とシオンは目を伏せる。
「調査の結果。一名を除くユミル・カドモンについて現在位置と現状が確認できました」
居場所も状況も様々ではあったものの、サーヤ達の調べでは反社会的組織や宙賊と関係のある人物は一人も発見できなかったのだとサーヤは言う。
ただ一人だけ、どれだけサーヤ達が調べてみても現在の状況が分からないというのが行方不明中のユミル・カドモンであった。
「惑星アウターというのは?」
「サタニエル王国領内にある無人惑星です。位置的にはノワール子爵領から少し離れた所にある、やはり辺境の星です。
「少し離れた、と言ってもそこまでは他所の領地をいくつかまたぎますからね」
サーヤの説明を補強するかのように、シオンが少し早口で口をはさむ。
「つまりうちよりさらに辺境のエリアにあるんです」
「シオン様。五十歩百歩にどんぐりの背比べ、目くそ鼻くそをなんとやら、という言葉の数々をご存じでしょうか?」
「知りません。私は事実を述べただけです」
聞く耳は持たないとばかりにまくしたてたシオンに、何か譲れないものがそこにあるんだろうなとアインは見守り、仕方のないものを見る目でサーヤは深めの溜息を吐いた。
「まぁどっちがより辺境だとしても、俺の知ったことではないが」
「それは大事なことですよ、アイン!」
「大事なのかもしれないが、それは別の機会にな」
いきり立つシオンをなだめてから、アインはサーヤに尋ねる。
「つまり、サタニエル王国貴族の領地になっているのか?」
「いいえ、貴族の領地ではなく王家の直轄領になっています」
「辺境なのに?」
それは妙だなとアインは思う。
王家の直轄領と言われると、アインが想像するのは景色のいい場所であったり、何かしらの特産品が採れて実入りがよかったりする場所。
もしくはその場所を王家が保有すること自体に意味がある場所といった場合がほとんどであった。
そんなイメージからすると、どうにもこの惑星アウターというものはアインが持つイメージに当てはまらない気がする。
「奇妙な遺跡が発見されたんです」
アインの疑問にシオンが答える。
「いつ、誰が建てたのかも分からない神殿みたいに見える遺跡なんですけどね」
現在、既知宇宙に散らばっている人間は元々、惑星テラから発生した種族の末裔だとされている。
その彼らが現在の生息圏を開拓していく途中で唯一発見した、自分達とは異なるルーツを持つ何者かの痕跡。
「それが惑星アウターの遺跡だ、ということになっています」
「何か妙な言い回しをしたな?」
「はい。何せこの発見ですが、魔族は他の種族に対してこれを秘匿していますので」
ほんの一瞬だけ何故そんなことをという思いが頭をかすめたアインなのだが、すぐに魔族ならばそういうことをするだろうなと納得してしまう。
なぜならそれは惑星テラから発生したのとは別の生命体。
異星人と言えるものが存在していたことを証明できる遺跡なのだ。
こんな面白そうなものを、何故他の種族と分け合わなければならないのか、と魔族の多くが考えてしまうだろことは何の不思議もない。
さらにその魔族の元締めとも言うべきサタニエル王家が、これは自分のものだと主張し、王家直轄領にしてしまうのはもはや既定路線といってもよかった。
「自分達がやることは……大体、他の奴らもやってるもんだよな」
「人族は確実かと考えます」
「ドワーフはやらなそうですが、エルフは確実にやりそうですよね」
「獣人共も、狐辺りが考えそうなことだ」
つまりは全種族がやっていてもおかしくないということである。
「その遺跡の調査チームにユミルとか言うのが参加していて、現在行方不明か」
「惑星アウターの遺跡調査には、これまでに六回、調査チームが送られています」
ユミルが参加していたというのは六回目ですねと言うサーヤにアインは尋ねた。
「それで、何かわかったのか?」
「いいえ全く。何故なら六回送られた調査チームですが、帰還できた者は一人としていませんので」
「全員、未帰還?」
「はい。遺跡に挑んだ者に関しては、一人の例外もなく」
事もなげに言うサーヤなのだが、六回も調査チームを出して一人も戻ってこないとは、惑星アウターの遺跡には一体何があるというのか。
そのことを考えるとシオンは、部屋の温度が急激に下がったような寒気を感じるのであった。
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