見つけたメイドさま
室内にいる魔王と子爵とが見つめる中、執務室の宙に突如として黒い球体が現れる。
それは人の頭程の大きさで二人が見守る中、とろりと溶け落ちるように床に向けて黒い何かを流れ落とし、その先端が床に着くと同時にぐるりとねじれてツートンカラーのエプロンドレスを身にまとった黒髪でボブカットの、鋭利な刃を想起させる容貌の女性へと姿を変えた。
「メイド部隊、隊長サーヤにございます」
足をそろえた状態から右足を半歩引き、スカートの左右をつまんでわずかに身をかがめる仕草。
あまりに唐突な出現でありながら、自然で洗練された所作に、シオンが棒読みで突っ込みを入れた。
「何か、魔王より魔王っぽく出現していませんか? メイドなのに」
「陛下が魔王として振舞われる時は、このような児戯など比ではない光景が見られるものと確信しておりますれば」
「おい勝手にハードルを上げるな。魔王の登場シーンなんて、どうも魔王です、くらいなもんだぞ」
「それはそれでどうなのかなって気になるところなのですが」
アインの言葉にシオンが不満そうにそう言ったのだが、アインにはアインの言い分があった。
「魔王の登場シーンなど、どうせ見るのは勇者とその一党くらいなもんだからな。奴らとの関係なんぞ、どうもこんにちは、では死ね、くらいなものだぞ」
「臣下相手に謁見とかなかったんですか?」
「わざわざ魔王に会いに来る魔族なんていなかったし、魔王城にいたのは武人、軍人の類ばかりだったからな」
そもそもその頃の魔族に、一部を除いて王への敬意を持つなどという殊勝な心掛けをした者などほとんどいなかったとアインが言うと、シオンとサーヤが意外だという顔をする。
「力で押さえつけられている連中などそんなものだ。力関係さえ逆転すれば嬉々として俺の首を取りに来ただろうよ」
「それが事実だとしますと、うちの初代って異常だったのでは?」
「そうだな。確かにそうだな」
しみじみと昔を思い起こすように言うアインにシオンは目を細め、サーヤはアインが物思いにふけれるだけの間をおいてから小さく咳払いした。
「そう言えばサーヤ。何か用事だったのか?」
登場の仕方にインパクトがありすぎて、アインもシオンもサーヤの訪問理由を尋ねるところまで頭が回っていなかった。
「はい。実はユミル・カドモンに関する調査が終了致しました」
「早いな!?」
今しがた、アインとシオンの間で調査はきっと大変で長引くのではないかという話をしていたばかりのことである。
それがもう終わったと聞かされれば、驚くなと言う方に無理があった。
「どうやって調べたんだ?」
「どのように、と言われましても……シオン様からの情報を元に調べましたが」
「私の?」
「考古学者だったと思う、と言われておられましたよね?」
「うろ覚えの情報でしたが、正しかったんですか」
そう言えばプラント制圧時に、シオンがそんなことを言っていたということをアインは思い出す。
職業と名前が揃っているのならば、該当する人物を探し当てるのは何もないところからよりはいくらか難易度が下がるはずだった。
「まぁ該当する人物が考古学者だけに絞っても百名近くおられましたが」
「多いな!?」
「同姓同名という奴ですね。念のため、考古学者以外も調べてみましたが……桁が一つ増えました」
名前のバリエーションと言うものは有限である。
人口が増えれば増える程、重複する数も比例して増えていくのだから当然だ。
姓の方も本家やら分家やら、勝手に名乗ったものやら色々あるが、こちらもどうしたところで必ずどこかで重複が出る。
「ちなみに、サタニエル王国内でシオン・ノワールは三名います」
「少ないですね」
「アイン・ノワール様は一名だけでした」
「俺だけということか」
「ノワール姓自体が有名ですので、平民が名乗ろうとはなかなかしませんし。分家も当家にはありませんので」
「それでもシオン以外に二人いるんだな」
「興味本位で調べただけですので、どのような方なのかまでは分かりませんが」
よく調べたものだなと感心することしきりなアインだったが、シオンは少し気になったことがあってサーヤに尋ねる。
「どこのデータベースを調べました?」
「王国中央政府のものですが?」
さらりと出てきた名前にシオンが噴き出した後、何かが入ってはいけないところに入ってしまったらしく盛大にむせ始めた。
呼吸困難になるのではないかというくらいにむせるので、アインが机から立って背中をさすってやると、それでどうにかシオンは息を継ぐことができるようになる。
「大丈夫ですか、シオン様?」
「大丈夫じゃありません! 中央政府のデータベースってセキュリティクラスが最高の奴じゃないですか!」
シオンやサーヤの言うそこは、サタニエル王国国民の全ての情報が集められていると言っても過言ではない場所だ。
当然ながら相応のセキュリティが敷かれており、下手にハッキングなど試みようものならば、脳が焼かれるか、特別犯罪者として全国指名手配がかけられる。
「侵入したんですか? 侵入できちゃったんですか!?」
「えぇまぁ。陛下のためですし」
「それでやれてしまうんですか!?」
「はい、メイドですから」
説明になっていない説明をされて、シオンは頭を抱えて黙り込む。
「とりあえず報告をしてくれ」
「はい陛下。今回の調査は考古学者のユミル・カドモンに限定致しました」
限定しなければとても調べきれる数ではなかったからなのだが、アインは一つ頷くことでそれを了承する。
求める情報がなかったのならば、手を広げてもいいが、そうでないならまずは目星のつけやすい所から調べるべきだと考えたのだ。
アインが頷くのを見てから、サーヤは虚空から紙の束を取り出し、アインの前へそっと差し出す。
「ユミル・カドモン。王立サタニエル大学考古学部卒業」
金髪ツインテールでかなりきつい印象を受ける吊り目。
タンクトップの上から黒い革のジャケットを羽織り、ホットパンツに編み上げのブーツといった恰好は、ちょっと考古学者には見えない。
かなり若く見える女性であるが、小柄でそれに見合ったプロポーションの持ち主である。
「五年前に惑星アウターの遺跡調査に参加し、それ以降、行方不明になっています」
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気温がボクから速度を奪っていくのです……
梅雨ってどこにいったの?




