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見に行く魔王さま

「何がありました?」


 アインに連れられて、兵士達が騒ぎ始めていた所へ歩み寄ったシオンが、やや口調を強めながら問いただす。

 アインが少しだけ驚き、感心したのは床に手をついたり、壁にもたれかかったりしてぐったりとしていた兵士達がシオンの声を聴いた途端にのろのろとではあるが、それぞれが姿勢を正したところであった。

 サーヤが率いているメイド部隊であれば、そもそも騒ぎ立てたりぐったりしたりすることもないのかもしれないが、それは例外中の例外であって、比較すること自体が間違っている。

 そう言った例外を考えなければ、シオンの配下はよく訓練されていると言えた。

 実戦経験があまりないということを考えれば及第点くらいはやってもいいだろうとアインは考える。


「報告しなさい。何がありました?」


 アインはそれなりに評価したものの、シオンからすると兵士達の反応は鈍いとしか言えないものだった。

 いつまでも膝をついたり、壁にもたれかかったりしていないことは当然としても、上官の質問に誰も答えようとしていないのだ。

 何があったのかまず報告だろうとさらに声を強めようとしたシオンだったが、その口が開く前に兵士の一人がシオンの前に立つ。


「も、申し訳……ありません。閣下」


「謝罪より報告を求めています」


「は、はい」


 あえてシオンが厳しめの声をかけると兵士はどうにか精神的に持ち直したらしく、直立不動の姿勢を取る。


「不審物です、閣下」


「宙賊の拠点に来ているのですから、目につく物は大体が不審物だと思うのですが?」


 自分の所の兵士はここまでポンコツだっただろうかと首を傾げたシオンに対し、兵士は至って真面目に応じる。


「その手の物ではなく……見て頂くのが一番早いかとは思うのですが、あれをお見せしていいものかどうか」


 何となく漂う不気味な雰囲気に、シオンは好奇心に駆られると同時に、これは触れてはいけない代物なのではないだろうかと不安を覚える。


「それなら俺が見てやろう」


 どう対応していいやら迷うシオンと、ここからどう報告するべきなのか考えあぐねていた兵士との会話に割り込んできたのはアインだ。


「シオンに見せていいか迷うということは、それなりに刺激が強い代物を発見してしまったということだろう?」


「はい、その通りです」


「それならば俺が見てやろう。俺ならば何を見たところで動じることはなし、シオンに見せてもいいものかどうかの判断もしてやれる」


「し、しかし……」


 アインはそう言うものの、兵士はやはり迷ってしまう。

 何せ相手は魔王なのだ。

 それがウソか本当化は兵士には判断ができなかったが、少なくともノワール領内においてはそれは本当のことだとして扱われている。

 それが本当であるならば、確かに魔王たる者、何を見ても動じないのかもしれない。

 しかし今度は、魔王にそれを見せていいものかどうかという疑問が生じる。

 自分から見ると言った手前、よくもこんなものを見せやがってとキレる可能性は低いとは思うものの、絶対にないとは言い切れない。

 そして何かがあった場合、その被害は子爵の比ではないのだ。


「心配するな。見せられたものが人間モドキの繁殖シーンだったとしても怒ったりはしないから」


「なんですかそれ?」


 聞いたことのない単語に思わず素で返してしまった兵士に、アインはちょっとだけ言い淀んだ。


「昔な。そういう化物がいたんだよ。二千年も前のことだから記録も残ってはいないだろうがな」


「惑星テラにそのような生物が?」


 兵士の言葉に今度はアインの方が利いたことのない単語が交っており、説明を求めるように目を向けてきたアインへシオンが答える。


「アイン達が元々いた、魔王城が建っていた星のことですね」


「あそこ、テラなんて呼ばれているのか」


「はい、第一種封印指定惑星です」


「なんだと?」


「第一種封印指定惑星です。サタニエル王家より一切の入星が禁じられた上に、各種センサーや光学機器によるデータ採取など全般が禁止されています」


「ノワール領内にあるのか」


「はい。ただノワール家もほぼ手をつけていないので、現状どうなっているのかは不明です。二百年程前に特例で魔王城のサルベージをしたのが最後かと」


 魔王城近辺についてはノワール家の成り立ちも考慮され、見守るという形でのデータの採取が許可されていたのだとシオンは言う。

 その結果、老朽化が激しくなっていることが分かった魔王城から魔王が眠っているとされる区画を引っ張り上げ、移設するという作業を行ったのだがこの作業を実際に行ったのは無人の工作機械でしかもその機体と稼働時のデータは全て、サタニエル王家が回収していってしまったのだとシオンは言う。


「まぁその条件と引き換えに、作業のコストは全額サタニエル王家が負担してくれたんですけどね」


 そうでもなければ、ノワール子爵家単体の財力ではとても魔王城の一画を大気の底からサルベージすることなどできなかっただろうとシオンは言う。


「魔王城が後、いくらもしないうちに崩壊しそうだというデータが採取された時にはさすがに先代も頭を抱えたそうですから」


 ノワール家の身代が傾くか、潰れるかくらいの話だったと言うシオンに、アインはふと気になって尋ねてみる。


「その先代というのは?」


「引退して王都で暮らしています」


「一度、挨拶くらいはしておく必要があるよな?」


 アインの現状での身分はノワール子爵家預かりの騎士爵で、シオンの婚約者だ。

 シオンの親である先代が存命なのであれば、あいさつに訪れることは常識的な話である。


「是非、と言いたいところではありますが、タイミングはこちらにお任せ頂けますか?」


「面倒だが、仕方ない」


 アインが王都に入るということは、王都に魔王が二人いるということになる。

 その結果、何が起きるか分かったものではないとなれば、シオンが危惧し慎重になるのも仕方のないことであった。


「とりあえず、目の前の問題から片付けていこうかってわけで。それでは俺が見るが、構わないな?」


 確認するアインに対して兵士は一度、シオンの顔を伺ってから。

 シオンはその兵士に目配せしながら二人そろってこっくりと頷いてみせたのだった。

ブクマや評価の方、よろしくお願いします。


本当に令和ちゃんは一度、気温の管理方法を平成ちゃんとか昭和ちゃんに習いに行くべきだと

思うのです……

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― 新着の感想 ―
[一言] 管理できなくなるくらいぶっ壊しかけてるのは人類だけどな
[一言] 気温はマジで勉強して欲しい マジで
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