家探ししたい魔王さま
「さて、気合を入れていこうか。何せ楽しい家探しだ」
「楽しいですか?」
すぐには理解できないといった様子で首を傾げるシオンに、アインは嘆かわしいといった表情で頭を振る。
「楽しいに決まっているだろう。他人が貯めていた財貨や貴重品やらを、他人の目を気にすることなく好き勝手に漁ることができるんだぞ? 楽しくないわけがない」
「言ってることが魔王のそれというより泥棒のそれなんですが」
人の財布を漁る魔王と言うのはどうなんだろうかと内心考えてしまうシオンに気づかず、アインは昔を懐かしむように言う。
「俺が魔王として戦ってた頃でも、そうそう体験できなかった貴重なものなんだぞ」
「おや? アインは意外と国とか組織とかを滅ぼしたりしていない?」
国の一つも滅ぼせば、家探しなどやりたいだけやれるだろうにとシオンは思う。
二千年も前の国家というものが、どのくらいの規模のものだったのかについてはピンとこないシオンであったが、仮にも国という形をとっているのならば、支配者や金持ちといった類の人間はそれなりにいたはずだ。
だと言うのに家探しができる機会が貴重だと言うアインにシオンがわけがわからないといった顔を向けると、アインは渋い顔になりつつ言った。
「昔の魔族は加減ってものを知らなくてなぁ……やれるときはやれるだけやってしまう奴らばっかりだったんだ」
「やれるだけ?」
「一つ例をあげてやろう。あれは俺がドワーフの地下帝国と戦争をしていた頃の話だ」
二人の会話中も配下の兵士達はプラント内部にトラップの類が残されたりしていないかを調べたり、宙賊の生き残りがいたりしないかを調査している。
アインとの会話に耳を傾けつつも、横目でそれをちらちらと見ているシオンは、今のところ大きな問題は起きていないようだなと、ほっと胸を撫でおろす。
「あいつら硬い岩盤に穴を掘って居住区を作ったりするし、背が低いから通路も小さいし、手当たり次第に掘り進めたりするもんだから普通に迷路化していて始末するのに手間がかかるんだ」
しかしドワーフとは、高い金属加工技術を習得している種族でもあり、彼らが保有している装飾品や武器、防具の類を入手しておきたかったアインは自分の配下から比較的手の空いている者を選び、ドワーフ地下帝国の攻略を命じた。
「何故か嫌な予感がしてきました」
「勘がいいな。この命令を受けたのは初代のシオンだ」
「ほめられた気が全くしませんが……それでこのお話の落ちはどうなったんです?」
「自分の先祖の話に落ちを求めるんじゃない。まぁ落ちがあるんだがな」
魔王すら面倒だと評するドワーフ地下帝国の攻略はシオンの手をもってしてもすぐには成果が出てこなかった。
これにしびれを切らしたシオンがアインに申し立てた作戦が火攻めだったのだが、この提案が盛大な落ちになってしまったのである。
ドワーフの居住空間は狭く、密閉されたところも多いので、アインはてっきり初代シオンは油でも流し込んで火を点けて、熱と窒息でもってドワーフ達を死に至らしめるものだとばかり思っていた。
しかし初代シオンからドワーフ地下帝国の攻略終了を告げられ、現地を視察する段になってようやく、自分の失敗を悟ることになったのだ。
「そこの国ってのは大きな鉱山の地下にあったんだが……見に行ったら鉱山がきれいさっぱりとなくなっていた」
「は? 山が、ということですか?」
「そうだ。良質な鉄を産出すると言うのでドワーフ達が住みついていたんだが、その山がなくなった代わりに真っ赤な溶岩を満たした池ができててなぁ」
そこまで言われればシオンとて、ドワーフ達の国に何が起きたのかを大体は察する。
狭い坑道や硬い岩盤に守られた国を攻め落とすために、初代シオンは確かに火を使ったのだ。
問題はその火というものが森や建物を焼く程度のものではなく、鉱山そのものを高温の溶岩にしてしまうくらいのものだったということである。
鉱山一つ分を溶かして作られた溶岩は、その放出する熱でもってありとあらゆる可燃物を灰へ変えてしまい、岩盤の割れ目や隙間、どんな狭い坑道などにもその溶岩は入り込んでしまって、かくしてドワーフ地下帝国は文字通り火の海に沈んでしまった、というわけだった。
「不毛な戦いだった」
「まぁ後に残ったのは焼け焦げた不毛の大地ばかりですからねぇ」
「戦争に勝ったというのに、儲けが全くなかったんだぞ」
「全てが灰になるか、溶岩に呑まれてしまったんでしょうからねぇ」
あきれ返るシオンなのだが、同時に自分の先祖が鉱山一つを溶岩に変えてしまえるだけの力を振るっていたということに少なからぬ戦慄を覚えていた。
「もったいないことをした。ドワーフの細工物なんて高く売れることで有名な代物だぞ? 今でもそうか?」
「今のドワーフは、あんまり装飾品などは作りませんね。ですから装飾品があれば貴重で高く売れることでしょうね」
「そうなのか?」
ドワーフが装飾品を作っていないということに驚くアイン。
「昔のことは知りませんが、今のドワーフ達は手先の器用さを生かしてもっぱら航宙艦や情報端末に使用されるような精密部品を手がけています」
シオンは常に不思議に思っていたのだが、ドワーフ達のあのごつくて太い指先から何をどのようにするとミクロン単位でもずれがないような部品が生み出されるのかまるで分からない。
その精密さは人族や魔族が機械加工した部品の上を行く精度だと言うのだから、本当に訳がわからない。
「現在、航宙艦はかなりの部分が機械による自動工作ですが……完全にドワーフのハンドメイドによる一点物の航宙艦の方が性能は遥かに上になるんです」
納期の長さも値段の高さも桁違いですがと笑うシオンに、時代が変われば種族的な傾向なんかも結構変わるものなのだなとアインは感心する。
「ちなみにそのドワーフ達と同盟関係にあるらしいエルフはどうなんだ? 二千年前は森に引きこもって歌だの詩だのを作っていた奴らだが」
「見た目がいいのでドラマや映画に引っ張りダコですね。歌手なんかも多いですが、一番多いのは複雑怪奇なコードを組むっていうプログラマーです」
エルドワだかドワエルだかの同盟製の航宙艦は性能が段違いに高いのだが値段も高い上にメンテナンス費用なんかもすさまじく手間がかかって面倒なのだと笑うシオンに、アインはただ感嘆したようなうめき声を上げるのみであった。
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