襲撃される魔王さま
「なるほどこれは酷い。大失敗だな」
いまだに破壊したプラント外壁の応急修理が続く中、突入艇の外に出て自分がやってしまったことの結果を目にしたアインが頭をかきつつ苦笑する。
そのアインの前には全身が白い霜におおわれてしまっている奇怪な腐乱死体のオブジェがいくつも、まるで作り物であるかのように並んでいた。
「まぁこうなってしまったものは仕方がない。これの使い道を何か考えるか」
「いやあの、さらっと生身で艇外活動しないでもらえませんか?」
声に諦観を滲ませつつ、アインについて来たパワードスーツ姿のシオンが淡々と突っ込みを入れる。
外壁の修理作業が続いていると言うことは、今も空気は漏れ放題であり、そのことはゾンビが凍るほどの温度が証明していた。
そんな環境下において、スーツや防護服を着ることなく、平然とした顔で活動しているアインの姿を見てしまえば、別に外壁の応急修理などいらなかったのではないかと思ってしまう。
「寒いし、少し息苦しいのは事実だぞ。ただそれに俺は耐えられるというだけのことで」
「耐えられるのであればよろしいのでは?」
「不快だろうが。何とかしろ」
「パワードスーツを着てもらえれば、すぐに何とかなるんですが」
「動きにくそうだし、そもそもその鉄人形。デザインが同じで誰が誰やらさっぱり分からないぞ」
大量生産の規格品であるので、同じ型のパワードスーツを着ていれば外見上は皆、同じ格好になる。
「特注品でオンリーワンな奴を作ったら着てくれますか?」
「別に目立ちたいわけじゃないんだが?」
費用も随分かかるだろうから止めておけと告げたアインが何かに気が付いたように手のひらを宙に向ける。
同時にその手のひらで、音もなく飛来した光弾があっさりと砕けた。
「敵襲!」
シオンが叫びつつ、アインの盾になるように立とうとしてアイン自身にそっと押しのけられる。
同時にアインを狙ったと思われる光弾が、宙を飛んで引き寄せられたゾンビの一体に突き刺さり、ゾンビの体と光弾が一緒に砕け散った。
「押しのけるってなんとなく酷くありませんか!?」
作業中の兵士達がそれぞれに、物陰やら何やらに隠れていくのを確認しながら、シオンが恨めしそうにそう言うと、アインは別のゾンビを再び撃ち込まれた光弾の盾にしながら平然と言う。
「使い捨てられる盾がいくらでもあるのに、いきなり身を挺すな」
砕けたゾンビの体から、まだ形が残っていた頭部を掴み上げるとアインは、かなり適当な投球フォームでそれを投げつける。
かなりの勢いで投げつけられたそれは、物陰から銃口をアインに向けて構えていた人影に命中して砕けた。
「敵だ! 敵が来てる! 応戦して魔王陛下と子爵閣下を守れ!」
即座にシオン配下の兵士達が個人携帯の火器でもって攻撃を開始する。
瞬く間に光弾や熱線、実弾が隠れていた宙賊のいた辺りにこれでもかとばかりに叩き込まれた。
しかし宙賊の方も黙って撃たれているばかりではない。
形式は不明なパワードスーツに身を包んだ者達がわらわらと姿を現し、子爵側の兵士達と交戦状態になったのだ。
「あいつら何気にそこそこの装備を使ってますね。生意気です」
シオンはパワードスーツの腰に装着されていたハンドガンを手に銃撃を行っていたのだが、銃口から吐き出された光弾が何人かの宙賊に直撃したと言うのに、何もなかったかのように戦闘を続行するのを見て小さく舌打ちする。
「表面の耐熱、耐レーザー塗装がしっかりしています。ダメージがなかなか通りません」
「よく分からないが、すごいんだな?」
「装甲自体もかなり優秀です。実弾もあまり効果が出ていません」
「賊の装備というものは大体、貧弱なものと相場が決まっていると思っていたが?」
「普通はそうです。今回は例外ですね」
おそらくは元々プラントに配備されていた治安部隊の装備だったのではないかとシオンは考える。
これが使われたり、宙賊の手に渡る前に廃棄しようとして失敗したのか。
あるいは治安部隊そのものが宙賊に寝返ったり、何かしらの取引をしたか。
いずれにしても厄介だとシオンは唇を噛む。
「一度退いた方がいいかもしれません」
甘く考えていたかもしれないとシオンは悔やむ。
宙賊相手ならば大した装備は持っていないだろうし、練度も低い。
人数も艦隊の方に多く配備されていて、プラントにはそれ程の人数が残っていないだろうと考えていたのだ。
しかし実際は、それなりの人数が残っていて、装備自体はシオン達が使っているものと遜色がないくらいの水準。
練度はシオンと兵士達の方が上だとしても、とても数的不利をひっくり返せる程のものではないとすれば、負けなかったとしても味方にそれなりの被害が出るだろうことは避けられない。
しかもまだ突入したすぐの場所なのだ。
これでは到底、プラントの制圧など望めるはずもないとシオンは判断した。
「数を揃えて再攻撃するか、プラントは諦めて艦隊攻撃で沈めるか。いずれにしても手持ちの戦力だけでは……」
「シオン」
退却を提案しても素直に従ってくれそうにない魔王を説得するために、少しばかり早口になったシオンをアインは一言で黙らせた。
「仕方のないことだとは思うが、魔族としての考え方がなっていない。まだ一人もやられていないというのに不利っぽいから退こうとは、初代が聞いたら首が飛ぶぞ」
「そ、そうかもしれませんけど」
話に聞く初代シオンであったのならば、嬉々として突撃していったのかもしれないなとシオンは思う。
しかし、それを真似しろと言われても今のシオンには無理な話だ。
「そもそも戦況の判断自体が間違っている」
「そうでしょうか?」
自分に非凡な軍才があるとは思っていないシオンだが、的外れな状況判断をしているつもりもなかった。
だからこそやや納得できないといった顔をするシオンに、アインは言う。
「あちらは賊風情がそこそこの数。こちらは子爵家当主とその配下たる正規軍人に、魔王が一人いるんだぞ?」
ぽかんとした顔をするシオンへ、アインはにやりと笑う。
「圧倒的にこちらが有利だろう? それが正しい状況判断だということをこれから見せてやろう」
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