吹っ飛ぶ魔王さま
「強制接舷ってどううやるんだ?」
言葉だけ聞いてもアインには、これから何が起きるのか分からない。
字面からしてあまり上品ではない事が行われようとしているのだろうな、くらいの予想は立つものの、実際のところはまるで不明だ。
「えぇっと、そうですね」
答えながらシオンはヘッドカバー内のモニター上に護衛として選抜した兵士のリストを表示させる。
そこには名前と階級。
それに種族と性別とが記載されていたのだが、性別は男女半々なのに対して種族はきれいに魔族だけで統一されていた。
まぁ当然だろうなとシオンは思う。
サタニエル王国は魔族の国である。
他の人族や獣人族の国。
エルフやドワーフの連合国などもあるのだが、それらは主にその種族が住人であるというだけで、数字の大小はあるものの、サタニエル王国にも他種族が生活してはいる。
その中で、今回の突入に際してメンバーを魔族で固めたのには、やはり同じ種族の方が信頼できるという点に加えて、能力的に最も高いのが魔族だから、という理由でもあった。
魔術を行使することは忘れ去られてしまっていたとしても、やはり長寿で頑丈なのは魔族をおいて他にない。
「この船なんですが、船首に衝角が装備されています」
そんなことをシオンが考えてしまったのは、これから行われる強制接舷が、そう呼ばれる行為の中では最も派手で激しい方法で行われるだろうなと思ったからだ。
体の弱いエルフならば死亡か瀕死。
人族だと大体、八割から九割殺し。
獣人ならばベースとなっている動物にもよるのだが、およそ半死半生。
ドワーフ並みの頑丈さをもってすれば、ようやく軽傷レベルに落ち着くのではないかという接舷方法。
「その衝角に力場を発生させ、目標物に突っ込みます」
「普通だな?」
そう応じたアインなのだが、アインとシオンとでは考えている事が全く違うという点に気づいていない。
アインが考えているのは海戦において、海賊なんかが商船を襲うときにやる方法だ。
これもそれなりの衝撃を生じる方法で、普通にけが人がでるような荒っぽいやり方ではある。
しかしシオンが言っているのは宇宙における小型突入艇の話で、アインが考えているような船とは速度がまるで違う。
速度の違いはそのまま衝撃の大きさに直結するのだ。
さらに体当たりをかける相手はろくに装甲もないような柔らかな商船の船腹ではない。
がちがちに固められた金属なり合成樹脂なりの壁に突っ込むのだ。
一応、衝撃を和らげるための機構や装置はついてはいるものの、それでも衝突時の衝撃は相当なものになる。
「あのアイン? 今からでもパワードスーツを装着するか、せめて体を固定する方法を検討した方が……」
シオン達はパワードスーツごと体を艇内に固定されているので大丈夫だが、それがされていないアインは衝突時の衝撃で体が吹き飛び、壁などへたたきつけられてしまう恐れがあった。
そんなことになってしまったら、いくら魔王が強大で頑丈であったとしても、ただでは済まないのではないか。
そんな思いがシオンの口をついて出たのだが、これは手遅れな話であった。
魔王城二号艦から遠隔で操作されていた突入艇は全く減速をしないままに船首部へ力場を張り巡らせ、目標であるプラントのどてっ腹に、何の遠慮もためらいもなく一直線に突っ込んだのである。
艇全体を揺らす強烈な振動の中。
誰かが苦痛にうめき声を上げ。
誰かが口から出そうになった悲鳴を噛み殺し。
耐えきれなかったらしい誰かが小さな悲鳴を上げる中で、シオンは目の前にいたアインが衝撃に全く耐えられなかったかのように船首方向へと吹っ飛んでいくのを目にした。
立ち並ぶパワードスーツ達の頭上を越えて吹っ飛ばされたアインが飛んでいく先にあるのは壁だ。
「誰か、アインを!」
受け止めるように指示しようとしたシオンだったが、それが無理であるということにすぐ気が付く。
何せシオン達の体はアインの様に吹っ飛んでいかないように壁に固定されてしまっているのだ。
固定を解除してから行動を起こしたのでは全く間に合うわけがなく。
シオンはただアインが勢いよく飛んで行き、激しく壁に叩きつけられる光景を見ていることしかできず。
そして予想していた結果とは異なり、一方的に艇の壁の方が破壊されたのを目の当たりにして無言のまま、フェイスカバーの中でかっくんと口を大きく開いてしまった。
「シオン、助けろ。体がめり込んでしまって抜け出せない」
「助けって……え? そっちですか!?」
シオンが考えていた助けというものは、そのまま病院へと直行するようなものだ。
当たり所によっては壁一面に真っ赤な花を咲かせて儚くなってしまうことまで一瞬考えてしまったというのに、今必要とされているのは医療器具ではなく工具である。
「畜生め。少し痛かったぞ。ついでに動けなくなるとかどんな罠だこれは」
「少し痛いで済んでしまうんですか……?」
体当たりでプラントの外壁や航宙艦の装甲を破壊できるように設計されている艇だ。
当然、使用されている構造材はそれ相応の強度を持っている。
そこへ叩きつけられて、少し痛いと思う程度のもので構造材の方が一方的に変形させられると言うのは何かが間違っている気がしてならないシオンであった。
「感心してないで助けろ」
「感心と言いますか、呆れと言いますか、諦めと言いますか……」
「あまり待たせると自力で出てしまうが、構わないんだな?」
「出れてしまうんですか……?」
助けすらあまり必要とされていないのかと重ねて驚くシオンの視線の先で、壁にめり込む形になっていたアインがそのままの状態で壁に手をかける。
「壊していいなら楽勝だな。そういうわけだから壊すぞ?」
「待ってくださいっ! 全員大至急! 救出作業開始!」
魔王の力で適当に艇の構造材を壊されてしまっては、艇自体にどんな問題が発生するのか分かったものではない。
最悪、艇が二度と使えなくなる可能性まで考えれば少しの猶予もないとばかりにシオンは周囲の兵士達に指示を出し、指示を受けた兵士達は慌ててパワードスーツを固定している治具の解除作業に取り掛かるのであった。
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