調査と掃除の魔王さま
その後、特に出来事らしい出来事もないままに戦闘は終了することになる。
宙賊達はまるで統率がとれていない状態のままそれぞれが勝手気ままに行動し、その大半はノワール子爵軍の攻撃によって宇宙のチリに変えられた。
残りの大半は方針を殲滅から捕獲へと切り替えたノワール子爵軍の手によって、推進器やらジェネレーターやらを破壊されて航行不能となり、艦自体は他の残骸などと共に魔王城二号艦に捕食され、乗組員は武装解除の後、一部は見せしめに使うからとシオンの手によって移送され、残りはまとめて魔王城二号艦の船底区画へと放り込まれる。
「この艦にもあるんですか? えぇっと……魔力抽出器」
「あるに決まっているだろう? むしろ何故ない可能性を考えた?」
アインに真顔で問い返されて、力のない笑顔を見せたシオンがいるのは、魔王城二号艦のとある区画であった。
と言っても二人の会話の話題となっている魔力抽出器のある区画ではない。
そこの内部をシオンに見せるのは、時期尚早だとアインは考えていた。
それは別に、魔力抽出器に関する技術を秘匿しておきたいから、というわけではない。
単にそれを見せてしまった場合にシオンが受けるショックがかなり大きいだろうと考えた結果であった。
耐性のない者が見てしまえば精神をやられかねない代物であり、シオンに実物を見せなければならない理由も特にないので、本人がみたいと言いだしたりしない限りは見せる必要はないだろうとアインは考えている。
ではアインとシオンが二人して、一体何をしているのかと言えば、他の乗組員達と共にシオンがパワードスーツを装着している真っ最中で、アインはそれを眺めていると言う状態であった。
「本当に行くんですか?」
あまり気が進まないと言った雰囲気のシオンはいつもの軍服ではなく、体にぴったりと貼りついた全身タイツのような服装になっている。
操縦者の体の動きを阻害せず、かつスーツ内部のセンサー精度を上げるためのボディースーツなのだが、体のラインがくっきりと出てしまうこの装備をシオンはあまり好んではいなかった。
と言ってもこのボディスーツの上から体のラインどころか装着者の性別も分からなくなるようながちがちの装甲がついたパワードスーツを着るのだから、恥ずかしい思いをするのは装着する時と、これを脱ぐ時だけである。
パワードスーツの格納庫で、周囲にいる部下達も同じ格好をし、同じことをしているのだが、一人だけ軍服姿のままのアインの視線を感じてしまうと、やはり顔が火照ってしまうシオンだ。
「えーと、あのその……あまりじっと見られると色々と思うところがですね」
「他の奴ならいいのか?」
シオンと同じく、パワードスーツを装着中の乗組員は十人程いて、全員が魔族であり、男女比は大体半々だ。
アインがちらと視線を向ければ、パワードスーツに下半身を突っ込んでいた女性乗組員が、どうぞご覧くださいとばかりに両腕を広げて見せる。
「あっちはいいみたいだが?」
「それはそれで私がもやもやするじゃないですか」
「どうしろというんだ?」
「いいです。こっちを見ててください」
そんなやり取りをしながら二人が何をしているのかと言えば、これから突入艇に乗り込んで内部の調査を行う構造体へ向かう準備の最中であった。
事の始まりは宙賊達との戦いの後。
破壊された敵艦の残骸を資材にするために集めたり、捕まえた艦から生きている宙賊達を引きずり出したりしていた時のことであった。
生き残っていた宙賊や航宙艦はその末路が決まっているものの、そこへ至る前に回収しておかければならないものがある。
それは情報だ。
今回、アイン達ノワール子爵軍は周辺の空白地帯に入り込んだ宙賊の中で、最大の勢力を持つ集団を潰した。
潰しはしたのだが、全ての宙賊を空白地帯から排除したというわけではない。
それに。今回の戦闘で沈めたりした艦が目標とした宙賊の集団の全兵力だったと断言することもできなかった。
いくらサーヤ達が尋常ではない情報収集能力を持っていたとしても、漏れは生じてしまうというのが普通のことである。
だからこそ、生きた情報というものが必要であった。
今回倒したり捕まえたりした宙賊達や艦から、とにかく搾れるだけの情報を搾り取り、検証をかけて真偽を確かめ、次の宙賊討伐に生かす必要があったのである。
そうやって集められた情報の中に、少しばかり緊急性の高いものが交っていた。
それが今回討伐した宙賊の本拠地の情報だ。
惑星ジュールの衛星軌道上に設置されていたエナジープラント。
恒星からの光を電力に変換し、地表へと送電するこの施設を宙賊達は乗っ取り、拠点として使用していたと言うのだ。
これを聞いた時、アインは放置するか砲撃で粉々にしてしまえばいいのではないかと考えたのだが、シオンが慌ててこれを止めた。
「残しておいても厄介なだけじゃないのか?」
「このプラントですが情報通りならば地表で使用されている電力の一割から二割を担当しているプラントです。破壊してしまうと地表で一気に電力不足が起きますよ」
現在、電力なくして人の生活は成り立たないと言い切ってしまえる。
その電力が不足すれば、惑星住民の生活に多大な影響を及ぼすことは間違いない。
当然、そこから生じるであろう不平不満の類はそれを引き起こした犯人であるノワール子爵へと向けられる。
「破壊してから建造しなおせばいいんじゃないか?」
「この類のプラントってとっても高いんですよ。建造コスト」
「金か……まぁ金は大事だな」
ノワール子爵領がそれ程裕福ではないことを知る身としては、コストの問題を持ち出されてしまうといかに魔王だとしても折れざるを得なかった。
「それじゃ面倒ではあるが、内部の調査と掃除をやるか」
「はい。すぐに人員を手配します」
「そのリストには俺の名前も入れておいてくれよ」
「え……?」
「うちの軍に俺以上の戦力などないだろうし、そのプラントという物にも興味がある」
シオンとしてはアインを危険そうな場所へは絶対に行かせたくない。
しかし魔王本人が行くと言っているものを止めることができないというのもまた事実である。
かくしてアインを行かせるのであれば、自分が行かずに済むわけがないとあまり好みではないパワードスーツを装着する羽目になったシオンであった。
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ボクにもっときゃっちーなサブタイトルをつける才能が有れば……




