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接敵開戦の子爵さま

 宙賊が攻撃を受けた場合。

 その反応は大体大まかに二つに分けられる。

 一つはクモの子を散らすかのように逃げ散ってしまうという反応。

 もう一つは作戦も何もなく、ただ正面からの叩きあいになる場合だ。

 とても勝ち目がないと判断したのであれば、拠点や財宝の類をある程度放棄してでも逃げに徹するし、勝ち目があると判断すると力任せにぶん殴ってくる彼らには統率であるとか作戦であるとか、およそ集団が軍として機能するための言葉がきれいさっぱりと抜け落ちていると言える。

 ただ、こう言った反応にも例外というものは付きものであって、たまに軍に準ずるような動きを見せる宙賊もいないことはないので、頭からなめてかかって油断しているととんでもなく痛い目を見ることもあるので注意が必要だ。

 サーヤの調査で、宙賊が集結している場所と艦数については把握できたシオンなのだが、敵兵の練度についてはきっちりとしたところを掴むことができなかった。

 大体、通常の宙賊と同じくらいだと考えるとノワール子爵軍百隻に対して、宙賊およそ二百隻という戦力比はややノワール子爵軍側が有利と推測できる数だ。

 ただ、楽勝ではない。

 それなりに出るであろう被害に頭を痛めつつも、宙賊を討伐したのは自分達なのですよと言うことを周囲にアピールしていかなければならないので、正面から堂々と戦いを挑むしかないシオンであった。


「正面、惑星ジュールです。敵艦の反応多数。既に展開済みのようです」


 オペレーターからの報告にシオンは溜息を一つ吐き、ちらとアインを見る。


「なんだ? もう助けが必要か?」


「まだ何も言っていないですよ」


 得られるのであればアインの助けがあれば、被害は極小に抑えられるのであろう。

 領主としては被害は少なければ少ないほどいいに決まっているのだが、その一手が使えない状態にあるので、これから出る被害に関しては飲み込むしかないのだろうとシオンは首をすくめる。


「無駄だとは思いますが一応降伏勧告を。今すぐ武装解除して降伏に応じるのであれば、資源採掘労務十年くらいで済みますよと伝えてあげてください」


「軽くないか?」


 宙賊などその場で極刑を執行するのが妥当だと考えるアインが思わず声を上げたが、その耳元にそっとサーヤが囁く。


「辺境地での資源採掘労務は、五年でほぼ極刑と同義です」


「大変なんだな」


 それだけ重労働で、かつ環境が著しく悪いのだということを理解してアインが口を閉じる。

 その間にもノワール子爵軍はゆっくりと前進を続け、レーダー上に表示されている敵味方の反応の距離が縮まり、予想射程範囲の円が少しずつ重なっていく。


「敵艦よりの応答ありません」


「でしょうね」


 ここで素直に降伏されてしまっても、シオンとしては困る。

 何せ相手は二百隻もの艦数を誇っている宙賊なのだ。

 どれだけの人数が宙賊に身を落としているのか、ということを考えると捕虜として捕まえるのもあまりにも手間がかかりすぎる。

 収容する場所もそれほどないし、罪が確定するまで食わせてやらなければならないといったコストまで考えると、それなりに人数が減っていてくれないとやってられるかというのがシオンの本音だ。


「魔王城にぶちこむにしても、ちょっと多すぎる数だからな」


「私、何も言ってないですよね?」


「独り言だ。魔王の独り言」


 見透かされてしまっているのではないかと思うものの、仮にそうだったとしてもシオンにはアインの視線を防ぐ手立てがない。


「もう一度勧告を。同時に味方各艦へ通達。全武装使用可能オールウェポンズフリー


「それは思いきりましたね」


 シオンの指示をオペレーター達が味方艦へ通知するのを眺めつつ、サーヤが少し驚いたように呟いた。


「どういうことだ?」


「全武装使用可能は航宙艦の持つ全武装を各艦の判断で使用していいという命令です」


 サーヤがそう説明するのに対してそれはそうだろうなとアインは特に何かおかしくも思わなかったのだが、何かしら思うところがあったのかシオンが渋い顔をする。


「戦闘を行うのに武装に制限なんているのか?」


「時と場合によります。特に今回の様に居住可能惑星の近くで戦闘を行う場合などは」


「何故だ? 使える物を使わずに負けたりしようものならば、阿呆のそしりを受けても仕方のないことだろうが」


 サーヤはちらりとシオンの様子を伺う。

 渋い顔をしたままだったシオンはそのサーヤの仕草が、自分に全て説明させるつもりなのかという問いかけなのだろうなと判断し、自分の考えも少しは説明しなければならないかと口を開く。


「航宙艦が装備している武装の中には強力なものがありまして」


「それが?」


「惑星ジュールには、それ程多くはありませんが……住民がいるんですよ」


「それで?」


 今一つピンと来ていないアインに、シオンはレーダーに視線を走らせ状況を見ながら口を動かす。


「航宙艦の攻撃に巻き込んでしまいかねないということです。本来ですと居住可能惑星近くで戦闘を行う場合は第二種武装制限下で戦うのが正規軍では暗黙の了解となっております」


 それは流れ弾やら何やらが地表へと与えるダメージが大きすぎるので自然と決まった話であった。

 多少の被害は仕方がないとしても、惑星が使用できなくなるくらいのダメージを与えてはいけないからと考慮した出力で戦闘を行うということである。

 ちなみに第三種、第二種、第一種、全武装の順で制限が緩くなっていく。

 そう言った話がある中で、今回シオンは最初からそれらを無視し、味方艦に全力攻撃を許可したのである。


「なるほど、それは確かに思い切った指示を出したな」


 要は惑星への被害は無視すると言うことで、どれだけ人的、物的被害が出るか全く分からない命令である。


「自領でなら絶対やりませんが……ここ、空白地帯という名前の他家の領地ですし」


 敵味方の距離が縮まっていく様子をレーダーで確認しながら、さらりと涼しい顔をしてとても酷いことを言い放つシオン。


「それに相手は宙賊です。こちらが遠慮した制限下での戦闘を行ったとしても、あっちは全く関係なく全力使用してくるでしょうし」


 軍同士であったのならば暗黙の了解というものも理解されたのだろうが、宙賊がそう言った配慮というものを考えてくれるとは全く思えない。


「惑星を盾にされて、こちらの被害が増えるのも面白くありませんし」


「それはそうだな」


 見知らぬ相手よりも配下の兵の方が大事、というのは是非はともかくとして理解のできる話だ。


「最後に、制限付きで戦っても、結局撃沈された艦が出ると重力に捕まって地表へ落ちるので、いずれにしても大変な被害が出るんですよね」


 これも軍同士であったのならば撃沈前に戦いを止めるといった選択肢が存在するのだが、賊が相手の場合だと大体は撃沈か爆発四散するまで攻撃の手を止めない場合が多い。


「まぁ住民には運が悪かったと諦めてもらうしか」


 諦観をたっぷりと含んだシオンの言葉を皮切りにしたかのように、敵味方の予想射程範囲が互いの艦を捉え、艦隊戦が開始されたのであった。

ブクマや評価の方、よろしくお願いします。


頭打ちかなぁ。でもまぁ細く長く。

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