習熟航海の魔王さま
ノワール領周辺の男爵達がまとめて死亡した件を、大規模な宙賊の襲撃によるものだと広める件。
これについてはサーヤを筆頭としたメイド部隊が情報の流布と証拠の作成とを一手に引き受けることとなった。
何故メイド部隊にそんなことができてしまうのかとシオンはしきりに首を傾げていたのだが、サーヤに言わせると昔取った杵柄という奴で、しかも中央の目の届きにくい辺境でのできごとなのであれば比較的簡単にどうとでもしてみせますとのことである。
「頼んでおいてこんなことを言うのも何なんだが、お前のとこの人材、おかしいぞ?」
「魔王様にそう評価して頂けるというのは、光栄なんだかそうじゃないんだか、判断に困るところですね」
喜んでいいことなのやら、嘆かなければいけないことなのやら、本当に分からないと言った感じで答えたシオンが今いるのは、宇宙に浮かぶミドルシップ級航宙艦魔王城二号艦のブリッジだ。
艦長席には当然、魔王たるアインが座しており、シオンはその傍らにある副長席に腰かけていたのだが、彼らの前にいるのはモニターの下で忙しそうに働いているメイド部隊ではない。
「練度が低い、と評価します」
仏頂面でそう呟いたのはシオンの背後に控えていたサーヤだ。
ブリッジ内で唯一、メイド服を着ている彼女が忙しそうに働いている者達への評価を短く口にすると、それを耳にしていた者達がびくりと体を震わせておそるおそるといった感じでシオンの顔色を伺うかのように視線を向けてくる。
「大丈夫です。問題ありませんから仕事を継続してください」
何故自分がと思いながらシオンが安心させるようにそう言うと、シオンを見ていた者達はほっとしたような表情になりながらそれまで行っていた作業へと戻っていく。
「威圧しないであげてください。彼らは新兵とそう変わらないのですから」
シオンが作業中の者達をかばうようにそう言ったのには理由がある。
それは現在、魔王城二号艦を運航している人員がノワール領の軍人達。
つまり、シオンの配下の者達だったからだ。
これが通常の航宙艦であったのならば、それがたとえ新型の艦だったとしてもシオンの配下達とてそれなりに経験を積んできているのでそれなりの働きを見せることができていたはずだった。
しかし、相手が魔王城となってくると話が違ってくる。
故にシオンは新兵並みなのだからと言う言い方をしたのだが、サーヤには受け入れられなかったらしい。
「二号艦と言えども魔王城です。乗組員にはそれなりの者を乗せるべきだと思いますが」
「うちでは一線級の兵ばかりなんですよこれでも。そもそも既存の艦とは何もかもが違う魔王城をいきなり巧みに動かせと言われてもそれは無理ですよ」
「我々、兵ですらないメイドですが?」
「その基準で話をするの止めてもらえます? いつからメイドって究極の兵士っぽくなってしまったんですか?」
「魔王陛下に忠誠を誓った瞬間からですが?」
「とんでもないマジレスをされた!?」
二人の女性の会話をどこかで止めるべきなのかなと考えつつ、アインは手元のモニターへと視線を落とす。
サーヤは不満であったようだが、アインから言わせればシオン配下の兵の働きはまずまずの及第点と言えるくらいのものではあった。
それに今回の行動の主役は魔王城二号艦ではない。
これはあくまでも保険的な意味合いに加えて、シオンの配下の兵に魔王城の操艦に慣れてもらうための習熟訓練を兼ねたものなのだ。
では主役は誰が担当しているのかと問われれば、魔王城二号艦を旗艦として構成された、周囲に展開している百隻ほどの航宙艦がその主役である。
「魔王城の方はこれで構わないが、他の艦は大丈夫なのか?」
シオンとサーヤの会話に割り込むようにしてアインが尋ねると、サーヤはそっと目を伏せて押し黙る。
主であるアインがこれで構わないと言った以上、メイドである自分が何かを言うことはないとしての行動であるが、シオンは少しほっとしたように息を吐く。
「宙賊が使用している航宙艦は二線級、三線級の型落ち艦がほとんどです。それに対してこちらは一線級の艦艇ばかり。少なくとも艦の性能ではこちらが圧倒的に勝っています」
魔王城二号艦の周囲に百隻近くの航宙艦を展開させて、アイン達がこれから何をしようとしているのかと言えば、空白地帯となったところへ侵入してきた宙賊の討伐であった。
情報等を操作して、男爵領を侵略し、無法を行っていると言うことになっている宙賊に対し、ノワール子爵家が周辺地域の安全と自領を守るために挙兵したと言う行動であるため、主戦力は分かりやすくノワール子爵家の軍が務めることになっている。
今回は映像記録なんかも残すため、魔王城を単騎で突入させて蹂躙してしまうと言った手を使うわけにはいかない。
それだけにアインはシオンが持つ戦力で問題がないかを尋ね、それにシオンが答えたと言うわけだ。
宙賊等と言う存在しているだけで迷惑な奴らに、正規のルートで航宙艦や装備が流通するということはまずない。
何故ならそれは犯罪だからだ。
もちろん何事にも例外というものは存在しており、横流し品などとして最新の装備が流出するということがないわけでもないのだが、基本的に宙賊が使うのは型落ちの処分品や初期不良や故障によるジャンク品。
あるいは盗品などがその主な供給源であり、それ故に宙賊の艦は二線級以下の性能である物が多い。
宙賊相手なら、味方と同数の規模ならば圧勝でき、敵が味方の倍いたとしても少し苦戦するかなと言った程度。
三倍くらいの数がいたのならば、やや苦戦から多少は負ける目が見えてきたかなという程度で済むというのがシオンの見解だ。
そんな宙賊が男爵領を空白状態にしたというのは、どうにもウソっぽい話なのだが、奇襲に加えてかなりの数の宙賊が一斉に襲い掛かってきた、ということになっていた。
つまりこれからシオン達が行おうとしているのは、男爵達が散り、その戦闘の結果で数を減らした宙賊の掃討戦ということになっている。
「サーヤの調査で宙賊の最大戦力が駐留している場所は分かっています。それは惑星ジュール。駐留している戦力はミドルシップ級航宙船およそ二百隻です」
「お手並み拝見、ということでいいな?」
本当に危険なことになるようであれば介入するつもりはあるものの、可能な限りは様子見に徹すると告げるアインにシオンは少し緊張した面持ちでいながらも、しっかりと首を縦に振ったのであった。
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