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頭痛を抱える子爵さま

 サタニエル王国ノワール子爵領。

 それは王国の勢力圏内においては辺境中の辺境だと評価される領地だ。

 本当に王国勢力圏内の隅っこの方に位置しているそこは、王国内では他に類を見ない程に歴史のある子爵家が治めている土地ではあるものの、特筆すべきことがそれ意外にはまるで見当たらない。

 資源が豊富にあるというわけでもなく、特産品があるというわけでもなく、治安はまぁまぁで人口はそれなりにあるのだが、ただそれだけの探せば王国内にはいくつも似たような所があるような、平々凡々とした領地なのだ。

 そんな平凡なノワール子爵領なのだが、これまでは特に注目を浴びるようなことがなかったというのに、最近になって急にあちこちから注目を浴びるようなことになっていた。


「頭が痛いです」


 ノワール子爵の屋敷。

 執務室にある大きな机に座っていた、黒髪をポニーテールにまとめて、少しばかり目つきの鋭い女性が、座っていた椅子の背もたれに体を預けて天井を仰ぐ。


「何か問題か?」


 そう応じたのはその女性が座る机の向こう側に備え付けられているソファーの上でふんぞり返っていた若い男だ。

 こちらは黒髪を無造作に切りそろえ、黒を基調とした軍服に身を包んでいる。

 武装している様子はないものの、漂わせている雰囲気は不用意に近づこうものならば即座に何か取り返しのつかない事態を招きそうな危うさがにじみ出ていた。


「えぇ。問題なんですアイン」


「それは大変そうだな。シオン子爵殿」


 完全に他人事のような口調の男に、シオンと呼ばれた女性は渋面を向けたが、アインと呼ばれた男は素知らぬ感じでソファーにもたれかかったままだ。


「誰のせいだか、分かっていますよね?」


「その言い方からすると俺のせいのようだが。俺が一体何をした?」


 心当たりが全くないといったように、きょとんとした表情を向けられてシオンは深々と溜息を吐き出す。

 シオンからしてみれば、アインの反応は白々しいとしか言えない代物である。

 ただアインがしらを切っているわけではないということも同時にシオンには分かるのだ。

 物事と言うものは、絶対的な物差しが存在しているわけではなく、人によって受け取り方が様々になるものである。

 シオンにとっては頭が痛くなるような大事だったとしても、アインにとっては取るに足らない、覚えておくほどのことでもなかったと言うだけのことなのだろう。

 それは仕方のないことだということは分かっていても、だからと言って悩ましい頭痛の種が消えてなくなってくれるわけではない。


「先日の艦隊戦のことです」


 忘れてしまっているのであれば、思い出してもらえばいいだけだとシオンがそう言うと、アインはわずかに視線を宙へと彷徨わせてからぽんと一つ手を叩く。


「あぁなんかやったな。お前にコナかけようとしていたその辺の木っ端貴族の冷や飯食いのことか」


「その表現は間違っているというわけではないんですが……」


 歯に衣着せるだとか、オブラートに包んだ言い方をするとか、もう少しなんとかならないものかとシオンは思うのだが、魔王に配慮を求めても無駄なことだろうと言葉を濁す。

 アイン・ノワールは魔王である。

 しかも二千年前に、力で魔族を支配していた文字通りの魔王だ。

 詳しいことをシオンはあまりよく知らないのだが、何かしらの理由で二千年前に眠りに就いて、以降はその臣下であったシオンの先祖が代々守り通してきた存在である。

 何かの拍子に目を覚まし、それ以来今の当主であるシオンが自分の婚約者として登録し、戸籍やら何やらを整えて今に至っているのだが、およそ魔王という言葉が持つイメージがそのまま適用されているのがアインと言う存在であった。

 そんな彼からしてみれば少し前に戦った男爵連合軍など、そんな相手もいたっけなくらいなものなのだろうとシオンは思う。

 そんなシオンの様子にアインは少し首を傾げはしたものの、気にする程のものでもないと判断したのか話の先を促した。


「とにかくその先日の男爵連合軍との戦闘の件で問題が生じているんです」


「更地にしたんじゃないのか?」


 よく言われることではあるが、戦争の結果として敗者をどう扱うかについては、手厚く管理して何一つ不自由のないようにしてやるか、徹底的に破壊して何一つ残らないようにしてやるかの二択以外に問題を発生させない方法はないと言われている。

 アインとしては今のところ、ノワール子爵領ですらきちんと把握していない状態であるので、敵対した男爵達の領地のことまで考えている余裕がない。

 それ故にきれいさっぱりと更地にしてしまうか、最低でも男爵達に関連する部分は掃除するようにシオンへ言ったつもりであった。


「完全に更地にするのは、物理的に無理でした」


「無理か」


「はい。男爵領と言っても複数集まれば相当な広さになりますし、人口の方も何百億人かになってしまいますし」


 アインは魔王である。

 おとぎ話に出てくるような存在ではないものの、勇者と戦ってこれを倒し、いくつもの国を滅ぼしてきた存在なのだ。

 その考え方は二千年前の基準でほぼストップしており、男爵領と言われればこじんまりとした領地を想像してしまうのだが、二千年もの間に世界は大きく様変わりをしてしまっていて、一言で男爵領と言ってもその規模には雲泥の差がある。


「俺が魔王をやっていた頃は、数万から十数万も始末すれば国が滅んでいたんだがなぁ」


 世界が魔術を忘れ、科学によって星を脱出して宇宙という領域へ進出した結果、その人口は爆発的に増加しており、アインが魔王として動いていた頃とは桁が五つも六つも違うようなことになってしまっている。

 アインは魔王であり、必要であれば膨大な数の命を消費することも厭わない。

 厭わないのだが、これまで数万程度で済んでいたものが唐突にその何万倍もの数字を提示されてしまえばそれなりに迷うし考えてしまう。


「もう一つの問題として、いくつもの男爵領を更地にする程の人手や武器が全く足りないんです」


 それもそうかとアインは納得する。

 ノワール子爵領はあくまでも子爵領であり、保有している兵や武器は子爵という身の丈に合った規模のものでしかない。


「そういうわけですので、敵対した男爵家関連の施設と直轄地くらいでお許し願えないものかと」


「それは仕方ないな。許そう。それで頭痛の種というのはそのことなのか?」


 物理的に無理なことを無理強いしてみてもいいことは何一つない。

 アインはその程度のことは理解できる魔王であった。


「いえ、頭痛の種はその先のお話でして」


「何だ?」


「現在、男爵家関連に領地、施設を潰して回ってはいるのですが……潰しきる前にできてしまった空白地がありまして」


「うん」


「そこにかなり大規模な宙賊やら何やらが入り込んできてしまったみたいなんです」


 ちゅうぞく、とは何であったか。

 げんなりとした表情のシオンとは違い、どこかで聞いたような単語を耳にしたアインはいまだ全く事態が理解できていないと分かる目をシオンへと向けたのであった。

ブクマや評価の方、よろしくお願いします。


やや見切り発車状態で再開します。

進捗率14/80くらいです。

さすがに一日二回更新は難しいので、できる限り一日一回更新を

継続できたらなと思ってます。


それとサブタイトルはその1では「~魔王さま」で統一してたのですが。

さすがにそっちも難しいのでその2からは色々になるんじゃないかなと思います。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ライトなファンタジーSFって感じが好き [一言] 宙賊にイケニエってルビが付いてそう…
[一言] 待ってました!魔王様にとって賊は勝手に向かってきてくれる資源だからなぁ
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