比較する魔王さま
そんなアインであったが、何もさぼっているわけでもなければメイド達の敵艦をピンに見立てたボーリングめいた遊びに気を取られていたわけでもなく、別な目的をもってモニターやレーダーを見ている。
「何かお探しですか?」
「まぁな」
シオンの問いかけに頷きを返しつつ、アインの視線はモニターとレーダーの間を行ったり来たりしている。
「ちなみに何を?」
「敵将」
短く答えたアインの言葉に、シオンはなるほどと頷く。
敵艦を破壊して魔王城に捕食させることで手に入る資源の数々は確かに魅力的だ。
特に戦死者や捕虜を得ることで、そこから絞りだされる魔力は今のアインにとっては何よりも貴重な代物である。
しかし、それよりずっと重要であるのが今回の騒動を考え、実行に移した男爵達の身柄であった。
下手にこれを取り逃がしてしまえば、今回失った分の力をいずれ取り戻して、再度ノワール領へ侵攻してくるかもしれない。
それはそれで、再び大量の資源を入手できる機会だと考えることもできなくはないが、アインからしてみれば男爵達は二千年ぶりに目覚めて最初の自分へと弓引いた反逆者達だ。
おそらく知らないことだったとは言え、魔王にたてついた場合はどのような末路を迎えることになるのかを広く知らしめる必要があった。
しかし、とアインはモニターを眺めながら渋い顔をする。
そこに映し出されている映像は、アインが眠りに就く前では想像すらできなかった代物だ。
空に星があることは空を見上げれば分かることではあるが、まさか自分がその星々の真っ只中で巨大な金属の船に乗って戦うようなことになるなどとは思ってもみなかったことである。
それ自体はそういうこともあるのだろう位に考えていて全く構わなかったのだが、アインの顔を渋いものにさせているのはとにかく敵の見た目にほとんど変わりがなく、どの艦に敵将が乗っているのかさっぱり分からないということであった。
これがアインの知る戦いであったのならば、敵将や勇者、王族と言った主要な人物はある程度遠くから見たとしてもすぐにそれと分かるような恰好をしていたものである。
これには色々と理由があるのだが、とにかくある程度以上の地位にある者は大体が戦場において自分がここにいるぞと分かるようにしているものなのだ。
しかし、眠りから覚めた後の戦いにはそれがない。
モニターに映る艦影は種類の違いから来る形状の差は多少あれど、ほとんどが似たり寄ったりの形状をしており、どの艦に重要人物が乗っているのかさっぱり分からないのだ。
いくつかの魔術を試してみようかとも考えたアインなのだが、そもそも探す相手のことをほとんど知らず、そんな状態では使えそうな魔術はない。
これはもうお手上げで当たるを幸いに敵艦を破壊し、破壊された艦の中に男爵達が含まれていることを祈るしかないかとアインが思い始めた辺りで、モニターやレーダーの中に映る艦影のいくつかに、他とは違うことを示すマーカーが付いた。
「男爵家の旗艦を割り出しました。旗艦に乗っていないということは考えにくいですので、マークした艦を狙ってください」
何でもないことを報告するような口調のシオンにアインが尋ねる。
「どうやって割り出したんだ?」
「艦には個別の番号が振り分けられていますので、識別信号のリストから検索をかけたら出てきます」
「敵艦だろ?」
そう言う重要そうな情報は隠されているものではないのかと驚くアインにシオンは少々決まり悪そうな顔で言う。
「元々はサタニエル王国所属の味方艦ですから」
「内乱だろこれ? その辺りは処置してないのか?」
「敵味方の識別信号の発信装置は中の情報が重要なので、ほぼブラックボックスなんです」
内乱を企てた時に敵になる艦に情報がばれないようにしようと、発信装置を止めようとしても止められないようになっているのだとシオンは言う。
下手にいじくれば壊れてしまうもので、壊してしまえば今度は周囲の艦全てから敵と認識されてしまいかねない。
そうなってしまうと通信等ができなくなり、旗艦がそうなってしまっては全体の指揮を執ることができなくなってしまう。
「だからと言って……」
「そもそも内乱を起こすなという話なんです。もちろん他国との戦争になった場合なんかには全く使えない手です」
少々釈然としないものを感じつつもアインは口を閉じる。
何をどう言ってどう感じたとしても、これが今の戦争の仕様なのだと言われてしまえばそうなんですかと飲み込む以外にない。
「しかし、シオンが力技じゃない方法を使うとはなぁ」
「どういう意味ですかそれ? しかもこれって特に頭を使うような話じゃないですよ?」
「そうなのかもしれないが……どうもその顔を見ているとなぁ」
「もしかして私、初代と比較されてます?」
軍に在籍したことがある者ならば誰でも思いつきそうな話でしかないのにと憮然としかけたシオンだったが、アインの言うところを理解して驚く。
「奴はなぁ……完全に脳みそまで筋肉だったからな」
「そんなに酷かったんですか?」
聞きたいような聞きたくないような話ながらシオンがそう言うと、アインは少し遠い目をして視線を宙に彷徨わせた。
「忠義には厚かったし、武人としては申し分ない実力者だったが……アホの娘だったからなぁあいつ」
「アホって……」
「戦場に赴くのに、武器はいくらあってもいいと言って体中に武器をくくりつけた結果、重さで馬を潰した奴だぞ?」
「それは……」
「しかもどうせなら馬より走った方が速いとそのまま徒歩で出陣しやがった」
「それで?」
「味方を置き去りにして一人で戦場に到達。そのまま敵陣に突っ込んだ」
「うちの初代様って……」
「味方が戦場に到着した時にはもう、敵が全滅してたそうだ」
「アホですね」
もうそう評価する以外ないじゃないかと諦めた顔をするシオンに、そうだろうと同意を求めるアイン。
そんな会話を行う二人をよそに、航宙艦魔王城はメイド達の操艦により淡々と一方的に男爵家の航宙艦を蹂躙し続けていったのだった。
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いちおう次話で当初のストックが全て消費されます。
つまり、およそ単行本一冊分の十万文字ちょっと。
続きは鋭意作成中、具体的には進捗率7/40くらいです。
ある程度貯めてから放出するべきか、自転車操業的に更新するべきか。




