表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/126

蹂躙する魔王さま

 最初の標的となった艦の艦長は、自分の艦に何が起きているのか分からないままに混乱しかけていた。

 部下からの報告をそのまま信じるのであれば、敵艦であるノワール家の航宙艦から、通常は荷物や宇宙ゴミ、その他破壊された艦の破片などを牽引するために使われるトラクタービームの照射を受けていると言うのだ。


「何かの間違いではないのか?」


 トラクタービームは武装ではない。

 ただ重量物を引き寄せたり、一定の距離に保持しておいたりするための装置だ。

 照射されたからと言って船体に何かしらのダメージが入ったり、障害が生じたりするようなことはないのである。

 ラージシップ級の出力で照射されれば結構な引力を生じはするものの、それだけでしかない。

 その拘束力から脱出するのは多少骨が折れるかもしれないが、本当にそれだけのことなのである。

 まさか遥か昔にいたと言う、海の上を走っていた船のように船首に衝角をつけて体当たりがしたいわけでもないだろうと高を括っている艦長へ、部下が悲鳴を上げるような声で叫んだ。


「引力増大! 彼我の距離が……あれは何だ!?」


「嘘だろ、おいっ!」


「艦長! 外部モニターを!」」


 何が映っているのだろうかとモニターへと目をやった艦長は、そこに映し出されていた光景を目にして自分の目と正気とを疑う。

 そこに映っていたのは見るからに禍々しい形状をしたノワール家の航宙艦が一隻。

 トラクタービームの影響で、見る見るうちに近づいて大きくなっていく船体から絶対にそこに生えているわけがないものが複数、ゆっくりと自分達の艦の方へと伸びてくる光景がモニターに映し出されていたのだ。


「腕? 航宙艦に腕だと!?」


「か、艦長! ご指示を!」


「全力後退! トラクタービームを振り切れっ!」


 ミドルシップ級の出力ならば、トラクタービームが生じさせている引力を振り切って逃げだすことは不可能ではないはずだった。

 しかし、簡単に振り切れるはずのトラクタービームから、何故かなかなか逃げ出すことができない上に、ノワール側の艦が前進をし続けているために、あっという間に距離を詰められてしまう。


「本艦、捕獲されます!?」


「全砲門開けっ! ジェネレーターが焼き付いても構わんっ! 撃って拘束を断ち切るのだっ!」


 ノワール家の艦から伸びた腕が、近くまで寄った艦の外側へ張り付く。

 とたんに艦のあちこちで何かが潰れたり圧し折れたりする音と振動が走る。

 船体のダメージを知らせるモニターからは船体のあちこちで武装や装甲が破壊されているという情報が次々に吐き出された。

 このままでは何かに押しつぶされるということなってしまうのではという恐怖を押し殺して、艦長は声を張り上げる。

 敵艦との距離は至近であり、これだけ接近した状態ならば敵艦への攻撃は回避も防御もされにくいはずだった。

 ならば船体を掴む腕とトラクタービームとを振り払い、艦の自由を取り戻すためにはこれしかないと考えての指示に、乗組員達はよく応え、至近距離から敵艦へ致命的と思える攻撃が叩き込まれる。


「そんな馬鹿なっ!?」


 ミドルシップ級の全力攻撃を至近距離から受ければ、いかにラージシップ級の艦と言えどもただで済むはずがない。

 誰もがそう考えるであろう攻撃は、誰もがそう考えるはずの結果を残すことなく、撃ち込まれた攻撃は敵艦にダメージらしいダメージを与えることができなかったのだ。

 狙いを外すような距離ではなく、互いの艦がほぼ固定されているような状況では回避されたというわけでもない。

 つまりは受け止められてしまったのだ。

 至近距離からの全力攻撃をもってしても敵艦の防御力を抜くことができなかったという事実に唖然とする艦長だったが、その意識はすぐにモニターに映る敵艦の様子を目にして、現実へと引き戻される。


「なんなのだあれは……」


 それはおよそ航宙艦と呼べる代物ではなかった。

 敵艦の形状がおよそ普通の航宙艦とはかなりかけ離れているということは分かっていたものの、その舳先に横一文字に亀裂が走り、船体が上下に分かれてしまうことなど想像の範囲をはるかに超えた事態だ。

 そしてさらに想像の範囲外の光景が、現実のものとなってモニターいっぱいに広がっていたのである。


「艦長、あれは……」


 乗組員の一人が何か言っているのが聞こえてはいたのだが、艦長の視線はモニターへ向けられたままそこから動こうとはしない。

 距離が近づいているせいで補正の必要もなく、はっきりとそこに映し出されているそれは航宙艦の舳先が割れるという光景もさることながら、割れたその亀裂の中からぬらりと何かの粘液に塗れた肉色の穴と、その縁に規則正しく並ぶ無数の真っ白な牙。

 そして肉色の穴の向こう側からうごめきつつ伸びてくる、無数の触手の群れだった。


「私は今、一体何を見せられているというのだ? 我々は一体、何をここで相手にしていると言うのだ!?」


 何か事態を打開する指示を出さなくてはならないと頭のどこかでは理解しているものの、モニターいっぱいに広がるどう見ても生き物の口内にしか見えない光景と、その奥から伸びてくる無数の触手を目の前にして艦長の思考はそれらの情報を処理しきることができなくなり、ただうわごとの様に同じ言葉を繰り返しつぶやくだけになってしまう。

 その間に触手が艦へと取りつき、最初の犠牲者となるであろう艦の船体をずるりと大きく口内へと引きずり込んだ。

 そして顎が閉じられる。

 その牙は一体何でできているのか、航宙艦の装甲を易々と噛み裂いて、艦の一部があっけなく噛み千切られた。

 船体も内部構造も、そしてその場にいた乗組員達も一緒くたにして噛み砕き、どこへ納めているのか分からないながらに飲み下した魔王城は、全然足りないとばかりに半壊した艦をさらに口の中へと引きずり込んで噛み砕く。


「味方艦が……食われた?」


 どの艦の誰が言ったか分からない一言。

 それが何故か男爵家側の通信によって多くの艦に流れた瞬間、男爵家側の士気はあっさりと崩壊を始めたのであった。

ブクマや評価の方、よろしくお願いします。


次シナリオの進捗が6/40くらいなので、やっぱりちょっと時間を

頂かないとダメだろうなぁこれ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ